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Episode 91 Naoya side 緊張の決勝に向けて

 昼食も摂り終わり、ざわつきのように聞こえる応援をBGMにしながらしばしうたた寝。

 顧問の長浦先生も、俺らが買い出しから戻ってくるや否や、「俺も飯食ってくるわ」と言って、階段を下りて行った。

 ほんまやったら、床にマット敷いて寝転びたいところやけど、弱小校の俺らがそんなことできるわけもなく、少し窮屈な座席に座りながら、ウトウトしている。

 パッと隣を見ると、大神は自分の小ささを活かし、丸まるように足を抱えて寝ている。器用やなと思いつつ、美咲の方を見ると、頬杖をついて爆睡している。

 まぁ、美咲も朝からと言わず、ずっといろいろやってくれてるからな。ほんまに感謝やで。美咲のサポートがなかったら、絶対、ここまで来れてへんやろうし、中央大会で終わっとった気がするな。

 あと、大神の存在も意外とあるかもしれん。

 あいつが後ろにおるから。とか思ってずっと気も抜かれへんし、何て言うか、身体こそちっちゃいけど、たまに遊んでるシャチに追いかけられる気分になるんよな。

 練習メニューに“ダッシュ”ってあったら、絶対全力やし、手も抜かへんし。そんな全力やのに、追いつかれる方がダサいよな。

 やからってわけやないんやけど、いつまでも全力な大神のおかげでタイムも伸びたんとちゃうかなって。

 1人やったら、絶対頭打ちになっとった。何回も言うけど2人に感謝や。


「ふぁ~……。ねっむ」


 大きなあくびをして目を覚ました大神。ぽけーっとした顔が、ほんまに予選トップのやつなんかって思ってまうくらいアホ面。それに見て、ちょっと顔を背けて笑ってもうたんは秘密の話にしといてくれ。


「よう寝とったな。隣におる美咲みたいに爆睡ってわけやなかったみたいやけど」

「あぁ、そう?まぁ、眠いもんは眠いからしゃあないって。……うぉっ、咲ちゃんが爆睡してる。珍しい光景とちゃうん?」


 その美咲を見て大神は驚いていて、慌ててスマホで写真を撮っていた。


「いつも頑張ってくれてんねんから、今日くらいそっとしたってもええやろ。1番は、俺のわがままを聞いてくれるんやから。美咲には正直、めっちゃ感謝しとるんやで」

「正直、うちも。水泳部に咲ちゃんがおらへんかったら、うち、たぶん、競泳はやめたまんまやったと思うし」


 確かに、大神はそうなんかなって思う。

 入ってきた当初はほんまに幽霊部員になるんとちゃうかなって思っとったのに、プール掃除が終わった後、泳ぎ始めの翌日から、堂々と俺のレーンに殴り込んで来た。

 そこから、大神にものすごいライバル視されながら、あぁいう感じやもんな。


「お前はいろいろあったもんな。美咲から話は聞いたことあるけど」

「まぁね~。うちもいろいろあって成長しとるからね~」


 大神は大あくびをしながら言うから、もう、威厳も何も感じひん。

 なんていうか、見方を変えたら、俺と美咲が選手で、大神がマネージャーって見られてもしゃあないんちゃうかなって思う。

 こんなことを思うのはどうかと思うけど、まぁ、今は、レースに集中できたらええか。


「とりあえず俺らもサブプール行ってアップ始めるか。寝て多分、身体、硬なってるやろ?」

「せやね。眠気覚ましの代わりに泳ぎましょか。メニューはどうする?持ってんの?」

「美咲からもらってる。気ぃついたら、ラインで送られてきとったわ。これを少しだけ変えたらええくらいになるやろ。適当に終わるところはあるやろうけど」

「まぁ、それでもええんちゃう?うちらが完璧に泳いで、咲ちゃんに恩返しできたら。うちにはそれでしか返されへんしな」


 大神の言う通りだよな。ほんま、美咲には助けられたから、ええ形でタイムと順位を残して、感謝を伝えなな。


「起こすのもかわいそうやし、このまま行くか。俺からラインのメッセージは残しとくわ。目が覚めて、俺らがおらんくても慌てへんやろ。メッセージありゃ」

「やと思うで。こんなとこで変なこと言わんやろ」


 まぁ、美咲の性格なら、俺らのこともわかってくれるか。こんだけ俺も美咲も大神もみんな水泳バカやねんから。


『サブプールで決勝に備えるわ』


 そんなメッセージを送った後、美咲が左手に持ってるスマホがピこんと音を立て、送ったメッセージが届いてるのを確認してからさっきと同じ荷物を持って階段を降りて行って、サブプールを目指す。

 さすがに予選のレースも順々に終わっているようで、戻ってくる選手も多くなってきた感覚。

 サブプールからは、はっきりと2つの空気を感じる。

 今から決勝だという威圧感と、予選落ちした悲壮感。その空気の中心にいるのが、本気な顔をしている宮武選手。

 ひとつも笑った顔を見せへん?ってことは、かなり大神を意識してるんやと思う。

 ただ、なんていうか、派手に泳ぎ散らして、周りを威嚇しているようにしか見えへん。

 正直なことを言うて、何してんねん、この人。と思いながら、スローペースで泳いでいるレーンに入って、ゆっくりとアップを始めていく。


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