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Episode 64 絶叫してしまった

 スパートをかけたのかわからないけど、キックとストロークのときに飛び散る飛沫の量が少し多くなったように感じた。

 ただ、それは見間違えではなく、はっきりとスパートをかけたと認識できるほど、じわりじわりと広がり始めた。

 それは、ほぼ同じラインから頭ひとつ、さらに身体半分に広げていった。

 直哉ってこんなに後半に強かったかななんて思いながらも、フィニッシュの瞬間まで見届ける。


 ハーフラインを越えてからわずかに10秒弱。直哉がヒートトップでフィニッシュした。

 タイムは、予選からしっかりとベストを更新してきて、今のところ、全体の1位に座った。


 そこから10分くらいしたあと、競技のレースが全部終わり、女子と同じように、競技の上位20位までの選手が下から順に表示されていく。


「ウソやん!」


 本日2回目の絶叫で周りの視線で注目されてしまったけど、私も驚いているから驚くのは許してほしい。

 なんと、こちらも8位通過で、決勝に駒を進めたんだから……。

 なんというか、ここまでタイムが出ると、少し怖い。それに、ふたりともベストタイムを1秒近くも更新してきて、決勝進出を決めているんだから、なおさらだよ……。

 ただ、惜しいと思わせるのは、インターハイの制限記録まであとわずかってところ。予選でこれが切れたら、決勝は楽になったのに~とか思いながら、表示されるモニターを見ながら思った。


 とりあえず、そんなハイになった状態から、しばらく放心状態のまま、場内を見つめていた。

 そんな私のもとに直哉と遊菜が戻ってきた。


「えらいことになったな」


 他人事のように私の顔を覗きこんでくる直哉の顔は、ちょっとだけムカついた。


「あんたらふたり揃って化け物過ぎるやろ。ふたり揃ってベストタイムを1秒近くも縮めるとかさ。これが初心者やったらわかるで?コンマ何秒縮めてもすごい世界におるあんたらが1秒近く更新って頭おかしいんちゃうん?」

「俺らもビックリしてるわ。先週の今日でこんなに伸びるとは思ってんわけやからな。それに、アップのときはまったく感触がよくなかったら、諦めてたんやけどな」


 泳ぎからはそういう風に見えなかったから、逆に私がびっくりしている。


「でも、なんか信じられへんな。ここまで行けるとは思ってへんかったし、なんか不思議な気分やわ。やけど、次がいるもんな。燃えてくるで」

「割るのが絶対条件やからな。いくら順位がよくても、タイムが悪けりゃ、全国はポシャンやからな」

「せやね。次の決勝も、ベスト出して、次に駒を進めたいわ」

「とりま、昼めし食うたら、軽く泳ぎに行くか。もう一回感覚を確かめときたい。感触悪くて不安なまま泳ぐのだけは勘弁してほしいし」


 直哉は苦笑いを浮かべると、遊菜に同意を求めていた。

 ……!?というか、2人とも、調子はまぁまぁなんて言ってたのに、感触が悪いままレースをしてたの!?

 それだけでも衝撃なのに、その上、ベストを叩き込んで決勝行きを決めたの!?

 なんだか、この3ヶ月でいろいろ驚かされているけど、今日がダントツに驚いたのかもしれない。

 それなのに、顔色がなにひとつ変わらない遊菜と直哉。より、化け物のように感じてきた……。


「せやね。あんだけ感触がよくなかったのに、ベスト出たんやったら、ちょっと欲張ってもうちょっとタイムを伸ばしたいって考えてまうもんな。でもほんまに行けるんちゃうかって思うし」

「自分におごってるわけちゃうで。ほんまにあと少しってところやから、こんなもんとちゃうって思っとるんよ」


 ふたりとも本当にあと少しだから、どうタイムでもいいから叩き出してほしいとは私も思っている。

 そんなことを思いながら、ちょっとしたランチタイムを楽しむ2人を見ていた。


 つかの間のランチタイムを楽しんだ2人は、30分くらいゆっくりしたあと、荷物を持って降りていった。

 またここからひとりの時間が続く。

 さすがに、中央大会の反省を活かしたわけじゃないけど、簿記や他科目の宿題を持ってきている。

 夏休みに入ったわけだし、たぶん、この夏休みは、ずっと部活三昧になるだろう。それなら、少しでも量を減らしていって、夏休み明け、困らないようにしたい。っていうのが本音。

 たぶん、練習が終わったとしても、翌日の練習やレースのことを考えすぎて宿題が手につきそうもなくなるだろうなとも思ってる。

 さすがに、部活三昧で宿題をしていませんなんていえるわけがない。

 そうならないためにも、少しずつでも進めておきたい。


 そんな宿題をやっているうちに、予選のレースが終わり、決勝のレースが始まろうとしていた。

 決勝の一発目は女子の2個メから。そのあとにある男子の2個メも終わると、遊菜も出る女子の1フリ。

 お祭り女でもある遊菜がなにかしら結果を残せたら、直哉も必死になってなにかしらの相乗効果が生まれると思うんだけどなぁ。なんて思いながら、女子の2個メが始まるのを待つ。

 気分が上がる曲に、スイマーの気持ちを高揚させる場内アナウンス。

 決勝にしかない空気が懐かしく感じるとともに、自分の身体が硬くなっているのも同時に感じた。

 たぶん、8フリの一発決勝をここで見ると、飛び出してしまうかもしれない。

 そう思ってプログラムをめくる。

 ……よかった。明日の2日目だ。それに、明日の種目のなかに遊菜と直哉の出る半フリは入っていない。悔しい姿は見なくてすむかなって思う。


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