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Episode 93 Carin side 認めたくない

 なんなの?ほんとに。みんなして私のことばっかり。

 確かに、ちょっかいをかけようとした私が悪いことはわかってる。自分のことに何ひとつ集中できていない証拠だ。

 もう、本当に自分でも何がしたいのかわからない。


「花梨。さっきの男の子から伝言」


 真理奈がいつの間にか反対側にいた私のところに来ていて、声をかけてきた。


「嫌味?それなら、何にも聞かないけど」

「競泳の女神は楽しんでるほうに微笑むよ。ってさ」


 どういうことよ。意味の分からないことを言わないでくれる?ただでさえイライラしているのに。そんなことを思い、嫌悪感を丸出しにしてしまった。


「……どういう意味よ。楽して勝とうなんて、そんなことできるわけないじゃん」

「違うよ。そういう意味じゃないって。自分を追い込みすぎて苦しんだままタイムは伸ばせないしさ、辛いだけじゃん。でも、あの人たちは、自分たちが楽しむために泳いでる。速くなることは、楽しく理解して、工夫して練習してるからって言ってた」

「楽しくやってるだけで早くなれたら、みんな速くなってるよ。馬鹿なんじゃない」

「それがより効率のいい練習だとしても?」

「どういう意味?」

「彼が泳ぎだした時、チラッとビート板に張ってあったメニューを見させてもらったの。半分フォームチェックって書いてあった。とくに、ダッシュメニューの合間に挟まっているものもあった。たぶん、あの人の速さの秘訣はフォームだと思う」

「それだったら、私もやってるじゃない。何が違うって言うのよ」


 私だって、フォームを見直す時間はいくらでも取ってる。

 コーチに動画を撮ってもらったり、レースの動画を見返したりして、いろんなことを試している。

 私が世界に通用するために。

 それなのに、何も考えず楽しくやってるだけの人に予選を抜かれているんだよ?わけわかんない。


「そう言うことじゃないって。普段から泳ぎながらフォームを固めてるってこと。向こうのコーチに話は聞いてみないとわからないけど、たぶん、強さは、抵抗の少ないフォームだと思う」

「パワーじゃないって言いたいわけね。でも、世界に目を向けるなら、それだけじゃ、絶対に世界と戦えない。それがわかってるから、よりパワーの伝わるフォームを研究してるって言うのに」


 世界で肩を並べて戦えるようになりたいから、こうやってフォームを変更している。それでも速くならいなら、ほかの方法を考えるっていうのに。


「確かに、今の花梨には、タイムがいちばん重要かもしれないけどさ、でも、そのタイムすらもうまく行ってないんでしょ?なにか変えないとそのタイムすらズルズルと遅くなっちゃうよ?それでもいいの?」

「真理奈には関係ないでしょ?これは私の問題。私がどうにかしなきゃいけない問題なんだから、話に入ってこないでよ」


 今は、たぶん、何を言われても素直になれないと思う。

 スランプから抜け出そうと、もがいてる自分がものすごい嫌になる。

 泳いで、タイムを見て、これは私の実力じゃない。って思うことばっかり。

 威厳って言っていいのかわからないけど、地区大会も地方大会もトップで通過してきた。

 地区大会の前にヨーロッパグランプリで遠征に行っていて、その時からタイムがイマイチだった。それがずっとずるずるきてる状態。

 いくらフォーム修正をしようと、どのフォームを試したとしても、身体になじまない。

 このことに関しては、いろんな人に話を聞いた結果であって、聞ける人全員に聞いたけど、こんな結果だから、もう、どうにもならないと思ってる。

 最近では、独学で海外の選手のフォームを参考にしようと研究を始めたところ。

 この大会でいろいろ試してから、パンパシ大会に挑もうと思っていた。

 だけど、そこに思わぬ伏兵の登場で、それどころじゃなくなった。

 さすがに水の申し子って言う異名がある以上、ここで負けるわけにはいかない。こんなところで撒けたら異名の名前が泣く。それだけは絶対にさせない。

 そう思うと、真理奈が何か言った気がしたけど、無視して全力で泳ぎだす。

 まるでなにかをぶつけるようにイライラしながら。


「あんた、その泳ぎ方と感情。そのうちほんまに女神から見放されんで」


 スタート側に戻ってきたとき、そんな声が聞こえて、顔を上げると……というか、身長が高すぎて、ほぼ上を向くような感じで見上げると、顔が見えた。

 さっきの男子か。


「あなたには関係ないことよ。これは私自身の問題。関係のない人は口を挟まないでちょうだい」


 これほどまで私のことを気にしてくれる人はいないんじゃないかと思えるけど、あくまでも、私の問題。聞ける人全員に聞いてもフォームがつかめないんだから、素人に聞いたところでどうにだってならない。

 それでどうにかなるんだったら、とっくに私だってどうにかなるってはず。


「そうかい。ほんなら、あとで後悔しても、俺らにはなんも言わんといてや。一応、素人ながら、水泳バカは忠告してんから」

「私が後悔?笑わせないでよ。後悔したことなんかないから」


 その男子は、「どうだか」とだけ言うと、更衣室のある方へ歩いていった。


 とりあえず、私も決勝に向けて準備しよう。

 インターハイで女子の半フリを制するのは私なんだから。


挑発して挑発される。

強気が裏目に。

自分の弱さをイライラにぶつけ、どうにかしようとする。

水の申し子は、どうなるのでしょうか?

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