表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/235

Episode 58 続けて2本目の個人レース

 とりあえず、ここから2時間ほどの休憩時間を挟んだあと、最後の2バックに備えるか。まさか、20分で2レースもやると思っていなかったから、少しばかりタイムは悪いだろうけど。


「やっぱり咲ちゃんはマネージャー陣最強やね」


 一足先に戻っていた遊菜が声をかけてきた。


「マネージャー陣最強って。そんなわけないやろ?何着フィニッシュかはわかってへんけど」

「何言うてんの?トップフィニッシュやで。しかも、愛那っちの手計りやけど35も出てるし」

「嘘やん!?トップフィニッシュ!?35もかかってんのに?」

「けっこう差はギリギリやったけどな。やけど、咲ちゃんのほうが1秒くらい速かったわ」


 意外と接戦だったんだ。かなり差を開けられてフィニッシュしたとばかり思っていたから。

 やっぱり、ガチじゃない商業高校なだけあって、レベルはかなり低い。だけど、ここでしか目立てないという言い方はおかしいけど、張り切る選手がいることも事実。水を差さないようにしないと。


 ただ、私の予想とは裏腹に、自然と小さな大会に一喜一憂したりして、心の底から楽しめていた。

 中には、練習の成果が出て、ベストを更新する選手もいて、マネージャーとしても誇らしかったり。なんというか、今までなんで避けていたんだろうって感じ。

 やっぱり、私から水泳をとっちゃ、何も残らないんだって思っちゃうよね。


 そして、大会も残り種目は片手で数えられるほどまで進んできた。

 すでに私は最後の個人種目の2バックに出るために招集を受けて、椅子をひとつ空けて、同じ2バックに出る選手と並んで座っている。

 この2バックに女子からは私だけ。そして、男子は東商業だったかな。そこからひとり出場。

 その男子は一緒に泳ぐ人が私しかいなくて、少し緊張した表情を浮かべている。

 見た感じ、あまり早そうだなと思える身体つきじゃこちらもこちらで点数稼ぎかなって思うところ。

 そういう私も得点稼ぎで出場しているから、なんとも言えないんだけどね。

 あとは、その後ろで最後のリレーに向けて準備をしている。

 今日だけはすっかり選手気分になっているな。と感じつつも、現役当時を思い出しながら、肩周りや膝の関節を回す。

 なんだかんだ戦闘モードに入っている私。この戦闘モードはレースが終わると同時に消え去るんだろうなって思いながらも、ゆっくりと準備を続ける。


「ほんなら、男女2バックにいこか。楽しんでおいでや」


 長浦先生に軽く送り出されて、泳ぐつもりの6レーンに入る。男子選手は2レーンに入った。

 ちょっと異様な雰囲気はあるけど、楽に得点が入るならそれでいい。これで面白いのは男子に勝つこと。

 私自身、ラストレースになるんだし、思いきって最初から飛ばしてみるか。これで勝てたら絶対に面白い。

 そう思えてきたら、なんとなくやる気も出てきたな。

 ……よし、やってやるか。そう思って、笛がなるのを待つ。

 そして、何度も聞いた笛の音に身体をこわばらせながら入水。やっぱりまだ慣れないなぁ。なんて思いながら空を見上げながら苦笑いを浮かべ、静かにスタートの構えを取る。

 だけど、ここから集中しなおして、「よーい」と聞こえれば、スタート台に身体を引き寄せる。

 音が鳴ったと同時に!なんてまた思うけど、それも叶わず、少し遅れてようやく飛び出せた。

 そこからは、男子に負けないようにご自慢のバサロキックを打ちこみ、なんとか追いつけるように泳いでいく。

 浮き上がってからはあっという間の25メートルで、なんだか、こんなに短かったっけなんて思ってしまった。

 パシャンと、素早くクイックターンを決めると、また楽しみながら自慢のバサロキックを打ちこみ、浮き上がると同時に、100のときより、少しだけテンポを落としたピッチストロークで泳いでいく。

 そして、あっという間に50のターンも終わり、75のターンもこなし、そろそろきつくなってきたバサロキックも頑張って打って浮き上がると、ターン側に直哉がいるのが見えた。

 何しているんだろうと思っていると、片手を高く、片手を低く、そして、高いほうの手で私を指さし、去れ!といジェスチャーをしていた。

 なんのことかわからなかったけど、とりあえず、頑張れということだけは通じた。と思う。もちろん、今でも頑張っているつもりだから、このまま突っ込むつもりで入るよ。それに、人生最後のレースかもしれないしね。楽しまなきゃ損でしょ。

 そんなことを思いながら、最初の100よりも、少しだけピッチを上げて、感覚はビルドアップで泳いでいく。

 それくらいの感覚じゃないと、このあとのタイムはズルズルといくことは目に見えているし、ずっと言ってるかもしれないけど、せっかくのレースを楽しまないと損でしょ。

 そんなことを思いながら、ラスト100メートル。

 さすがに、スタミナも底をつきかけてきているけど、まだなんとか腕と呼吸は生きている。ただ、自慢のバサロキックを打ちだす太ももが結構限界に近いかも。

 明日の筋肉痛はすでに決まっているんだし、ここはもう女を見せるしかないかな。

 そんなことを思いながら、125メートルのターン。

 さすがに、最初みたいにバサロで潜って距離を稼ぐことはできない。たった5メートルで浮き上がって来て、そこから徐々に重くなりつつある腕を必死に回し、だんだんと必死になりつつあるけど、それでも楽しさを感じながら泳ぐ。

 さらにそこから150と175のターンをなんとかという形で回ってから、最後の力を振り絞るようにめちゃくちゃなストロークピッチとキックで最期を泳ぐ。

 ラスト5メートルのフラッグが見えて、頭から水中に顔を突っ込み、距離を測り、2掻き、また頭から水中に顔を突っ込み、最後の距離確認。そのあと、最後1掻きしてタッチを流す。

 もう、現役の時と同じような泳ぎはできない。だけど、泳ぎ切れただけで満足かな。

 最後は軽く流して、ゆっくりとフィニッシュ。

 そして、ゆっくりプールの底に立つと、ようやく一息つく。

 しばらくしてから、水面が静かになってから、まだなんとか残っている腕力で身体を支えながらプールサイドに上がる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ