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Episode 94 Yuna side ちょっと早いんちゃうん?

 直ちゃんに言われて準備始めたけど、招集場所の壁にかかっている時計を見たらまだ時間に余裕があった。というか、ありすぎる。

 まぁ、たぶん、咲ちゃんの指示で、ストレッチとかさいて、緊張をほぐしってことなんやろうけど、正直、まだ実感が湧かんのよね。

 そもそも、大会記録を更新したのも、ほんまにうちなんかってまだ思ってるくらいやし。

 でも、何て言うか、1日1レースだけやと思っとったのに、もう1レースできるんは大きいな。なんか、得した気分。

 それに、なにより嬉しいのは売れ、予選でもそうやってんけど、なおさら速い選手たちと一緒に泳げること。アップ中、それに気づいて、めっちゃテンション上がってメニューの途中で飛ばし過ぎかけたんは秘密の話な。

 とりあえず、もうレーシングウェアに着替えたわけやし、これでもっかいサブプール~。なんて言ってられへんわけやから、おとなしくストレッチしてゆっくりしますか。

 そんなことを考えつつ、壁際まで行って、周りが見えるように座ってからストレッチを始める。


 なんていうか、今までこんなに、心にゆとりのあるレースなんかあったかな。ってくらい、今のうち、ものすごい落ち着いてる。

 今まで、どんな大会でも気持ちが上がって落ち着いてられへんかったのに。それが予選やとしても、決勝やとしても。

 周りにほかの種目に出る同級生や後輩、先輩がいても、誰とも話さず、ずっとひとりでオドオドしてた。

 さすがに記録会や大会かわからんような小さい大会はそんなことなかったけど、やから、7月にあった八商大会は上がることなく、心の底から純粋に楽しめた。

 それとは比べもんにならへんインターハイ。自分でわかるくらいすごく落ち着いてる。逆にそんなうちが怖いくらい。

 なんでやねんやろう。とクリアな頭で考えるけど、たぶん、これが夏のラストレースやからとか思ってるんからなんやろうか。秋にも何試合かあったはずやけど。

 でも、ずっと目標にしとった舞台に繋がるレースは今回で終わり。悔いのないように楽しむだけや。

 そんなことをもいながら、身体をグッと前に折って前屈をする。

 もともとガチガチってわけやなかったけど、高校生になって、咲ちゃんと直ちゃんの2人から言われて、柔軟に時間をさらにかけるようになってから、さらに体が柔らかくなり、とくに、ドルフィンするときに、より力が入るようになった。

 これだけやないけど、マジで咲ちゃんも直ちゃんも泳ぐことを短期間の競泳と捉えずに、長期間のフィットネスと捉えてるんかなって感じた。

 せやないと、柔軟にこんな時間をかけることなんてせんやろうし、中学の時、夏は一切柔軟なんかせんかったし。


「うぃ、お疲れ」


 いろんなことを考えながらずっと体を折り曲げたままにしていると、誰かが声をかけてきて、身体を起こすと、足だけ見えた。

 誰やと思って、見上げると、クラブシャツを着た直ちゃんやった。


「お疲れ。どないしたん?直ちゃんも柔軟?」

「そらそうやん。今からレースやで。ちょっとばかし柔軟しながら、ガッチガチに緊張してるやろうお前と話しよと思うてな。ただ、その顔見てると、そうでもないみたいやな」

「今だけな。今はものすごい落ち着いてるわ。レース直前になったらどうなるかわからんけど」

「そうか。ほんなら、大丈夫そうやな。そんなお前にええ情報貰ってきたで」


 そういうと、直ちゃんは、悪そうな笑みを浮かべた。


「めっちゃ悪い顔をしてんで。まぁ、気になるから聞くけどさ」

「宮武さん、代表合宿行ってから、フォーム見失ってスランプや。俺らにちょっかいかけとったんも、スランプでタイム出ぇへん腹いせらしいわ。早い話、向こうは泳ぐことを楽しめてない。お前さえ、緊張さえも楽しめてたら、勝ち目あるぞ。周りに流されんなよ」


 スランプか……あのときのうちと同じ気持ちなんかな。って、少し同情してしまった。


「うちは幸せもんやな」

「はっ?」

「あっ、いや、宮武選手に対する嫌味ちゃうで。うちにも、長いトンネルで迷子になったことがあるから、そのときの気持ちなんやろうか?って話。知っとるやろ?うちの中学時代」

「あぁ、美咲から聞いてるで。まぁ、言うて、俺も中学んとき、短い間、タイム出んくて、発狂しとった時期はあったけどな」

「そうなん?そういう風には見えへんけど」

「俺にもあったんやって。その時は今みたいな考えやのうて、俺の中では根性論で突っ込んどったわけよ。当時からスプリンターやったわけやし。やけど、中3の近畿が終わった後にパタッとタイムが出んようになって、顧問から『上がれ!』って怒鳴られて、泳がせてくれへん理由も聞かれへんまま外周させられてさ。まぁ、あとで聞いた話はフォームがバラバラやったから、リセットさせるために上がらされたんやけどな」

「ほんなら、スランプのまま行っとったら、ここに立ってへんかったんやろうな」

「たぶんな。でも、顧問のおかげってのはあるわ。そこが原点になってるし、美咲も同じ中学出身やから、美咲が継承してるってのもあるし。いかんせん、俺らは恵まれてるって話よ」


 対抗するわけとちゃうけど、うちは直ちゃんたちよりも恵まれてると思う。

 一度はやめた競泳にイヤイヤ戻って来て、そこで直ちゃんと咲ちゃんに会って、楽しめるようになったんやから。

 まぁ、直ちゃんから初めて話を聞いたときは、ちんぷんかんぷんやったけどな。


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