Episode 68 3日目
2日目は、2人ともレースに出場しないけど、サブプールで少しだけ泳いで3日目に備えてもらう。
そして、3日目
初日に比べると、インターハイ行きが確定して気が楽なのか、直哉も遊菜もリラックスした表情を見せている。
なんというか、部内で記録会をするような感じ?それほどの表情をしている。
ただ、今日のレースは、競泳界最速のレースに2人ともエントリー。
これに関しては、スタートから浮き上がり、プルにキック、フィニッシュまでの何から何まで、何か一つでタイミングが狂うと、簡単にコンマ2秒は変わる種目。
しかも、一昨日の1フリのときでも100分の1秒を争いくらいのレベルなのに、さらに距離が短くなり、同タイムで泳ぐ選手も何組か出てくると思っている。
正直、スイムオフにならずに決勝へ進んでもらうのが1番だけど、どうなるだろうかってところ。
「咲ちゃん、おはよ。今日も早いな」
「いろいろ準備をせなあかんことがあるからな」
そういったあと、冷蔵庫から自分の飲み物を取りだし、のどを潤す。
「さぁ、大本命の半フリや。下剋上して、決勝に残って、こっちもインターハイ行きを決めたいな」
遊菜はベッドで胡坐をかいて座りながら、夢物語をボソボソっと口にする。
ただ、まだ寝ぼけているのか、後ろから聞こえる声がまだ寝ていて、正直、寝言なんじゃないかって思うよね。
「でも、なんていうか、近畿突破がまだ夢なんとちゃうかなって思うんよな」
ぼそぼそとしゃべる遊菜は、現実と夢の狭間を行き来していると勘違いしているのか、少し上の空になっている。
「深く考えすぎんくてええんちゃう?いろいろあると思うけど、今日の半フリも堂々と切って、インターハイに弾みをつけようや」
「……せやね。うちが考えすぎやね。レースに集中せな。いろいろ考えすぎたわ。誰が何と言おうと、うちがインターハイに出られるんは変わらんねんから、おもっきし突っ込んだったらええねんな。よっしゃ!やったんで!」
遊菜はころっと態度が変わり、ほぼいつも通りの遊菜に戻ったかな。とりあえず、朝ご飯を食べて、レース会場に向かいますか。
そんなことを覆いつつ、昨日のうちに買い込んでいたパンを食べ、シャワーを浴び、沙雪先輩から借りているクラブTシャツに着替えると、私は準備万端。あとは、遊菜と、別の部屋で泊まっている直哉の準備ができたら、早くてもレース会場に向かうつもりだ。
「咲ちゃん、うち、準備できたで」
「了解。あとは直哉やね。ラインで聞いてみるわ。向こうも準備できとったら、そのまま行くから、靴だけは履いとってな」
「は~いよ」
気付けば、遊菜はいつも通りの遊菜に戻っていて、今日の遊菜も何となくやってくれそうな予感。
とりあえず、直哉に連絡を入れて、ホテルをチェックアウトするか。
そう思うと、おもむろにスマホを取りだし、直哉に電話する。
『どうした?』
「おはよう。準備できてる?」
『おう、できとるで。行くんか?』
「直哉が準備できてるならね」
『了解。ほんなら行こか。ロビー集合でええか?』
「そうね。たぶん、直哉のほうが早く降りれるだろうし、ロビーで待っとって」
『はーい。ほんならあとでな』
直哉はそういうと、電話を切った。
時間はまだ6時半。
時間的には8時開場の9時レース開始だから、正直、レース開始の30分前に到着できればいい。
ただ、そんなことをしちえると、公式ウォーミングアップの時間が無くなるから、こうして、早く出て、アップの時間を確保しようとしているわけ。
「遊菜、直哉も準備できてるって。行こうか」
ベッドに寝転がっている遊菜に声をかけると、「は~い」とワクワクしている声で返事をしてきて、ベッドから跳ね起きて、自分のバッグを担ぐ。
「忘れもんはないね?」
「ぜ~んぶ見たで。なんも忘れもんなし」
遊菜がそう答えると、それを信じて私も自分のバッグを担ぎ、部屋を出てチェックアウトの手続きをする。
ルームきいーを機械に通すと「チェックアウト完了」の文字が出て、チェックアウト完了。
そのままロビーに行くと、スマホとにらめっこしている直哉がいた。
「ごめん、お待たせ。行こうか」
「オーライ」
直哉は一言で応えると、スッと立ち上がり、出口の方へと向かい、駅を目指す。
泊まっていたホテルから駅までは徒歩3分の好立地で、スルスルと移動できる。
ただ、問題はそこからなんだよな。込み合うバスに乗り込んで20分もゆられないといけない。
それさえなければ完璧なんだどなぁ。なんて思いながら、ちゃんと列に並ぶ。
そして、やってきたバスに何とか乗り込み、20分ほどかけてレース会場のあるバス停に到着。ここから少しだけ歩けば会場に到着。
まぁ、まだ朝早いこともあって、集まっている人の数はまだ少ないけど、この前と同じくらい集まるんだろうな。なんて思いつつ、できるだけ前の方で開門を待つ。
時間が経つにつれて選手やマネージャー、コーチと思う人たちが集まって来ていた。




