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Episode 62 次のステップへ上がるために

 なんとか近畿大会に駒を進めた中央大会から約3週間、商業大会が終わってからたった1週間。いろいろとやるべきこと、直哉と遊菜が課題に感じていることを重点的に練習する日々が続き、明日からもう近畿大会が始まるという頃。

 練習も夏休みに入ったことで、より、距離を泳ぐことができるようになって、より充実した練習を積めているんじゃないかと思っている。

 そんな夏休みのハードな練習も、一昨日から調整期間に設定したため一段落。

 適度なダッシュメニューと相変わらずのフォームチェックで最終調整に余念がない。

 ほんと、コンマ数秒を縮めるために、地を流すような努力を積み上げてきたし、周りでベストを出すような選手もいるなかで、精神的に荒れた時期もあった。ただ、その問題も沙雪先輩と愛那のお陰でどうにかなった。

 あとは、恩返しじゃないけど、堂々とインターハイへの制限記録を割ること。それだけで私たちマネージャー陣は報われる。

 まぁ、それでも1フリでも1秒は縮めないといけないのは変わってないんだけど……。


「とりあえず、調子は?」

「あぁ、悪くねぇよ。ちょっと緊張してるくらいやわ」

「そう。珍しいな。近畿やのに緊張してるって。去年はそんなこと言うてへんかったやん。なんかあったん?」

「なんもないよ。ただただ変に自信が中途半端についてるだけや。変な方向に行けへんかなって感じ」


 何とも珍しい。今までの直哉なら、変に緊張したりして、たまに口調が荒くなったり、よく態度に出たりしていたのに。なんて思いながら、遊菜とロビーで合流し、電車で何駅か移動し、そこからバスでだいたい20分。

 遠いなぁ。なんて思いながらようやく今年の会場に到着。

 直哉派中学の時にも一致度来たことあるらしいけど、その時は、1日だけだったから直哉のお母さんに送ってもらったらしい。

 さすがに今回は1日目と3日目に2人ともレースを予定しているから、そのたびに行って帰ってくるのはちょっとしんどいから、それぞれの保護者に許可をもらったうえで、県庁所在地にあるホテルに泊まり、そこから通うことになった。


「やっと着いたか~。思いのほか遠いなぁ。おかんに車出してもらたらよかったな」


 直哉はパスから降りた後、大きく伸びながら言った。


「叶うならそうしたかったけど、それでも、ここまで出してもらおう乃はちょっと気が引けるわ。それに遊菜もおるしな」

「はへ?何か言うた?」


 ルンルン気分の遊菜は話を何一つ聞いていなかったみたい。

 直哉が地味に緊張しているというのに、いつまでもマイペースな遊菜は逆にすごいなと感じてしまう。

 これが遊菜本来の姿なんだろうけどね。

 とりあえず、会場まで待って、開場してからは、場内の最上段の数席を陣取り、席を確保した後は、直哉たちを公式アップへ送り出す。

 そして、私は相変わらず荷物番をかって出て、じっくりと直哉たちがプールに出てくるのを待つ。

 さすがにここからだと遠すぎるから、昨日のうちにメニューを直哉に渡している。これをもちろん全部できるとは思っていない。その中からいくつかできればいいかなって感じかな。


 数分してから、発色のいい水色のスイムキャップをかぶった直哉がプールの中に入ってきたのがわかった。

 そこからは、私の書いたメニューの本数を半分にしてこなし、中抜きをした後、スタート練習に移った。

 ……うん。ここから見る限りもスタートも問題なさそうだね。少し期待してもいいかもね。まぁ、直哉も遊菜も楽しめたらそれでいい。と言うだろうけど。

 そこから何本かスタートの練習をして満足そうに上がってきたなと思ったら、別のレーンに入って、ダウンを始めた。

 上から見る限り、調子も悪くなさそうだし、私から言うことは何もないかな。

 レース自体は、開会式のあと、10時から男女の400メートルリレーから始まり、そのあと、男女の2個メ、さらにそのあとに男女の1フリって流れになる。

 時間的にはちょうど昼前くらいかな。力を発揮するならちょうどいいタイミングなんじゃないかな。なんて思いながらプログラムをペラペラと捲る。


 気付けば、開会式が始まろうとしていて、周りを少しだけ見渡す。

 直哉と遊菜は戻ってきてないみたいね。たぶん、2人とも小腹を満たすためになにか食べに戻ってくると思うんだけどな。なんて思いながらも、お偉いさんの話を聞き流していた。


 直哉たちが席に戻ってきたのは、ちょうど予選のレースが始まろうとしていた時だった。


「お疲れ様。調子はどう?」

「あぁ、悪くねぇよ。むしろ、ベストが出るんとちゃうかなと思えるくらいやわ」

「遊菜も調子ええで」


 直哉はいつも同じテンションで、遊菜に関してはいつもよりハイテンションで私に答えてきた。

 この2人の答えを聞いて、これなら安心かなってちょっと思った。

 あとは、テンションを上げてどれくらいのタイムを出すことができるかってところ。


「ほんなら、予選もタイムを狙って行けそうなん?」

「一応、あんだけ面倒見てもらったからな。なにかしら返さなあかんやろ。とりあえず、ベスト。決勝は二の次やな」

「ほんまいつも通りやな。まぁ、うちはもう見守ることしかできひんし、楽しんで来いや」

「なんやろうな。美咲にそう言われると安心するわ。とりあえず、ちょびっとだけ食ったら行くか」


 直哉はそういうと、パウチドリンクを一つ手に取ると、一気に飲み干し、もうひとつ同じパウチドリンクとレーシングウェアの入ったポーチを持って階段を下りていく。


「遊菜、追いかけんでええの?」

「うん?うん。まだ食べ終わってへんから、食べたらすぐに行くで。ただ、先にこれ全部食べさせてや」


 そういうと遊菜は、タッパーに入っていたサラダを大きな口で食べ終わると、直哉と同じようにレーシングウェアの入ったポーチを持って階段を下りていく。

 そして、また私は、2人のレースが始まるまで荷物番をすることになる。


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