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Episode 66 決め切る?

 そして、ラスト5メートル。

 その5メートルは、本当にあっという間で、激しくタッチ板に手を叩きつける遊菜。

 それと同時に、振り向いて、ターン側にある電光掲示板の方を見る。


『1 大神遊菜 扇原商業 7 58.95』


 ……インターハイのタイムっていくつだった?……59秒01か。……ということは?


「よっしゃー!」


 遊菜がインターハイへの切符を手にした。まさかの結果で、私を今日一番で驚かせた。


『ただいま行われました女子100メートル自由形決勝の7位までは全国大会の標準記録を突破しております』


 正直、この声を聞くまではまったく安心できなかったけど、タイム順に並び替えられた結果が表示されたとき、遊菜の名前やタイムの横に『IH』の文字が付くのを見て、思わず何枚も写真を撮っちゃった。

 それほど嬉しかった。


 その遊菜は、酸欠なのかはわからないけど、自分の頭が追い付いていないらしく、ゴーグルをつけたまま浮かんでいた。

 しばらくすると、係員に「横から上がり」と言われたのか、手招きをされていて、素直な遊菜は、一段低くなっているプールサイドからゆっくりと上がっていた。

 肩で息をしている遊菜だけど、いつもみたいな無邪気な姿はなく、なにかを考えながら引き上げていく姿は、なにかを疑っているように感じた。


 レースは続いて男子に移る。


『男子100メートル自由形に出場する選手とコース順を申し上げます……』


 正直、直哉はこのスピードレースをどう感じているんだろうか。

 たぶん、頭から飛ばしきらないと、後半は勝負にもならないんじゃないかって思っている。

 狙い目というか、鍵になるのはやっぱり前半かな。

 頭を3秒1で入れば、後半も戦えると思う。ただ前半がどうなるか。それ次第で順位がごろっと変わるかなって思うけど、とりあえず、遊菜同様、タイムさえ切ってくれたらなんとかなる。


『第9コース原田くん、扇原』

「直哉~行ったれ~!」


 アナウンスのあとに大きくなる叫ぶ。もちろん、声が届くなんて思っていない。でも、声なしはさすがにかわいそうだし、私としても、気合いをいれたいと思っている。

 そんな思いだけで声を出すのはどうかなと思うけど、それでも、やっぱり、応援する気持ちは忘れない。


 そして、選手全員が紹介され、場内のBGMも消えた。消えないのは、選手に送られる声援だ。

 それも、審判長のゆっくりで鋭く、なおかつ威厳のある笛を響かせるたびに小さくなるけど、4回目がなったあと、まだ若干聞こえるものの、声は小さくなった。

 ただ、長い笛がなると、もうお構いなしに選手に向けて声援が送られる。ここで、遊菜のように、この雑音を切り裂く咆哮をする選手はいない。

 たぶん、遊菜が特殊なだけなんだろうけど……。なかなかスタート台に乗ってから吠える選手なんていないよ。普通。

 そして、ゆっくりと静かになりつつある場内。だこで、完全に静かになるのは、審判長の「よーい」いう声が聞こえたあと。

 完全な静寂に包まれたあと、出発合図員がスタートの合図を出した。

 その瞬間、直哉たち選手10人は思いっきり飛び出していく。

 直哉は、自身の長身と、私が教えたドルフィンキックを打って浮き上がってくる。

 さすがに近畿大会なだけあって、ほぼ横一線でレースが進んでいく。

 なんというか、ファーストクォーターはほぼ横一線。ここからじわりじわり差が開いていく。

 この差をどれだけ広げられずに前半をターンしていくか。それがやっぱりカギになってくるな。


 あっという間のファーストハーフ。わずか25秒でターンしていく選手たち。差は見事にコンマ8秒までに収まっている。

 こう見ると、やっぱり恐ろしいね。男子のスピードレースは。


 直哉はターンした後、ドルフィンキックを打ってスピードを保とうとしながら浮き上がってくる。

 相変わらずとんでもないスピードだな。なんて思いながら、ラストハーフを見届ける。


 本当にあっという間だった。

 レースは遊菜同様、トップを取ることはできなかったけど、なんとか7位でフィニッシュ。

 問題はタイムだけど……。


『8 原田直哉 扇原商業 7 53.03』


 ……えっと、標準記録は……53秒25か。ということは……?


「……よっしゃー!キタ!」


 まさかの2人そろってインターハイ出場を決めた。

 また長浦先生が嘆くんじゃないかな。「今年の夏は長すぎる」とか言ってさ。

 でも、正直なところは、うれしいんじゃないかなって思うんだけどね。

 ここまで来ることなんてめったにないわけなんだし、いろいろ経験できるんじゃないかなって思う。


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