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三つ撚りの糸  作者: ほのぼの
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ひらりと、薄紅の花びらが舞う。その軽やかな動きは、揺れながらも進むべき道を探しているように見えた。自由であるようで、どこか風に縛られているその姿に、ふと自分を重ねた。


行き先を知らない旅路——それは希望なのか、不安なのか。


少し肌寒い朝の空気が頬をかすめる。柔らかな光が地面を照らしきれない薄曇りの空。制服の襟を引き寄せ、冷たい風を遮るようにして歩き出す。今日は中学校の入学式。新しい場所での第一歩に胸がざわつく。


知っている顔は、塾で一緒だったゆうちゃんだけ。彼女と知り合ったのはほんの数カ月前だが、いまの私にとって唯一の「つながり」だ。


これまでの私は、どこか孤独を選んできた。誰かと深く関わることに臆病だったのかもしれない。表面的な付き合いを保ちながら、来る者拒まず去る者追わず——そんなスタンスで過ごしてきた。でも、本当はその奥底で、何かしらの「結びつき」を求めていたのかもしれない。


「私の糸は、どこに繋がっていくんだろう?」


スクールバスに乗り込むと、ゆうちゃんと目が合った。彼女が明るく手を振る。


「おはよう!めっちゃ緊張するなあ。でもさ、このストッキング薄すぎやんな?寒いわ!」

「おはよう。ほんまそれ!しかも、この制服重たくて肩凝りそうやねんけど」


他愛のない会話が、少しだけ心をほぐしてくれる。ゆうちゃんと一緒なら、とりあえず今日一日はなんとかやり過ごせそうだ。


バスが停まり、目の前にそびえ立つ新しい校舎が視界に入る。その堂々たる佇まいに気圧されそうになりながらも、私は足を進める。


玄関が近づくにつれて、胸の奥にざわざわとした不安が広がる。知りたいような、知りたくないような——結果を待つ時間が昔から苦手だった。


思い返せば、入試の合格発表を待つあの数日間もそうだった。努力し尽くして手放した後に訪れる、ただ「待つしかない」無力感が、私の心を静かに締め付けていた。


ゆうちゃんが先に掲示板に駆け寄る。その背中がくるりと振り返り、声が響いた。


「クラス一緒やった!安心した~!」


その瞬間、胸の中にあった緊張がほぐれていくのを感じた。彼女の明るい笑顔に、不安が少しずつ溶けていく。


「ほんまに?よかったわ……」


安堵の息が漏れる。ゆうちゃんと同じクラスなら、少なくともひとりぼっちになる心配はなさそうだ。


「これからよろしくな!席も近かったらええのになぁ」

「せやな!出席番号順やったらワンチャン隣なるかも?」


笑い合いながら校舎の中へ歩き出す。それでも、胸の奥にはまだ小さな孤独の影があった。


ゆうちゃんとの関係は、どこか表面的だと感じていた。本当の意味での「絆」を、私はまだどこかで探している。


この学校で誰かと本当につながることができるのだろうか?それとも、また同じように「一人」を選ぶのだろうか?


そんな迷いを抱えた私が、「かな」に出会うのはもう少し先の話だ。


彼女は、自分を貫く強さを持った子だった。その自由奔放でいてまっすぐな生き方に触れたとき、私の中の「孤独の糸」は少しずつ変化していく。


でも、このときの私はまだ知らない。ただ、ゆうちゃんという一本の糸が、私の心を一瞬でも支えてくれていることに、静かに感謝していた。


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