Episode 74 しっかりと決め切る
『7 大神 遊菜 1 27.30』
その表示を見た瞬間、私は「よし行った!」と声を上げていた。
この反応を見た長浦先生は「マジか!?」と反応した。
正直、うれしいことが続きすぎて、このままでいいのかなって思ってしまうときもある。でも、たぶんいいよね?頑張ってきているんだから。
「よかったな。これで大神は半フリでもインターハイ行きを決めたな」
「ですね。予選でも切れたら予選落ちしても何とかなるでしょうし。あとは直哉だけってところですね。私としては、重い肩の荷が下りたかなって感じです」
「やろうな。このあとの予選で原田も決めたらお前もひと安心やろうな」
ですね。とだけ返してから、再度プールに視線を移し、レースの内容を見守り、トップのタイムと、遊菜より速い選手が出たなら、その中で一番遅い選手のタイムと順位を書き出す。
ただ、4組が終わっても、遊菜よりも早いタイムで泳ぐ選手は出てこず、5組にひとり、6組に3人、7組に3人。
『ただいま行われました、女子50メートル自由形の上位20位のランキングが表示されております。上位10名は決勝進出、予選11位は補欠1番、予選12位は補欠2番となります。以上』
それだけ伝えられ、画面は下から上にスクロールされ、遊菜の名前は上から8番目。なんとかというような形で決勝にコマを進めることができている。
「ふぅ。何とかって感じか。最悪、決勝でタイムを落としたとしても、インターハイには出られるから、ひと安心やね」
「ほんまやな。でも、なんか、俺の教師人生で生徒が全国大会に連れて行ってくれるとは思えへんかったな。原田も大神もこれだけのタイムが出せるなら強豪校に進んでもよかったんとちゃうかなって思うんやけどな」
「まぁ、そこは直哉たちの事情を組んでやってください。強豪校で泳ぐ気はさらさらなくて、ふたりとも推薦を全部蹴って、私もですけど、一般入試で入学しましたから」
まぁ、まさか、直哉と一緒になるとは思ってなかったけどね……。
「そうか。まぁ、生徒それぞれに目指しているものは違うしな」
『プログラムナンバー50番、男子50メートル自由形、予選1組の競技を行います』
先生の声を遮るように男子のレースが始まることを伝えられる。
この種目で直哉は5組中3組での出場。エントリータイムとしては、ちょうど真ん中あたりかな。なんて思いながらも、1組のレースを観戦。トップとラストのタイムを書き込んだ後、2組のレースが始まった瞬間に立ち上がり、直哉の姿を確認する。
直哉は2レーンで泳ぐ予定になっている。
「直哉!一本!」
遊菜のときより比較的近いところにいて、声は届くのかなと思って、一度吠えてみる。
……まぁ、レース中で、いろんな学校が応援をしている中で、私一人の声じゃ届くわけないよね。
直哉はほとんど無視するような感じで、レースに向けて集中し始める。
とはいっても、ドカッと偉そうに椅子に座っているだけなんだけどね。でも、本人は、「これくらい大きく見せてんと強く見せられへんし、長身の意味がないやろ」なんて言って、大きな態度を取っている。
レースは、トップでも25秒代後半。インターハイ行きに必要なタイムは24秒54と、1秒ほど必要か。直哉には、しっかりと、この24秒54をクリアしてほしいな。なんて思いながら、そろそろ始まる3組のレースが始まる。
短い笛がいつも通り4回鳴り、長い笛が1回。
短い笛が鳴ると、椅子から立ち上がり、長い笛が鳴った後にスタート台に乗る。
まぁ、椅子から歩く距離があるから、スタート台に乗るのは一番最後。それからも堂々とした立ち振る舞いでゆっくりと構えを取り、スタートの合図を待つ。
「よーい」
この声は変わらないか。さっきと同じようにかなり威嚇のある声。そのほうが威厳があっていいんだけど、予選からこれだと、選手が疲れるだろうな。なんて思いながらも、高音域の電子音が響く。
それと同時に選手10人が飛び出す。
さすがに直哉は、遊菜みたいなリアクションタイムは出ない。遊菜が速すぎるだけだから。
それでも、コンマ71で飛び出すなら、十分だろう。
飛び出してから、浮き上がりまで、ご自慢のドルフィンキックを打ちながら浮き上がってくると、私が指摘したローリングとキャッチがしっかりできているように見えて、しっかりスピードが出ているように見える。
浮き上がりでこちらも頭ひとつ抜けた状態からのスタートだったけど、あっという間の熾烈なレースは、身体半分も空けてフィニッシュ。もちろん、こちらもヒートトップだ。
そして、電光掲示板も『2 原田直哉 1 24秒31』と表示され、しっかりとインターハイの制限記録を切っている。
あと、気にするのは、このあとの決勝でどれだけタイムを伸ばせるかってところかな。
私としては、ふたりとも2種目でインターハイ行きを決めてくれた。マネージャー冥利に尽きる。




