Episode 89 Misaki side 驚きの連続
ほんま、エグイことしてくれたで。
2人そろって大会記録を更新して決勝にコマを進めてた。
正直、ここまで来るとは思っていなかった。たぶん、場内にいる誰よりも、私が驚いている自信がある。
それに、一緒にレースを観戦していた長浦先生も、あんぐりと口を開けてしばらく固まっていた。
「やっちゃいましたね、2人とも。予選ですけど」
「せ、せやな。ここまで来るとは思えへんかったな。2人とも決勝に残るだけやなくて、まさか、大会記録を更新するとは思わんかったな」
会話が続かないけど、でも、これで先生も動揺しているのがわかった。
たぶん、これを水泳部に伝えると、とんでもないことになると思っているから、これに関しては、部員をどこかの部屋に集めてもらって、テレビ観戦してもらおうか。って考えるくらい。
2人して、直哉と遊菜の成績に信じられないというような感じで、ともに言葉が出ないまま予選のレースが進んでいく。
その大会記録を更新した2人が戻ってきたのは、男子の2フリの途中だった。
「お疲れ様。2人ともやりよったな。たった100分の1だけやけど、大会記録も更新してさ」
「えっ、ほんまに、更新しとったん?」
直哉は、ほらな?といった顔をしていたけど、遊菜に関しては、「ほんまに?」というような顔をした。
その姿を見て、やっぱり、気付いてなかったか。なんて思った。
まぁ、普段から眼鏡をしないのに、目が悪い遊菜だもんな。それでも、泳いでいるときの遊菜は度入りのゴーグルをしていたはずだけど、今日に関しては、いつもと違ったゴーグルをしていた。
もしかして、度が入っているかどうかはわからないけど、ゴーグルを変えて、集中していたのか?なんて思ってしまったけど、それは、本人の口から聞かないとわからない。それに関しては、後で聞くことにするか。
「ちゃんと証拠の写真もあるで。ヒートで泳ぎ終わった後すぐと、タイム順と並んですぐと」
「……うわぁ。ほんまや。こんなことあってもええんか?うち、予選落ち確定やと思っとったのに。もっかい身体温めなおさなあかんやん」
「やから何回も言うたやろ?大会記録更新して、ヒートトップでファイナルって」
「なんか、なおさら夢のように感じてきたわ。すんごい調子がよかったんはあるんやけど、なんか、ここまで来ると、ちょっと気持ち悪いな……」
どうやら、直哉は何度も遊菜がヒートトップだということを言ったらしい。だけど、それを頑なに認めなかった遊菜は、自分で自分のタイムに引いている。でも、それも無理はないと思う。
ノートを見返していたから、遊菜の自己ベストが近畿大会から3週間ほどしかたってないけど、2秒近く縮めていたから。
そこには私も驚いているけど、あえてこのことは言わないでおこう。長浦先生も直哉も混乱を起こすだろう。
……っ!そんなことを思っていたけど、直哉も3週間で1秒半縮めていた。
なんていうか、2人とも、化け物だ。そう呼んでも問題はないだろう。
「とりあえず、2人ともたぶん、決勝のレース、センターラインで泳ぐことになるやろうな。言われんでもわかると思うけど」
「大神に関しては、隣に水の申し子やな。あの人、予選2位やったから」
水の申し子?どこかで聞いたことある異名だな。どこでだったかは忘れたけど……。
「嘘やん!?宮武選手も出てんの!?」
そうだ。遊菜の声で思い出した。今、高校生スイマーの中で一番有名で、国際大会にも選出されている、天才スイマーの宮武花梨選手だ。
「インターハイ終わった翌日からアジア大会やっていうのに、ようやるわ」
「やっぱり、プログラム見ても間違いやなかったんやね」
「誰も寄せ付けへんオーラは出してたわ。まるで、私が女王よ!って言わんばかりにな。俺も、招集受けて、居心地悪いな。なんて思いながら周りを見渡したら気づいただけやから、話しかけはせんかったけど。まぁ、そもそも、レース前やのに、話しかけられへんわ」
まぁ、それはそうだろう。私だってレース前に図々しく集中力を高めている選手に話しかけるなんてことはできない。
「とりあえず、ちょっと早いかもしれんけど、昼にしようや。早めに飯食って決勝に向けてのアップしに行こうや」
「せやね。うちは身体を戻しにかからなあかんし」
たぶん、直哉もそうなんだろうけど、一度クールダウンをしているみたいだし、お昼ご飯も食べるわけだから、調整はいつもより難しいと思う。
化け物2人を従えたマネージャー兼コーチの美咲。
実績は十分なところですが、決勝に進む遊菜と直哉、どういう姿を見せてくれるのでしょうか?




