Episode 52 ハプニング発生。
「もう、ボロボロやな。軸もブレてるし、ブレスの時に左手も落ちてるし。肩の筋肉も落ちとるか?」
直哉が声をかけてきて、私のフォームを見ていたのか、中学の時の私と違うところを指摘してきた。
「そんなにおかしい?」
「ドルフィンの強さは相変わらずやけど、レフトストロークのタイミングずれ撮るわ。昔から癖があったんか知らんけど、ちょっと癖が出てきてるって感じやと思うで」
そういえば、フリーの時、若干タイミングがおかしいって言われたことがあったな。
しばらく泳いでいなかったから忘れていたけど、中学の時の顧問にも言われていたことだ。
あの時は、確か癖を矯正したけど、しばらく泳がなかったから、その時、何て言われたかも忘れた。こうなりゃ、選手としてもう戻れないな。
なんて思いながら、直哉に言われたことをちょっと意識してまた50メートルを泳いでいく。
そこからバックの感覚を確かめるために、2本泳いだ後に、成海先輩が、バタバタあと私のところに飛んできた。
「美咲ちゃん!マジのお願いがあるんやけど、飛鳥のアホが寝坊しよって、香奈ちゃんも家の事情で、バックがおらへんねん。やから、リレーのバック、出てもらえへんやろうか?」
なんとなく、嫌な予感はしていた。けど、結果がこうなるとは……。
ただ、こうなった以上、覚悟を決めないといけないかな?
……そういえば、成海先輩って、口酸っぱく、鶴商には勝って優勝したいって言っていたよね。
拒否して、棄権して、自らその夢から遠ざけるのは可哀そうか。
「スタート、壊滅やってさっきも言いましたよね?それでもいいなら、行きます」
「ほんまに!?マジで助かる!スタートはフライングさえせんかったらそれでええし、順位何て気にせへぇんから頼むな」
一気に顔を色を変えた成海先輩。私の回答次第では、ポイントをあきらめていたのかもしれない。それでも私が出ると言ったら、顔を少し輝かせた。
さて、これで個人の2レースに加えて、もう1レース出なきゃいけなくなった。
3時間で3レースのトータル350メーター。まぁ、やったこともないレース予定になるから、スタミナが心配なところもあるけど、やるしかないか。
そこからもう少しだけ泳ぐと、じわりじわりと泳ぐ人が増えてきていることを考えると、他校の選手が徐々に到着して、アップを始めていると考えるほうが妥当か。
となると、少しの間泳がせてもらっていた私は上がって、ストレッチに時間を使おうか。
そう思うと、軽く100メートルだけ流してからプールサイドに上がり、肩からバスタオルを羽織り、数段低くなっているところに倉庫があるんだけど、そこからストレッチ用のマットを取りだし、日当たりがいいところでゆっくりとストレッチをして、時間がくるのを待つ。
「さすが。元選手のマネージャーは余裕ですな」
声が聞こえてきて顔を上げると、正面に直哉がストレッチマットを持って立っていた。
「そんなことないで。結構ヤバいと思ってるくらいやし、なんなら、棚橋先輩が寝坊したらしくて、バックがおらんくなったら、リレーに出てとか言われたし」
「女子はフリーが多いもんな。バックとブレが2人ずつおるとはいえ」
「しかたないけどね。みんな短距離じゃないだけマシやと思うしかないんじゃない?」
「男子ものんきなこと言うてられへんけどな」
それでも私たちは恵まれてるいるほうだと思う。
2年生が1人もいないけど、3年生が抜けても、1年生だけで各種目1人ずつは残るし。
女子のバッタは、選手復帰が近い愛那か遊菜が飛べばいいと思ってるし、バックにも香奈ちゃんがいるから、私が選手復帰するのも、この大会限定になると思う。
「まぁ、今はギータにバッタを頑張ってもらってるからな。もし、バッタで伸びひんくても、フリーがバッタの練習でフリーも伸びてくれるやろうし」
バッタが速くなると、フリーも速くなる選手もいる。
私が実際にそうだったというのもあるけど、バッタをメインで練習しているギータが伸びてきているのも事実。
まさか、ギータが5月から見て1フリを3秒も縮めてくるとは考えもしなかったから、うれしい誤算でもあるけど、どこまで伸びてくれるんだろうという期待のカケラを見せてくれる。
「これでギータが市大会までに10を割ってきたらおもろいんちゃう?」
「もしやけどな。やったらおもろいで。バッタも伸びてくれたらええんやけどな。まぁ、あかんかったらあかんで俺がバッタに回るだけやし」
「でも、直哉がバッタに回るだけでリレーのトータルがだいぶ落ちるもんな。それだけはちょっと避けたいところやから、ギータの成長に期待ってところやけど」
「あっ、そんなところにおったんかいな。そろそろ開会式やで。咲ちゃんも準備進めなあかんのとちゃう?」
ストレッチをしながら直哉と話していると、遊菜が私たちを探していたようで、声をかけてきた。
まさかの出場種目が増える美咲。
チームのために一肌脱ぐと決めたとはいえ、どこか不安な様子。
ちゃんとチームに貢献できるのでしょうか?




