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Episode 5 進学先を決めた理由

「直哉。聞きたかったんやけど、なんで、強豪校いかんと、うちとおんなじ高校にしたん?」

「……別に深い理由はねぇよ。ただただ強いところで泳ぎたくねぇと思ったんだよ。強豪校だからなんだったてんだよ。それに、遅いやつらがいっぱいいてちゃ自分の感覚がつかめねぇからな。それに泳ぎにくいし」

「それやったら、扇原もめっちゃ遅いやん。府大会?より上に行った人おれへんはずやで」

「俺は、抜けるか抜かれへんかの中途半端なスピードのやつらとは泳ぎたくねぇんだよ」

「やからって、他にもいっぱいあったやん」

「決まってんだろ?近場で知ってるやつらが少ないからだよ。あんまり多いと逆に集中できねぇし。ここはあんまりいないんだろ?神中からくるやつって。だから選んだんだよ」


 たしかに、私と直哉の出身校の神南中学から進んでくる人は少なく、あと1人、知らない子が一緒だったくらい。


「ふぅーん。直哉のことやから、うちについてきたんやと思ってたわ」

「まぁ、それも1つあるかな。さすがにひとりだときついからな。1人くらい知ってるやつがいてもいいじゃねぇか」

「そんな決め方でよく受かったね」

「必死やったからな。一発で決めて、受験で抑えてたぶん、身体戻したかったし。まぁ、近くにプールもあるし、悩みの種は消えたよ。あっ、せや。美咲、この辺にプールがあるらしいねんけど寄っていっていいか?すぐに終わるから。近いし、いつも行ってるとこより少し安いらしいし」

「別にええで。もしかしたら、これからうちもついていかなあかんかもしれへんしな。わかってるんやから」

「さすが美咲。1個先の扇町や。二人とも定期圏内やろ?行ける行ける」


 扇町か。また微妙なところにあるなぁ。でも、歩くより電車のほうが速いのは断然。

 また直哉はコーチとか付けずに単独で全国を目指しに行くつもりなんだろうか?その前に、速い人たちが全国から大阪に集まる戦場の中で、単独で練習を続ける直哉が食い込めるのか。それだけが心配の種。

 インターハイの標準記録はクリアしているはずだけど、トップ争いをするのであれば、さっき、去年の記録を見たけど、ハーフのレースで23秒2台が必要になる。

 それを直哉はインターハイで出せるのかって話。

 泳いで見ないとわからないけど、もしスタミナや筋力など、いろいろ落ちているなら今年の直哉はわからない。でも、今年は諦める可能性だってある。ただ、それはあくまでも可能性の話。強行で突き進むことを去年もしているから、今年だってわからない。

 タイミングよく滑り込んできた電車に乗り込んで、1分くらい。自動放送が絶え間なく流れていた。


 あっという間に次の駅に着くと2人揃って電車を降りた。地上に上がると、すでに時刻は6時。さすがに周りは暗い。だけど、春らしいさわやかな風が吹いていた。

 そして、出てすぐのところには公園が広がっていて、右を見ればテレビ局。公園の左を見れば、水路を挟んで平屋建てに近い建物がぽつんと建っている。直哉がそっちのほうに向かって歩き出すことを考えると、こっちがプールなんだろうな。と直感で感じる。

 このプールは地元のプールよりこじんまりしている。地元はプールとトレーニングルームはあたりまえだけど、そこに会議室と公立図書館が併設されていて、今いるほうのプールのほうが小さく見える。


 中に入ると、フロントが広がっていて、思っていたものより少し広かった。

 直哉は迷うことなく、入ってすぐの階段を上り始める。私も遅れないようについていく。

 階段を上りきって少し歩くと、プール全体が見渡せる観覧席になっていた。


「まぁまぁかな。若干人が多い割りにはレーンが少ないな。まぁ、行かれへんことはないやろうし、ここにしよか。ほなあしたからやな。たぶん、今日の感じで陸トレが続くんやったら終了時間の8時まで泳げるやろ。ざっくり2時間半。問題なさそうやな」

「そんなに泳ぐん?」

「計ってみなわからんけど、6くらいまで落ちてる気がすんねんな。6月末までに4秒くらいまで持っていかへんと、全国は夢のまた夢やからな。まぁ、そこにベストが出たら1番完璧。いけるところまでいかねぇと男じゃねぇ。1年でインターハイのトップを取って全国をアッと驚かせたる」


 直哉は完全にやる気だ。中学時代は3年計画とか言ってコツコツやってきたけど、今年は最初からインターハイを狙ってきている。


「何を、そんなに焦ってるん?そんなに焦る必要、あるん?」


 恐る恐る直哉に聞く。


「別に焦ってへん。インターハイは人生の中で3回しかないねん。全部出なおもろないやん。俺はインターハイに全部出るつもりでおるから」


 ものすごい強気発言。これが直哉だけど、今年の直哉は今まで以上に強気。これが空回りしなかったらいいんだけど……。


「あっ、せや。美咲、マネージャーとして水泳部にはいんねんな?やったら、メニュー、作ってくれへん?」

「なんで?今まで1人でやっとったのに。急にどうしたん?」

「オフシーズンはな。でも、これからシーズンが始まるし、いつまでも意味のない練習を重ねとっても、これ以上は速ならんし、体に負担かけるだけやから。やから、練習メニューを作ったこともあったお前に頼みたいねん」


 そういうことか。今までは無茶なことしかしてこなかったって言うことか。だったら一肌脱ぐか。直哉にインターハイへ連れて行ってほしいし。


「わかった。でも、思い出すことがたくさんあるやろうし、調整も含めるからちょっと時間がかかるけどええ?」

「あぁ、また作れたら教えてくれや。そしたら、帰るか。また明日もあるしな」


 それを聴いた瞬間、えっと思った。今日の直哉なら泳ぐと思ってたんだけど……。


「帰るん?泳がへんの?」

「あ?あぁ。今日はなんも持ってきてへんしな。たまにはゆっくりしてもええやろ」


 そういうと、直哉は来た道を戻りだした。

 これからどうなるか。見えない未来が面白くなりそう。


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