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Episode 97 Naoya side 楽しんだ先に

 やりやがった。一番に頭の中で浮かんだ言葉が口から漏れてたかもしれん。やけど、目の前でアイツは大会記録を更新して優勝した。

 今度は俺の番か。よりプレッシャーをかけてくんなよな。なんて思いながら、静かに闘志を燃やしながら、始まろうとするレースに集中する。


「それでは、男子50メートル自由形決勝に出場する選手は準備をお願いします」


 さて。俺もいよいよや。そう思ってゴーグルをしてからシリコンのスイムキャップをかぶる。

 心の中では、あいつに続かな、馬鹿にされんで。それだけは癪やけど、半フリに関してはスタートひとつ、浮き上がり一つ順位がゴロッと変わる。集中するポイントは予選の時と変わらへん。


『第4レーン、原田くん、扇原商業』


 そうアナウンスされ、ゆっくりとメインプールに入り、ターン側に向かって歩いていく。

 いろんな声が混じって雑音にしか聞こえへん。正直言うて、今の俺の頭の中はかなりすっきりしてる。

 大神のレースを見たからとか、周りの声を力に変えてるとかやないけど、いらんことを考えんですんでるからありがたい。


 ゆっくりとかつ、堂々と歩いて、自分のレーンの前に来ると、さっき大神が使ったスタート台の羽根の位置を調節し、固定したことを確認してから、椅子に座り、シャツを脱ぎ、近くに設置してあるかごの中に入れる。

 そこから、長い笛が鳴るまでじっと動かず集中して、レースに備える。

 場内はまだ騒がしい。それぞれ、自分が出場している学校の選手を応援しているやろう。とは思いつつ、笛が鳴るのを待つ。

 そして、ざわつきを抑えるかのように、鋭く、緊張感を増長させるように審判長の笛が響く。

 しかも、気持ち、女子のときより、鋭く響いている気がすんのは気のせいか?

 まぁ、競泳界で1番短い時間で終わる競技の一つ。全力で応援すんのは当たり前か。なんて思いつつ、少しだけ笑みを浮かべ、プールの奥を睨む。

 周りは依然として、ぱちぱちと身体を叩く音がやかましく聞こえる。

 相変わらずやなぁ。と思いつつも、長い笛が聞こえたから、予選の時と同様、スタスタとスタート台に乗って、スタートの構えを取る。

 笛が鳴るまでは問題児、笛が鳴ってからは優等生やろ。とは自分で思ってるけど、周りからはどう見られてるんやろ。なんて思いつつも、静かに構えを取り、スタートの合図を待つ。


 そこからほんの数秒……やったけど、それが長く感じた。

 そして、「よーい」と言われた後、わずかだけ間を空けてからスタートの合図が鳴る。

 予選の時同様、合図の瞬間、全身を縮めたばねの解放するように飛び出し、理想通りの入水をイメージして水中に飛びこむ。

 入水した後は、予選の時と同様、ストリームラインを意識し、身体をバランスを落ち着かせるために気持ち一瞬待った後、豪快にドルフィンキックを打って浮き上がりを合わせる。

 ……よし。浮き上がりも完璧。ストロークのリカバリーも重くなかった。ここからは、ノンブレスで突っ込むだけ。

 たった20秒ちょっとのワンウェイレース。誰にも負けへんって思いながら、最後まで突っ込む。

 ハーフラインもあっという間に超えて、快調に飛ばせてる気がする。朝に予選を泳いだけど、それでもまだまだ腕や足は軽い。

 まぁ、たった50しか全力で泳いでへんわけやし、こんなんで身体にガタが来とったらヤバいやろ。

 そんなことを主ながら、ラスト5メートル。気を抜いたら一発で抜かれる。

 ラストまで流すことなく、最後まで突っ込み、タッチ板を殴りつける。

 そして、後ろを振り返り、自分のタイムを確認する。

 ……おっと。予選よりタイムを落として、4位まで順位を落としてしもうた。

 こりゃ、大神と美咲と合わせる顔がないな。


『新記録のお知らせをいたします。ただいま、第4レーンを泳ぎました原田くん、扇原商業は、22秒49、22秒49の今大会新記録ならびに高校新記録を樹立いたしました』


 ……はっ?……あぁ、見間違えてたんか。下の5レーンの選手のタイム見とったわ。っていうか、また高校新記録行ってもうたか……。なんか、いろいろ実感が湧けへんから怖い。

 周りのなんかさばさばしているのは気になるところではあるけど、まぁ、それは俺が招集場所で誰とも話さへんかったからやろうなあ。と思い、気にしないでおく。

 そして、俺も横から上がろうとしたけど、役員の人に、正面から上がってと言われ、そういえば、大神も何とかして正面から上がってたなと思い、少しだけ勢いをつけて、水上に上半身を持ち上げ、そのままプールサイドに上がる。

 まぁ、大神と違って、身長も高かったら、腕も長いし。これくらいは余裕やわ。……こんなん、大神に聞かれたら「直ちゃん!何ちゅうこと言うねん!」って怒りそうやけどな。

 なんやろ。想像しただけでおもろいやん。このあとやってみよかな。タイミング合えば。

 そんなことを考えながら、インタビュースペースに向かい、インタビュアの人と軽く会釈し合い、ともに「お願いします」というと、インタビューが始まる。


 なんだかんだ言いながら直哉も優勝してしまいましたね。

 直哉も遊菜同様、楽しめればそれでオッケー。そんな思いだったのでしょうか?

 まさか、自分の名前も確認せずに、電光掲示板を見間違えるのは、冷静な直哉らしからぬ行動でしたね。

 それでも、こんなに成長した二人。

 美咲は見るのが楽しいのでしょうね。


 おめでとう、直哉

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