Episode 61 結果発表
閉会式が始まり、先に、得点合計で競う競技でもあることから、合計得点の上位3チームが発表されることに。
「総合得点の発表を行います。女子第3位、大正商業高等学校、12点。第2位、鶴橋商業85点」
鶴橋商業が2位だったことが分かった瞬間に、ずっと祈るようにスタート側を見ていた成海先輩が泣き崩れた。その様子を見た沙雪先輩が介抱する。
「第1位、扇原商業、98点」
思った以上に差が開かなかったことを考えると、人数の差というよりも、戦略勝ちしたところはあるかもしれない。
そして、成海先輩は、しっかりと扇原商業が1位だということがしっかりとアナウンスされると、そこに福浦先輩も後ろから抱きついて喜びを共有していた。ついでに言うと、成海先輩は、声を漏らしながら泣いていた。
「なんか、これを見たら、しっかり頑張って良かったって思えるんちゃう?」
喜びをわかちあっている3年生に巻き込まれないように逃げた遊菜が私に話しかけてくる。
「せやね。うちがでぇへんって言うたら、個人の12点とリレーの2点がなかったわけやからね。前もって言うてほしかったけど」
「成海先輩って、けっこう勝負事にこだわってるもんな。それに、沙雪さんから聞いた話やけど、ここ数年、女子の優勝は、数にものを言わせる鶴商やったわけやしな。雪辱を晴らしたってところなんとちゃう?」
「やと思うで。それに、成海先輩も自分で11点稼いだわけやしな。半ブレだけ惜しくもってところやったけど」
ずっと泣き続ける成海先輩を見ながら遊菜と少し話していた。
「続いて、男子の部の発表です。第3位、福島商科、15点。第2位、鶴橋商業、86点。優勝は、扇原商業、90点」
このアナウンスに立ち上がったのは、部長たち3年生。3年生同士でハイタッチをしたあと、直哉たち1年生ともハイタッチをかわした。
「なんか、小さい大会やけど、先輩たち、いろいろ詰め込んでたんやな。頑張ってよかったかも」
遊菜がボソッとそういうと、「うちも一緒やな」とだけ返して、歓喜に湧く3年生と、少し引いている1年生を眺めていた。
そんな湧いている3年生を急かすように、「扇原商業の男女双方の代表者はすみやかにスタート側に来てください」と言われ、ようやく気づいたかのように慌てて表彰スペースに部長と成海先輩が走っていった。
そして、無事に表彰式が終わり、長浦先生が簡単に講評とあいさつをしたあと、解散となったけど、短時間でもとに戻すために、参加者全員で後片付けをして、5時半になる前に片付けは終わり、各校がゾロゾロと帰っていく。
「やっと終わったって感じやな」
隣で大きく伸びながらいう直哉。その顔は少し疲れていた。
「せやね。やけど、男女アベックで優勝できたんはよかったんちゃう?」
「まぁ、やるからにはってところはあるわけやん。それが形になっただけやん。あそこまで芦屋先輩が泣き崩れるとは思ってなかったけどな」
「まぁ、泳ぎはじめのころからずっと言うてたからね。それに、聞いた話やと、去年は1点差とか言うてたから、なおさらとちゃう?」
「やと思うで。来年からは俺らが守って行かなあかんようになるし、ここにしか出られへんっていう選手を作らんようにチームを底上げはしていきたいよな」
もっともなことを言う直哉。けど、その目は、なにかを考えているようにも思えた。
「何を考えてるん?」
「……ん?あぁ。この夏で1年がどんだけ伸びるかなって。もちろん個人差もあるし、やる気の度合いもちゃうやろうから、個人に合わせた目標が一番なんやろうけど、まぁ、難しいやろうな。とりあえず、俺は全国を目標にしてるわけやし、大神も俺を抜くのが目標やろ?いろいろあるわけよな……」
まぁそうだろうな。とは思いつつも、いろいろ考えることはあると思う。
それでも、やっぱり目の前の階段を一歩ずつ登らないと、目標に到達できないわけで、私としても一歩ずつ踏みしめていくだけ。
「あとは、これでようやく近畿大会に集中できるかなってところやな」
「言うて1週間後やけどな」
「ギリギリまで諦めへんからな。半フリでコンマ2やし、1フリはコンマ5縮めてあとはどうなるかってところやろうな」
「ほんまに、スタートとターンひとつってところやな。やけど、フライングしたらそれまでやしな。難しいところやと思うけど」
「目の前の誤魔化しで言うたらやけどな。やけど、そんなんで全国行ったところで予選落ちやろうし、正直、もっとレベルアップせなあかんわ」
そりゃそうだな。こうもなってくると、ちょっとFCメニューを減らしてSPメニューを少しずつ増やしていくか。それでどういう効果があるかわからないけど、やってみるか。
「とりあえず、今日は上がるか。ほんで、明日からまた気合い入れていくか」
直哉は気持ちを切り替えるようにわざとらしく言うと、大きく伸びた。
気持ちを入れ換えたいときの直哉はすぐわかる。こうやって大きく伸びるんだから。
「せやね。3時間4レースなんか経験ないやろうし、軽くダウンしてからでもええんちゃう?」
「そうするか。明日から鬼メニューが待ってるかもしれへんしな」
「言うほど鬼ではないやろ。ハーフエイト4セットサークル40のレストワンは今思い付いたけどさ」
「美咲、自分でなに言うてるかわかってんの?1セット400を5分ちょっとでやろうとしてるんやろ?バケモンかせめてスリークォーターやわ」
えらく直哉は抗議してくるけど、明日は問答無用で入れるつもりでいる。
サークルを5秒縮めただけでどれだけ疲れるのか見てみるつもりだ。
そこから少しだけ泳いで、7時になるころに上がってから家に帰った。




