Episode 59 私の後に続く選手たち
「やっぱ、うちらのマネージャーや!」
すごい声が聞こえたけど、これは全部遊菜。それにしても、よく響くこと。
そして、遊菜の声に反応した周りが少しざわついた。
まぁ、そりゃ、ざわつくか。マネージャーが選手としてレースに出ているわけだし、それに、今気づいたけど、男子が恥ずかしそうにしていたし、リレメンの男子に「女子に負けてるやん」って冷やかされていたところを見ると、どうやら、私が本当に先に泳ぎきっていたみたい。
「やるやん。まさか、ガチで男子に勝つとは思えへんって。咲ちゃんはやっぱ、最強のマネージャーやで」
「今度は遊菜の番やで。ええところ見せてや」
遊菜がえらく興奮している中で、発破をかけるように私も声をかける。そのあと、軽くグーを突き出すと、遊菜も突き返してきた。
「ここで魅せへんかったら女やないで。咲ちゃんがあんだけガチになったんやったら、うちがガチにならなあかん理由はないやろ」
強気な遊菜の発言も心強いし、なにより、遊菜はこうでないと。
そんなことを思いながら、チームの席に戻り、自分のスプリットブックを眺める。
ファーストハーフが45で、さっきの1バックの時とタイムが変わらない。そのあとのセカンドハーフも50秒かかっている。そこから3秒落ちて持ち直してフィニッシュ。トータルが、3分09秒22か。意外と持ったというのが本音かな。あとは、このままリレーが終わるのを待つだけか。
そんなことを思いながら、個人種目としては最後の男子2フリが終わり、最後のリレー競技。
女子も男子も、やる気は十分みたい。とくに、遊菜はね。もうすでに、エンジンを空吹かしして、テンションも上げている。
そんな扇商のファーストスイマーは、福浦先輩。すでに集中して、力を抜くために数回ジャンプしてから、ほっぺたをパシンとひとつ叩いた。
どうやら、やる気は満々みたいね。まぁ、この大会ラストレースだし、優勝が狙えるレースだから、相当なやる気みたいね。
「シャア!」
笛が鳴ると同時に吠えたのは、遊菜じゃなくて福浦先輩。意外にも、声は響いて、25メートル以上先にいても聞こえるのはすごいなと思ってしまった。
気合十分の福浦先輩は、スタート台に立つと、いつも以上にゆっくりとスタートの構えに入る。
集中しているんだろうけど、なんというか、いつも以上に迫力がある福浦先輩。変なことを言うと、すぐにかみついてきそうな勢い。ちょっとした怖さもある。
そして、スタートの合図が鳴ると、福浦先輩をはじめ、5人の選手が一気に飛び出す。
見る限りスタートダッシュは完璧だと思う。それに、福浦先輩は、スタミナのほかにスタートダッシュも練習していたしね。
スタートダッシュを決めた福浦先輩。ファーストクォーターの入りは完璧。それに、なんというか、今まで以上の泳ぎに比べて一番活きがいい気がする。そう見えるのは気のせいなのかもしれないけど、今までの見た中で一番早い気もするから、気のせいじゃないんだと思う。
今回は、計測係を選手も含めた部員全員で回しているから、私がストップウィッチを握ることは少なくて、今回のラストレースも愛那が握っている。
私の出番が少なくて少し寂しい気もするけど、それも仕方ない。それに、私がいないときにもやってもらわないといけないことになるし、練習という意味ではちょうどいい機会だと思ったから、ほかの選手にもやってもらっている。
まぁ、例年らしいけどね。選手が計測係員も兼ねるって言うのは。
さて。そんな話をしている間に、レースはファーストスイマーからセカンドスイマーにバトンタッチされようとしていた。
福浦先輩は、トップ争いをしている中で、力強い泳ぎを見せて2番手でバトンタッチ。それも、わずかコンマ3秒ほどの差に見えた。
ただ、ここから扇商は、平均タイムの遅い選手が2名出てくる。どこまで離されるかってところなんだと思うけど、心配はしていない。
だって、個人のレースで10メートルほど突き放してフィニッシュするんだもん。それくらいの差で収まれば、ひっくり返すことができるんじゃないかとは思っている。
先に飛び出すのは川上先輩。ミドルもスプリントもタイムが変わらないから、この人はわかりやすいけど、ここでハーフが45というのは少しきついかもしれない。
まぁ、川上先輩がリードをひっくり返したり、ついていけるわけはなく、目に見えて引き離されている。
仕方ないと割りきりつつも、なんだか早くおいついてほしいって思ったり、もどかしい気持ちにもなる。
なんというか、もっと飛ばせないのかって思っちゃう。
だけど、わかってはいる。川上先輩がこれ以上の飛ばし方を知らないこと。
ロングのフォームが癖付いちゃって、スプリントの練習だったり、レースに出たとしても、フォームがロングになってしまう。
一度だけ、スプリントのフォームに矯正しようとしたことがあるけど、結局、フォームがバラバラになって、かえってタイムが遅くなってしまった。
もう仕方ないと思って、矯正することを諦めて、そのまま流すことにした。結果が~とかはもう言う気にならないけど、やっぱり、もうちょっとどうにかならなかったのかなとも思ってしまう。
差は少し開けられてバトンタッチした川上先輩。代わりに飛び出していったのは芦屋先輩。
さすがに、ブレの選手だけど、早い順に並べても3番目に入るんだから仕方ない。
ベストタイムで見れば、川上先輩に比べて芦屋先輩のほうが半フリでも5秒ほど早く、個人の半フリと1フリを見ても、平均くらいのタイムを持っているから、そこまで離されることはないかなって思っている。
まだ5メートル差。射程圏内だとは思うけど、ここであまり離されると、ラストの遊菜で巻き返すのがキツくなる。
ただ、そこまで心配することじゃないと思う。意外に差が詰まらないことに少しだけ安心している。……まぁ、後ろからもじわりと詰められているようにも見えるんだけど。
「成海先輩!ラスト!上げて!もっと上げて!上げて上げて上げて!」




