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Episode 67 一安心

 正直、ホッとした。

 いろいろと頑張ってきたかいがあるかな。なんて思う。

 あとは、インターハイの舞台でどこまで暴れてくれるってところかな。

 一応、私もベストが出せるように練習メニューは考えるつもりでいるけど、さすがに神がかり的なタイムはできないだろうと思っている。

 ……さすがにね。


 そこから慌ただしくなるのは私のスマホ。

 一応だけど、水泳部のグループラインに『直哉と遊菜、ともにインターハイ出場を決めました』というメッセージと喜びのスタンプを送ると、すぐさま反応が返ってくるのは、沙雪先輩と部長の2人。

 そこから3年生からも1年生からも『嘘やん!』というようなニュアンスのメッセージが次々に送られてきて、誰ひとり信じていないのには少し笑ってしまった。

 とりあえず、興奮しすぎて証拠は撮り忘れたから、あとで張り出される結果を貼り付けようっと。

 そんなことを思いながら、直哉たちがダウンを終わらせて戻ってくるのを待った。

 2人が戻ってくるまでの間、なんだか、突然に、今目の前で起きている出来事が夢なんじゃないかと勘違いしてしまう。

 そう思うたびに、スプリットブックをめくり、ボールペンのペン先を出したまま自分の手の甲に押し付ける。

 そんなことをしてもただただ痛いだけ。なにひとつ夢じゃない。これが現実なんだな。と思ってしまう。


 2人が戻ってきたのは、女子のフリーリレーが始まろうかとしていたとき。

 2人とも招集に向かった時より少し晴れやかな顔をして戻ってきた。


「お疲れ。ベスト更新して滑り込むでインターハイ決めるとかすごすぎるやろ」

「まさか俺も決め切るとは思ってへんかったわ。やけど、目標に首の皮1枚つながったんやから、あとは、できるところまでやるだけやわ」

「せやね。うちも行けるところまで行きたいな。何て言うか、なんやろ。一回挫折してからここまで来てるから、行けるところまで突っ込んだれって感じ」


 2人とも、インターハイに進めることに驚きつつ、やる気は見せている。

 その姿を見ることで、私もサポートを熱くしていかないとな。って思う。


「一応、部員にはラインで報告してる。……けど、みんな誰ひとり信じてへんみたいやから、証拠の記録だけ撮って帰ろうか」

「それ、俺と遊菜でやってええか?俺らからやtったほうが説得力あるやろ?」

「そうやね。そうしようか」


 ということで、直哉の提案に寄り、それぞれのラインから部員に報告する形になった。

 そして、私も荷物を広げていなかった分、後片付けは一瞬で、直哉たちが戻って来て10分もしないうちに客席の階段を下りていき、結果が張り出されているエリアに。

 今日一日で繰り広げられた全レースの結果がここでわかる。

 中学の時は、ここで全レースの結果をプログラムに書き込んでいたなぁ。なんて懐かしいことを思うけど、今はそんなことをしようともさせようとも全く思わない。ただただ暑いなかしんどいだけだし。


「あった、あった。こう見ると、ほんまにインターハイに進めるんやなぁ。なんか感慨深いわ」


 遊菜は写真を撮りながらボソッとつぶやくように言った。

 それもそうなんだろうな。さっきも本人が言っていたけど、遊菜は一度競泳から離れた身。それが、直哉のことを一方的にライバル視して復帰したと思えば、直哉用に考えた作ったメニューに食らいついてきては、レースで泳ぐたびにベストを更新していく。

 まさにシンデレラストーリーを爆走中って感じ。まぁ、直哉もシンデレラって言っていいのか謎だけど、逃げるように爆走している。

 意外と遊菜と直哉は持ちつ持たれつの関係なのかなって思ってしまったり。


 とりあえず、直哉と遊菜はそれぞれ自分の結果をラインに張り付けたあとは、ようやく事態を理解した扇原商業水泳部のグループラインは大荒れしだした。


『マジかよ!』『バケモンはマジでバケモンやんけ!』


 などなど、1年生部員からいろんな文言が飛んできて、3年生からは『すごいな』『これがエリートか』などなどの文言が飛び交った。

 そのメッセージを見た直哉も遊菜も、まんざらでもない表情だった。


「よっしゃ!ほんなら明後日もやるで!」


 メッセージを見て気をよくしたのか、遊菜は、今にも飛び出しそうな勢いでその場に立ち上がる。

 やる気は十分。私から言うことなんて何もない。明日は軽めのメニューで調整して、翌日に備えてもらうだけだ。


「とりあえず、ホテルに帰ろうや。いろいろ気ぃ張って気づかれもしたやろうしさ」

「まぁ、いろいろあったっちゃあったよな。予選からずっと空気がピリピリして突き刺さるからさ、そのたびに痛かったし、周りが『うちの方が速い』っていうオーラを笛が鳴るまで出してくるから、うちも『うちの方が速い』オーラを出し返してたし」


 なんとなくだけど、遊菜ならやりそう。なんて思ってしまったけど、遊菜の昔話を思い出し、納得したところはある。


「直哉は?どうやったん?」

「俺は俺でいつも通りって感じ?まぁ、なんとかなった。っていうのが一番ちゃう?」


 直哉は直哉でいつも通り。本音を隠そうとしているけど、長年一緒にいる私には効果はない。言い方と話し声ですぐにわかるしね。

 何とかなったとはいうものの、内心、ものすごくうれしいんだろう。語尾が少し上ずっていたから。

 うれしいことは通じているけど、あえて口にしなかった。


「とりあえずホテルに戻ろうや」


 私がそう言うと、直哉も立ち上がり、ゆっくりと出口に向かって行く。


「あ~、待って~や~!」


 直哉が歩き出すと、引っ付くように遊菜が直哉の背中を追いかける。

 遊菜はこういうときじゃないと、背中に追いつけないからなぁ。なんて思いながら、私もゆっくりと追いかける。


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