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Episode 80 夢見たインターハイ

 いよいよというべきか、ようやくというべきか、インターハイに参加する日が来た。

 昨日のうちに会場となる千葉入りはしていて、難しい手続きに関しては、顧問の長浦先生に丸投げ状態。

 それでも、観光は何ひとつせず、お昼に会場に到着したあと、そこから公式練習日ということもあり、時間になるまでひたすらと感覚に慣れてもらい、夜は先生を含め、決起集会。

 そして今日。朝から緊張感でふわふわしている私がいる。

 それに比べ、同じ部屋で寝た遊菜、ロビーで合流した直哉の姿を見ても、いつもと変わらない表情を浮かべていた。


「いつもと顔が一緒やな。うちとしてはありがたいけど、気分は上がってんの?」

「まぁ、そこそこやな。スプリントレースやけど、楽しめたら一番やって思ってるくらいや」

「遊菜とおんなじこと言うてるわ。でも、そっちのほうがあんたらしいわ。とりあえず行こか」


 初日の今日は、同じ種目に出る直哉も遊菜もレースはない。だけど、会場に向かう理由は、公式アップの時間でアップをするため。

 少しでも全国の空気に慣らしておかないとさすがにきついだろうからね。

 そういうことで、朝からプールに向かう。


 ホテルは、駅から徒歩5分のところでとっていて、会場までも電車で10分のところ。

 それに、ホテルの手配は長浦先生にしてもらったんだけど、これだけ近い場所で取ってくれるとは思ってなかったからありがたいよね。

 そんなことを考えつつ、朝の7時半前の電車に乗り込み会場へ向かう。


 会場に着いたころには、さすがに何校かのチームが集まっているようで、玄関は少し混雑していた。


「いつも通り上から見るんか?」


 初めての会場にアッとされていると、私の顔を覗き込んだ直哉がしゃべりかけてきた。


「いや、今日はレースもないし、間近で見るつもりやで。どうせ、アップ終わったら、そのままサブプールに移るからな」

「そうか」


 直哉はそういうと、建物の方を向き直し、「ふぅー」っと一息ついた。どうやら、少しは緊張しているみたいね。

 でも、そんな直哉を見て、少し安心した。直哉にも感情があったんだって思ってね。

 逆に遊菜に関しては、まったく緊張していないみたいで、わくわくした表情を浮かべ、早く泳ぎたい!みたいな顔をして目をキラキラさせていた。


「遊菜はどこ行っても遊菜らしいな。これだけ自然体やと、うちが普通の大会かと勘違いしてまうわ」

「でも、それが大神の持ってる空気なんやろうな。俺も変に勘違いして冷静になれるわ」


 私もそれは思う。本来なら、私も全国大会の舞台に来ているんだから、変に上がっているはずなんだけど、遊菜がいつも通りの遊菜だから、こちらが変に冷静になる。


 そして、時間は開場予定時刻になり、役員の人がゆっくりと扉を開け、私たちは役員の人の指示に従って、ゆっくりと中に入り、遊菜と一緒にそのまま更衣室を経由して、私だけ先にメインプールに向かう。

 遊菜は、スイムウェアに着替えなきゃいけないし、私も空気に慣れておきたいのもあるし。

 更衣室では、がっつり冷房が効いているせいか、メインプールに足を踏み入れると、ひんやりとした空気の他に少しむわっとした空気を感じる。

 もちろん、それ以外にも、強豪校の選手やコーチ、マネージャーから感じる圧も、少しばかり感じる。

 まさにインターハイだな。なんて感じつつも、直哉と遊菜がメインプールに入ってくっるのを待つ。

 もちろん、その間にも、ほかの強豪と思う選手が次々に入って来て、アップを始めていく。

 その姿は、さすが強豪校に所属しているな。と思わせる身体つきをしていて、遊菜や直哉とは違うなぁ。って思ってしまった。

 それと同時に直哉がメインプールに入ってきた。


「どこ見てんねん。そんなに人の身体が気になるか?」

「うん?まぁな。強豪校の選手と比べたら、直哉も遊菜も貧相な身体してんなぁ。って思ってさ。まぁ、筋力アップできる器具も少ないからしゃあないけどな」

「まぁ、それは見とめざるを得んことやな。俺はかろうじてタッパがあるけどさ、大神に関しては、タッパもないし、華奢な体つきやもんな。やけど、あの腕でようあんなタイムが出るよな」


 まぁ、そりゃそうだな。わたしだって驚いている。私より小さくて細い身体で半フリを27秒で泳ぐんだからね。私だってビックリよ。


「けど、なんだかんだ言うて、大神には感謝してるんよな。たぶん、俺一人やったら、3か月だけでこんなところに来てへんやろうし、大神の目の色で俺も追いつかれへんようにって思って練習してたからな。まぁ、今のところは、あいつの伸びの方が凄いけど」


 直哉がそんな風に思っているなんて知らなかった。逆に少しうっとうしそうにしていたから、直哉の精神状態は大丈夫かなと思っていたくらい。

 でも、そう思っていたなら、私としては、いらない心配をしたかなって思ったり。


「あんたがそんなこと思ってるなんてな。いつもひよこのようについてまわってるから、鬱陶しがってんのとちゃうかなと思ってたけど」

「たまにはな。タイム出んかったり、疲れてるときについて回れるとキツイわ。けど、練習中はほんまに気が抜かれへんから、ええ刺激になってんで」

「まぁ、最初はあんだけやる気なさそうやったのにな。泳ぎだしてから3か月でここまでもって来るとは思えへんかったし」

「せやな。でも、美咲のおかげってのもあるで。お前も言うて、中学の夏からずっと離れとったのに、無理に連れてきて、やらへんか?なんて言うたのに、ここまでついてきてくれるとは思ってへんかったしな」

「そんなんいうんやったら、レースで優勝してからいいや。恥ずかしい」


 正直、まだレースもしてないのに、こんなことを言われるとは思ってなかった。だけど、やってきてよかったかなとは思ってる。

 まさか、こんな形でインターハイに進めるとは思ってなかったから。

 そんなことを思っているうちに、遊菜も準備ができて、私と直哉と合流。

 楽しそうな表情を浮かべる遊菜は、夏休みにプールへ遊びに来た小学生と勘違いしてしまう。

 それも遊菜らしさと言ってしまえばそれっきりなんだけど、やっぱり周りの女子スイマーと比べると、体格はだいぶ劣る。これでも近畿大会を勝ち抜いてきたんだから、すごいもんだ。


「とりあえず、空いてるレーンで泳ぎ始めよか」


 私がそう言うと、直哉も遊菜も並んで歩きだし、一番空いていた3コースに入ると、いつもの順番で泳ぎだす。

 私はその2人をプールサイドから横に並びアップの様子を見る。

 さすがにアップだからか、力を入れずにすい~っと進んでいく2人。

 まだ朝だからという堅さはあるんだろうけど、初めての会場ということや、初めてのインターハイだということを感じさせない泳ぎ。調子はいつも以上にいいように見える。

 これが明日、明後日と続けば完璧なんだけどなぁ。なんて思いつつ、ほかのマネージャーやコーチを避けながら直哉たちが泳ぐ速さをそろえて歩く。

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