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Episode 86 Yuna side うちのレース

 メインプールに出たうちは、インターハイという空気に飲み込まれそうになりながらも、なんとか、自分が泳ぐ8レーンの前に来た。

 ふぅ。っと一息ついてパッと前を見ると、前を泳ぐ選手は、そろそろフィニッシュかな。距離感がわからんから、なんとも言われへんけど。

 とりあえず、スタート台の羽根をうちの歩幅に合わせて、動かんか確認してから、シリコンタイプのスイムキャップを被る。

 よし、これで完璧。あとは、自分の力を信じて突っ込むだけ。負けへんからな。周りにも自分にも。

 そう思ったと同時に、『同じく予選2組の競技を行います』と冷たいアナウンスがあった後、鋭い笛が鳴る。


「シャア!」


 いつもなら、スタート台に登ってから吠えるけど、今日は、いろんな怖さを吹き飛ばすために、先に吠えたかった。

 笛が鳴る前は、さすがにずっと場内が各選手の応援の声であふれていて、それが騒音のようにも聞こえる。その中でうちが吠えたところで、場内の騒音が静かになることはなかった。

 吠えたすぐ後に、長い笛が鳴り、うちを含めた選手8人がスタート台に上り、ゆっくりと身体をかがめ、スタートの姿勢を取る。


「よーい」


 この声でほんの少しだけ身体を弓のように後ろへ引き、しっかりと止まると同時に、目を閉じ、この後聞こえる音に集中する。

 場内の騒音はなくなって、かなり静かになって聞こえる。


ピッ!


 レース前。静寂の中でずっと聞きなれた音。聞き逃すわけもなく、聞こえた瞬間、全身のバネを使い、水中に飛びこむ。

 水中に飛び込んだ後、一瞬だけ我慢して姿勢を安定させてから、咲ちゃん直伝のドルフィンキックを惜しみなく打ち、加速を促しながら浮き上がってくる。

 浮き上がりを合わせてキックを変え、腕を回し始める。

 要は最初の1掻き目。ここでスカったり、リカバリーの時に水圧を感じてしまえば、完全にミス。

 やけど、ここでスカることも、水圧を感じることもなかった。

 完璧やと思ったうちは、ここからノリに乗る。

 ファーストクォーターはブレスなしのハーフラインでワンブレスするプランを立ててたけど、とりあえず、ブレスの回数は極限まで減らそうと、最初に立てていたプランを無視。これに関しては、自分の中で決めていたことやから、咲ちゃんには何にも言われへんはず。

 それに、今のうちはノリに乗ってる。自己ベストさえも出そうな気もする。ブレスの回数はできるだけ少なく行く。

 そんなことを思いながら、ストロークとキックのペースは乱さんように出来るところまで突っ込む。


 そして、途中からは無我夢中やったと思う。ブレスを挟んで、少ししたあたりからの記憶がない。

 気が付けば、ラスト2メートルを意味するT字のラインが見えていた。

 それを見た瞬間、ラストのタッチまで!と思いながら、時計を止めるためにタッチ板を殴りつけるように叩く。

 そして、思いっきり叩きつけた後、酸欠状態に陥るわけで、たっぷりと息を吸い込んでから、バックのスタートバーにぶら下がりながら水中に潜る。

 もう、これも、うちの中ではお決まりで、少しでも早く息を整えたいために、苦しくなってから少しだけ我慢した後、水中に顔を出す。

 その瞬間、ぱちぱちと拍手が起きているのに気づいた。

 誰かがなんかしたんやな。と思いながら、役員の人に誘導されるように、隣レーンからさらに隣のレーンへ移り、1段低くなってるオーバーフローのところから、プールサイドに上がる。

 ふぅ。とりあえず、個人的には満足いくレースやった。とりあえず、携帯型の酸素ボンベを使って、呼吸を整えながら、直ちゃんのレースを観戦しますか。


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