表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/238

Episode 78 インターハイに向けて

 話していた直哉は、軽い力で100メートルを泳いで、しばらくの間、ビート板を腰に敷いて息を整え、遊菜は、コースロープにぶら下がり、力を抜いて浮いていた。

 私がハーフを35で回れないから何とも言えないけど、まぁ、相当きついのはわかっているつもり。でも、ふたりだからできると思ってメニューを組んでいる。

 もちろん、全部は無理だと思ったら、中抜けさせることは最初から考えていた。

 それをしたくないのはやまやまなんだけど、それで無茶して、怪我して、インターハイを棄権します。なんてことになれば、さすがに可哀そうだ。そのことも考えていろいろメニューを組んでいるつもり。


「オーライ、次、ハーフエイト40、ツーセット、レストワン、オールフライな」

「またバケモンみたいなメニューやな。間に合わへんかったらノーカウントか?」

「んなあほなことはさすがにせぇへんよ。ちゃんとカウントに入れるし、あまりにも無理やと思ったら考えるから」

「そうか。まぁ、ワンエイトワンツーよりはましか。よっしゃ。気合入れなおそうか」


 遊菜はちょっとげっそりしてるかな。無理ないのもわかるけど。


「遊菜、無理して全部行こうとせんでええからな」

「わかってる。咲ちゃんのことやから、変になったら教えてくれると思ってるし」


 私に対する遊菜の信頼というのはかなりのものになっているんだろう。それを踏まえて、私の行動がいろいろ直結するのはわかる。考えることはあまりにも多すぎる。


「ほんなら上からな」


 ふたりから、「ライ」との言葉があったあと、秒針が0になったタイミングで直哉が壁を蹴って、泳ぎだし、そのすぐ後ろを遊菜が泳ぐ。

 たぶん、遊菜は直哉が出す強い水の抵抗をもろに受けるから、泳ぎにくいだろうな。とは思っているけど、それでも抗うようにかき分けるようにバタフライで泳ぐ。

 最初はね、誰でも、調子はいいのよ。遊菜もきれいなフォームをしていて、トビウオのように跳ねて泳ぐ。

 だけど、本数が進むにつれ、てスタミナのない遊菜は、なんとかフォームを維持しているけど、ついには、サークルには間に合わなくなる。


「遊菜、次パス。レストにして7本目からもうちょい頑張ろうか」

「ライ。アホみたいに、きついわ……」


 遊菜は、メニューのきつさに戦意喪失しかけている。

 さすがにオールフライは無理がありすぎたかなと思いつつも、最初のころにこんなメニューを入れたら、4本も持たなかったんじゃないかなって思う。

 遊菜が成長したから、ここまで我慢できるようになったんじゃないかなと思う。


「遊菜、たぶん、今は折れかかってるかもしれへんけど、ここ頑張ったらまだまだ伸びるで。踏ん張りどきやで」

「うん。頑張る」


 なんとか遊菜は折れてないみたい。ただ、どこまで泳げるかってところかな。

 私としては、行けるところまで泳がせたい。そのほうが世成長になると思っているところはあるし、ここで甘やかすと、成長につながらないかもしれない。

 せっかく競泳に戻ってきた遊菜なんだから、ずっと残ってほしいと思っている。

 だからこそ、無理のさせ過ぎはしたくない。様子を見ながら泳がせないと。


 7本目と8本目は気合いで乗り切った遊菜。フォームが乱れなかったのが幸いなところ。

 ただ、2セット目は5本目にそれぞれレストを挟み、なんとかっていう感じでメニューを終わらせた。


「お疲れ様。ワンラフ、次、10分後行こうか」

「ライ」


 もう、ヘトヘトな2人。たぶん、ここから連続でダッシュメニューを入れたら倒れるだろうな。なんて思いながら、次のメニューの負荷を考える。

 本来なら、ツーフォーツークォーターで回すつもりだった。だけど、こんな姿を見てしまったら、ちょっとサークルタイムを落とそうかと悩んでしまう。

 ……うん。そうしようか。


『AL200×4 2‘30+10%』


 これなら、ある程度負荷をかけられるし、サークルも余裕がある。

 これだけゆとりがあれば、遊菜もついてこられるだろう。

 今はとりあえず、日がない中、どこまでタイムを上げられるかってところ。効果がありそうなことを片っ端から試している。

 どうなるかまでは、実際に結果を見ないとどうにもわからないけど。


 さっきと同じく、遊菜と直哉も、相当ばてたのか、コースの中で脱力してプカプカと浮いている。


「い、伊藤さん。なんかすごいメニューをしてた気がするんやけど、気のせいか?」


 1コースでぐったりしているふたりを見て部長が声をかけてきた。


「あっ、えっと、ちょっとばかしきついメニューを……」

「どんなメニュー?」

「50を8本4セット40秒サークルでオールバッタ。ってな感じで……」

「あぁ……。そりゃ、そうなるわ。俺らがフリーでやっても40でまわれる自信はないわ。せめて50はほしいな。もしかしたら、原田と大神さんやから、できることなんかな……」


 部長は苦笑いを浮かべて自分のコースに戻っていった。

 さて。私はこの間で水分補給をしましょうか。このまま日の当たるところにいちゃ、熱中症になりそう。というか、よくここまで頑張ったよ。私も。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ