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Episode 65 のびしろを信じたい。

『ただいまの行われました女子200メートル個人メドレーの結果が表示されております。上位6位までは全国大会の標準記録を突破しております』


 う~ん。ここでも100分の1という壁が立ちはだかるのか……。

 かわいそうって言葉で片付けられないことは私がよくわかっている。

 ものすごく目を逸らしたくなったけど、逸らすことも、声をかけることもできなかった。

 それと同時に、直哉たちがこうなってしまったら、私はどう声を掛けたらいいんだろうって思ってしまった。

 たぶん、なにも声をかけることができないかもしれない。なんて思いながらも、「惜しかったな」なんて軽い言葉の意味を知っている私は、そんなことがいえるわけなく、黙りこくるってしまうんだろうなって、頭をよぎってしまう。

 正直に言って、この場から逃げ出したいとさえ思っている。なんなら、結果さえも聞きたくない。

 本人の口から、インターハイ出場とだけ聞きたいって言うのが本音。それが叶わなかったっていうなら、何も言わなくていいし、静かにフェードアウトするだろう。

 まだ直哉たちのレースを見たわけじゃないけど、そういう決意が固まってしまった。

 本人たちには失礼な話だけど、中央大会で止まってしまったらよかったのに。それなら、こんな思いをしなくてよかったのに。なんて思ってしまった。

 ……あっと、くれぐれも今の話は、直哉たちには秘密でお願いね。


 いろんなことが頭をよぎっているうちに、レースは男子の2個メが終わりかけていた。

 この後すぐに遊菜のレース。

 さっきまでいろいろ考えていたことを全部振り切って、純粋に遊菜のレースを応援することにする。

 素直にインターハイ行きを決めてほしいのも本音だし。

 そんなことを思いながら、集中力を高めているであろう遊菜がいる待機場所の方を見る。

 さすがに、つい立に囲まれていて、中の様子炉を見ることはできないけど、強者がそろう中で、自分も強者ぶっている遊菜を想像してしまう。


『女子100メートル自由形、決勝に出場する選手ならびにコース順を申し上げます』


 そんなアナウンスが流れると、ひとりで遊菜を応援する準備をする。


『第1コース、大神さん、扇原商業』

「遊菜~ぶちかませ~!」


 対角線上にいるうえに、いろんなところで応援の声が飛んでいるから、私の声が届くことはないだろうけど、遊菜は、自分のレーンの前に来ると、私がいるスタンドの方を見て、手を振ってきた。

 ただでさえ遠いのに、目が悪い遊菜が眼鏡も度入りのゴーグルもせずに、ここが見えるとは思っていない。たぶん、だいたいの感覚で手を振っているんだろうな。なんて思いながら、私も遊菜に向かって手を振り返す。


 そこから7人の選手が紹介され、登場してくる時間を使って遊菜は、さらに自分の集中力を高めるためか、シャツも脱がずに、コース台に両手をついて、下を向いている。


『第5コース、松山さん、東七ツ松。以上』


 5コースで泳ぐ選手が呼ばれたのが聞こえたのか、遊菜はソロソロと動き、シャツとジャージを脱いで、レ-シングウェアの姿になり、ゴーグルをつけて軽く数回ジャンプした。

 そして、5コースの選手がレースの準備をすると、短く笛が4回鳴って、遊菜はスーッとスタート台に近寄った。

 そして、スタート台に手をかけて長い笛を待っている。

 長い笛は、ある程度静かになるのを待っている。それでも、やっぱり静かにならない場内。少し諦めたのか、長い笛が鋭く鳴った。


「シャア!」


 静かになった場内に響くひとつの声。

 やっぱり、遊菜で、予選とまるっきり一緒のルーティン。気合は十分ね。

 あとは、どれだけのタイムを出せるかってところか。予選のタイムは59秒31だから、コンマ3秒縮めて、ベスト更新をしたら、遊菜は全国大会へ駒を進めることができる。


「よーい」


 その言葉でレースの火ぶたが落とされると思った瞬間、スタートの合図が鳴り、選手10人が飛び出していく。

 その中でいい反応を見せたのは、1コースの遊菜、3レーンと9レーンの選手いずれもスタートの合図からわずかコンマ65以内に飛び出している。さらに言えば、遊菜はコンマ59で飛び出している。

 この素早いスタートがレースにどんな影響を与えるか。見ものだな。


 そんなことを思っているとあっという間にハーフラインを越えていく。

 もちろん、スプリントレースは、最初からほぼ全力で行かないと、いいタイムが出ないから、ほとんどの選手は、最初からある程度飛ばしていく。

 レースはタイム的に見ると、センターラインを中心に山の形になるのが理想なんだけど、そんなことができるわけもない。

 前半型の選手もいれば、後半型の選手もいるし、スプリントレースだから、あまりそういうことはないと思うけど、予選を少し流す選手もいて、その選手が下位から巻き返すように飛ばすと、きれいにひっくり返る。

 ただ、やっぱりセンターラインの2人の選手がレースを引っ張っていく。

 遊菜は、離されないように必死についていっているように見え、ファーストハーフを27秒52の6着で回っていく。

 予選よりもコンマ3秒縮めて来ているな。これがどうなるか。

 感触が悪いって言っていたけど、このタイムを見る限り、感触は改善したのかな。というか、そうじゃないとありえないタイムか。


 レースはラストスパートに入ってきていて、し烈な争いは、やっぱりセンターラインの2人が身体ひとつ抜ける形に。遊菜はさらにそこから身体半分くらい遅れている。

 正直、優勝なんて狙える位置にいないことはわかっていた。だからこそ、タイムを狙ってほしい。

 残り5メートル。


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