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Episode 51 レース前の準備

「そんなんやるんやったら言うてくれたらよかったのに」


 屋上に上がり切った時、すでにプールに入っていた直哉が私に声をかけてきた。


「別にええよ。マネージャーがやることやと思ってたし」

「そういう強気なところよな。レースで出てきてくれたらええねんけど」

「アホなこと言わんといて。とりま、今のうちに泳ぐんやろ?練習メニュー考えたろか?」

「そこまではええわ。昨日みたいに水を体に慣らすだけやし。それいん、ちょっと身体が硬いくらいで、レースにそんな影響はないやろ」


 そういうと、直哉は、仰向けに軽く浮くと、腰のあたりで数回スカーリングをしてから流れるように浮く。


「あんたは相変わらず器用に浮くな」


 そんなことを言って、私は足で直哉に水をかける。


「うえっぷ。何すんねん」

「なんとなく?でも、あんたらしいよな。こんなに優雅に泳ぐんは」

「練習の日とはちゃうからな。のんびりしてもええやろ。それにしっかりと、レースは決めるからええやろ」


 相変わらず気楽にしているな。さすがに小さなレースだとこれほど優雅にするのか。

 それに、先輩たちがいる中でこれほど優雅にできるのはさすがだな。と思っている。

 これほど我を持った直哉は久々に見たけど、これほど優雅な直哉も久々に見た。

 いまだに私の中では、レースの日の直哉は、常に険しい顔で結果を追い求めているイメージ。

 それが、今の直哉は、結果こそ追い求めているけど、今日の様子じゃ、集中しているようには見えない。なんて言うか楽しんでいる感じ。


「よいしょ~!」


 そんなことが聞こえたのと同時に背後でどぼーんと誰かが飛び込んだのがわかった。

 振り返らなくても、こんなことをするのは一人しかいない。遊菜だ。

 どうせ、スイムキャップもかぶらず、ボブな癖毛を濡らし、キャハハ笑うんだろうな。

 なんて思っていると、案の定というべきか、わかりきっていたけど、後ろから遊菜がキャハハと笑う声が聞こえた。

 そして、ウォータージャグを置いてようやく後ろを振り返ると、遊菜がクラゲのように浮いていた。

 ここまではいつものセットだなって思ってあまり気にしなかった。


「あっ、美咲ちゃんも来てたんや。ごめんな。沙雪から聞いてると思うんやけど、レースに出てもらうことになってるんよ。言うたつもりやってんけど、ほんまにごめん」


 成海先輩は、私の姿を見つけるとすぐに私の方に駆け寄って来て、声をかけてきた。


「正直、どうなるかわかりませんけどね。昨日も少し泳いでみましたけど、スタートはできないし、スタミナもないし、なんか、ボロボロすぎて泣きそうでしたもん」

「もしかして6月頭くらいに言うたら間に合ってた?」

「どうでしょうね。スタートだけは克服できないかなって。それさえどうにかなれば、選手に戻るかもしれないですけど、スタートの瞬間に足が動かないんじゃ、どうにも選手には戻れないと思いますね」

「ここだけの話し、飛鳥や鈴坂さんより美咲ちゃんの方が速いんとちゃうかなとは思ってるんよね。やから、うち的には美咲ちゃんの力を借りたいんよね」


 遠回しに「リレーに出て」と言われていることくらい、言われなくてもわかる。

 だけど、病院を嫌がるグレートピレニーズのように、断固として動かない意思を示してしまった。

 それを見た成海先輩はくすっと笑った。


「もともと無理をさせるつもりはないんやけど、そんな顔されたら余計に無理強いできひんやん。遊菜ちゃんは美咲ちゃんに出てほしいみたいやねんけどな」

「まぁ、遊んでいるときの泳ぎを見たら言いたくなりますよ。やけど、スタートが克服できひん限りは、よう復帰できひんと思います」


 いろいろあるのよ、私にも。

 とりあえず、今日をやってみてどうなるかってところかな。


 私もやることが終わって、まだ余裕のあるうちに軽く泳ぐ。

 今のうちに昨日の感覚を思い出しておきたいって言うのがある。


 ……今が外気温で28度、水温が29度ってところかな。昼には外気温が34度予想になっているから、気持ちよく泳げそう。全部肌感覚だけど。

 そんなことを思いながら、ウェア姿になって、軽く水浴びをしてからちゃぽんと肩までつかるように入る。

 ……うん。ちょうどいいくらい。あとはレース前にストレッチをしたらちょうどいいくらいなんじゃない。なんて思いながらキャップをかぶり、ゴーグルをして、軽く潜ってから壁を蹴り、ドルフィンキックを数回打ち込み、ハーフラインに届く前に浮き上がって来て、ゆっくりと大きく身体を動かすようにフリーで泳いでいく。


 ……やっぱり、昨日よりもドルフィンキックの調子がいいように感じる。

 あとは、戻りもしないスタミナがどこまで持つかってところだな。

 それに、意外と肩のローリングも上手くいっているけど、軸がブレているって感じるところがあるかなって感じ。

 これに関しては、数本泳いだだけじゃ、どうにもならないかな。

 回さないっていう選択肢もあるだろうけど、そうすると、たぶん、さらにフォームが乱れるだろう。って考えると、軸が少しブレていたとしても、ローリングして泳ぐほうがいいかなって思えた。


レースのためにいろいろ試行錯誤する美咲さん。

なんとか個人だけでもいい結果が出てくれたらいいですね

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