Episode 8 メニューの解説
ただ、今日は1つだけ変化が見られた。
3本目に福浦先輩がバッタで泳ぎだした。ちょっと驚いて凝視してしまったけど、泳ぐ分には問題ないみたい。それに、たった50だけだったけど、泳ぎも軽そうに見えたし、特にいうことはない。いつものように綺麗なフォームだ。
一方、直哉と大神ちゃんの2人は、2人の功績に似合わないほどゆっくり泳いでる。まぁ、身体をほぐすという意味でのアップだから、特に文句も言わない。これをメインメニューでやられたらさすがにキレるだろうけど。
適当なスピードでアップを終わらせた4人。ここからはいつものメニューが少しの間続く。
「スキップス、ワンエイトツークォーター、チョイス」
「えい」
ここも少し変えた。慣れてきたと思うし、サークルを15秒ほど短くした。
……えっ?メニューの中身が全くわからない?あっ、そっか。そういえば、メニューの説明をしてなかったよね。
まず、さっき軽く泳いでいた『アップ』というのはウォーミングアップのこと。ここはどの競技もほとんど同じ呼び方をすると思う。
で、『スキップス』というのは、各メニューの頭文字を取ったもので、たいてい100メートルか200メートル単位で泳ぐメニューになるけど、距離を四分割にして、スイム(普通に泳ぐこと:Swim)・キック(Kick)・プル(Pull)・スイム(Swim)の順で泳いでいく。要するに、時短メニューよね。
たぶん、これをアップメニューで取り入れるところもあるだろうけど、私は、アップである程度戻した身体をさらに集中させてほぐすために取り入れている。
そのあとに続く数字の英語は順番に、距離・本数・1本単位のサークル。
基本的には本数は数字で伝えて、距離やサークルには『ハーフ』や『クォーター』と後ろにつけるときがある。それは、基本の距離が100メートルで、サークルは1分。『ワンエイトツークォーター』と私が言うなら、『100メートル8本2分15秒サークル』と言う意味になる。
最後に、さっきはいわなかったけど、『チョイス』とか『エスワン』と言う時がある。
これは、泳ぐ種目の制限。『チョイス』なら、「何を泳いでもいいよー」と言う意味。『エスワン』と言うなら、「あなたの第1専門種目だけ」と言う意味になる。ほかに、バッタ・バック・ブレ・フリー・混メとか言い方があるけど、それぞれ、バタフライ・背泳ぎ・平泳ぎ・何でも(私はクロールと解釈)・個人メドレーの略称。
人によって言い方や表記の仕方が違う人もいると思うけど、私はこうだから、このまま勧めていくね。
まだアップ気分なのか、直哉と遊菜は優雅に泳いでいく。ただ、鮎川先輩と福浦先輩は、サークルの間で休憩を取ろうとしていて、結構序盤から飛ばしてる。それでも、直哉が少し力を抜いても、直哉が前に出るんだから、やっぱりすごいよね。
「まだ楽勝そうやね」
「これくらいな。サークルあと20秒削っても大丈夫やと思うわ」
「でも、うちの中ではアップやから。慣れてきたと思うから、サークルを削っただけ。当分はこのまま行くから」
「はいはい。わぁってるよ」
そんなことを言いながら、直哉は2本目を泳ぎだした。
そして、いつもよりきつくしたメニューに4人とも息を切らしながらすべてこなした。これが慣れたら相当速くなっていることだろう。
そして、部活が終わろうとする間際、部長が沙雪先輩と話しているのが見えて、ホイホイと側に寄る。
「そろそろ記録会せなあかんな。地区大会のエントリーもそろそろやらなあかんから」
「せやね。どうする?1日潰したほうがええと思うけど」
「そうなるやろうな。たぶん、平日は無理やろ。タイムってなったら、それなりの準備もするやつはするやろうし。それやったら学校が休みの日やな」
「じゃあ、土曜日にしませんか?ちょうど泳ぎだして1ケ月ですし、どれだけ伸びたか実感してもらうにはちょうどいいと思うんですけど」
「おっ、伊藤さんか。そうやな。ほな、……って、土曜日って、明々後日やん。えらい急やな。でも、まぁええか。わかった。ほんなら土曜日に記録会な。あとでそれみんなに伝えるわ」
ということで、いとも簡単に記録会の日程が決まった。それが決まれば、家に帰ったら記録会の準備をしようか。