Episode 79 やり過ぎたかな?
それから少し休憩した後、、プールに戻ると、さすがは直哉と遊菜。ある程度復活していた。
「何とかって感じ?」
「んなわけ。めちゃギリギリやわ。大神は全部無理やったんやろ?よう、オールバッタなんてやるわ」
どうやら、いきなりすぎて限界を振り切りかけていたみたいね。でも、サークルやレストを緩めるつもりはない。しばらくの間、入れ続けるつもり。
「時間来たらツーフォーツーハーフベスプラ10パーな」
「ベスプラ10パーか。まだ200なだけましか。これでハーフとか100とか言われたら、また死んでるやろうな」
「ハーフで2秒しか増えへんことに比べたらましやわ」
そりゃそうか。ふたりのタイムなら、ベスプラ10パーが、どれだけ過酷なものになるのかは目に見えているか。
それでも、練習の手を抜かないのはさすがの向上心。
インターハイにコマを進めて満足とは言い切らず、さらにその上を目指そうとしている。その背中は、ほかの1年生には伝わるだろうか。伝わってほしいのが本音だけどね。
「まぁ、とりあえずやってくか。あと何分?」
「あと3分。乳酸流すなら、今のうちにルースン行ってもかまへんで」
「あぁ、たぶんな、美咲が思ってるより乳酸はすごい溜まってんで。明日、筋肉痛は確定やで」
まぁ、オールフライのオールハードは乳酸が溜まるか。しかも、回るか回れないかギリギリのところだっただろうし、流すために、インターバルを置いたわけだし。
これからもこんなメニューは続ける続けるつもりだから、慣れてもらわないと。
「やったことないメニューをいれてるわけやからな。無理もないと思うで。やけど、これからも入れていくわけやし、慣れてや」
「はいはい。インターハイ優勝目指すんやったら、それくらいは当たり前になるんやろうから、頼むわな」
なんというか、やっぱり、信頼を置かれているな。裏切らないようにしないと。
そこからツーフォーを死にそうな顔でこなした直哉たち。
さすがにまだ続けようと思えば続けられるけど、ドリルメニューを挟んで、最後にクォーターダッシュをしてからダウンにして、朝は終わるか。
「ほんなら、いるか4本とワンハンド3カウントストップ、レフト4、ライト4の交互で、遊菜はブレスハンドを気をつけてな」
「は~い」
さっきのメニューが幾分かマシだったせいか、遊菜のテンションと体力が戻っている。顔もイキイキとしだした。
この状態なら、昼休憩まで影響が続くことはないからな。そんなことを思いながら、ふたりがドリルメニューを進める姿を見る。
さっき言った『いるか』って言うのは、いるかが呼吸をしてから潜るように、プールの底に立ってから勢いをつけて水上に飛び上がり、そのまま水中へ。
そのときに意識するのは、水中に潜った後、ストリームラインをとること。抵抗をできるだけ減らして少しでも距離を伸ばすようにやってみること。
そして、『ワンハンド』とは、名前の通りで、片腕だけ回して泳ぐ練習。
実際にブレスするときに腕が落ちることの多い遊菜に向けた練習メニューでもある。
ワンハンドの時、3カウントって言ったと思うけど、これは、回して腕をトップの位置で3秒止めることを意味していて、ローリングの姿勢を確認してもらおう。
これでも腕も沈んでいたら、身体自体が沈んでいくから、ここ最近は、組み合わせて入れている。
そんなメニューも終われば、午前中ラストのメニューでクォーターだけにはなるけど、スタートダッシュをしてもらう。
このダッシュも、今までやってきたことのおさらいとして泳いでもらおうものだから、午前中の練習でタイムを気にすることはしない。
昼からのメニューに関してはタイムを求める場面はあるけど。
そのダッシュも、私が気にするようなところは何ひとつでなかったから、そこは安心してもいいかなって思ってる。
「ほんなら、ダウンして、とりあえず朝は終わりな。また昼から練習になるから、ゆっくり休んでや」
直哉はそう言って、少し泳いでプールから上がり、更衣室に入った。
そして、遊菜は、同じようにダウンをした後、プールでビート板を腰に敷いて、以下のようにブレ足でキックしながら、フラフラと浮いてプールの端まで泳いでいき、そこからプールサイドに上がって、更衣室に入っていった。
遊菜なりの追加ダウンだったのかな。なんて思いつつ、私も更衣室に戻り、財布を持って、コンビニへお昼ご飯を買いに行く。
ほかの部員は一足先に昼休憩をカーペット敷きになっている音楽室でご飯を食べたり伸びたり、昼寝をして休んでいる。
そんな姿を見ながら、昼からのメニューが書いてあるノートに少し手を加え、少しだけ負荷を強くするのと同時に、ルースンメニューを一つ増やす。
それを3つに分けているグループの全コース分で書き換える。
そして、昼からのメニューもこなし、メニュー途中でげっそりしながらも、なんとか泳ぎ切った。というほうが正しいくらいバテているふたりにダウンを指示して、私は片付けに入る。
「急に負荷上げすぎやろ。ゲー吐くかと思うたわ」
「時間もないいしな。インターハイ優勝目指すんやったら、これくらいいいかな無理やろ」
「やと言うてもやで。誰がメニューでハーフ35秒で8本4セット、レストハーフでやんねん。マジで死ぬかと思うたわ」
「バッタ見ていけるなって思ったからさ。まぁまぁきつかったやろ?」
「休憩中に部長から同情されたわ。朝と言い、昼といいさ、ほんまきついんやけど」
「明日もこれくらいで行くつもりやからちゃんと準備はしといてな」
「鬼かよ。そんなににっこりされたら変に勘ぐってまうわ。なにするつもりやねん」
「まだそこまで決めてへんけどな。明日の楽しみってことで」
「またアホみたいに怖いこと言うなよ。まぁ、練習に付き合ってもらえるだけありがたいか。弱小校でここまでコーチ見たいな仕事してもらえるだけありがたいし。よっしゃ、とりあえず帰るか。明日もまた練習やし」
そう言いながら直哉はゆっくりと潜ってから大きく泳ぎ、対岸まで言って折り返し、それを数回繰り返した。




