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Episode 70 矯正を試みます

「先生、直哉たちが呼んでるんで、ちょっと行ってきます」

「そうか。わかった。荷物見とくわ。また戻ってくんねんな」

「はい。アップ終わったあとすぐくらいには」

「了解。ほんなら頼むな」


 そういう感じで背中を押されるようにして、私は階段を降りていき、くるっとまわるようにして、プール内に入っていく。

 そして、直哉たちが泳いでいる3レーンに向かい、戻ってくるのを待つ。


「どないしたん?急にメニューくれって」

「あぁ、2人とも空回ってるわ。まったく水掻いてる感覚無くてな、どうにかしてもろうかと思って」

「そういうことね。とりあえず、ワンワンラフでリセットしておいで。そのあと、いろいろやって原因調べるから」

「すまんな。なんとかしてこっちも決めるから」


 慌てんでええよ。それだけ返すと、直哉はフッと笑って泳ぎだした。


「ほんなら、うちのこともよろしくな」


 遊菜も私に一言かけてから直哉を追いかけていく。

 そして、2人が泳ぎだしたタイミングで私は0レーンの横で並んで歩いていく。

 まぁ、ワンワンラフだけでどこがおかしいかがわかるわけがない。

 今は普通にリセットさせて、このあとからしっかり見ていくつもりだ。


 2人は100メートルを泳いで、リセットさせ、スカーリングをした状態でぷかぷか浮かんでいた。

 そして、私は0レーンから3レーンに戻り、直哉たちと話す。


「正直、あまりよくわからんから、このあと見ようかなって思っとって、ワンフォーエンドレス、ファーストダッシュ、セカンドイージーでやってみて。その間に見てみるわ」

「オーライ」


 直哉はそれだけ言って、軽く壁を蹴ると、ものすごい勢いで泳ぎだす。

 私は0レーンの横でまた歩き、直哉の泳ぐ姿を見る。

 正直、しぶきがすごく見にくいというのはあるけど、それでも違和感を探していく。

 まぁ、ぱっと見ただけじゃわからないから、一昨日のレースの姿を思い出し、照らし合わせてみる。

 ……あっ、そこ?たしかに、直哉はレースの距離が短くやればなるほど、その癖は顕著に出る。たぶん、それが掻く水が軽いって言ってる理由だと思う。

 そして遊菜だな。

 1本目は直哉だけを見ていたけど、2本目は遊菜を見ることになるかな。

 そう思ってあっという間の2本目。

 正直、遊菜も、掻く水が軽いって言っていた。その原因は何だろうか。

 遊菜の癖は意外と出やすいところはあるけど、その癖もわかっているから、どうにかなるかなと思っている。

 ただ、厄介なのは、遊菜の癖が戻るかどうかってところ。まぁ、そこは粘り強く行くしかないよね。なんて思いながらも、遊菜のフォームを見る。

 ……調子のいいときの遊菜は、もっとトビウオのように活き活きとしているんだけどな。なんだろう。この違和感。

 朝起きてから、ずっと一緒にいたけど、しゃべっているとき、歩いているとき、何にも違和感なんて感じなかった。

 としたら、ここに着いてからか?

 ……?あっ、そこか。そういえば、遊菜も中学時代の顧問の教え方が合わなかったせいで、変な癖が残っていたな。それがわずかに出ている。


「直哉、遊菜、ストップ。わかった」


 0レーンから3レーンに戻った私は、ちょうど泳ぎ終わったタイミングで2人を呼び止めた。


「まず直哉。やっぱり、癖が出てるな。ローリングが近くなってて、キャッチができてへんから、掻いてる水が暴れてるんちゃうかなって思うわ。ほんで、遊菜。遊菜は、軽いのは左手だけちゃう?」

「せやね。左手だけなんか軽く感じてる」

「やとしたら、無意識に中学の頃の癖が出てきてるわ。ブレスの時に、左手がかくんと下がってる。で、キャッチもできずに掻きだしてるから、ストロークも短くなって、スピードも乗らへんようになっとんのちゃうかなって思うわ」

「ほんま、お前はよう見えとるわ。ローリングの距離なんかだれも気にせんやろ」

「あんたの場合は、ローリングせんかったら、キックが一瞬しぶきと一緒に止まって4ビートになるからな。しっかりローリングできてるときは、6ビートやのに」

「そういうことか。それなら納得や」

「咲ちゃんがコーチでほんまにうちの人生変わってるわ。ここまでこられるとは思ってへんかったし、これからもものすごいことをしてくれそうな予感してるわ」

「それは、遊菜次第じゃない?それに、私はコーチじゃなくてマネージャ―やからね。とりあえず、あと2本、意識して行ってみぃや」

「オーライ。ほんまに助かるわ」


 直哉はそう言うと、残りの2本を泳いでいく。遊菜も同じように2本泳ぎ、癖を少しずつ修正していった。

 あとは、ダッシュメニューでどれだけの癖が出るかってところだな。


「0レーン移動してスタートからハーフダッシュしよか。また変なところあったら言うし」

「サンキュー。頼むわ」


 直哉はそう言って、ひょいとプールサイドに上がると、ひょいひょいと0レーンに移動した。もちろん、遊菜も後ろをついてきてね。


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