Episode 50 私が選手復帰(仮)する日
夜が明けて、ちょっとした筋肉痛を腕に感じながらゆっくりとベットから起き上がる。
久々に体が重いな。と思いながらも、キッチンで適当に朝ご飯を作って食べて、練習用のウェアと、しばらく着ていなかったレーシングウェアからスイムタオル、スイムキャップをカバンの中に入れると同時に、こういうことをするのは懐かしいなと思った。
少し緊張もしてきた。小さな大会だから、そんな緊張することはないんだろうけど、なんだろう。ほぼ1年ぶりのレースとなると、やっぱり、ちょっと難しいかな。なんて思てしまう。
とりあえず、最終準備をするために学校へ行きますか。
家を出ると、何を思ったのか、直哉も同じタイミングで家を出てきた。
「相変わらずってところやな」
「ほんまに。なんでこうもタイミングが一緒なんやろうな」
「こんなことになるから俺とお前が付き合ってるとか噂が出るんやろうな」
確かに、無視や否定はしてきたけど、常日頃から一緒にいるから、そういうことになるんだろうな。って思ったり。
「まぁ、しゃあないんちゃう?クラスは別とはいえ、学校でも放課後でもなんなら、通学の時も一緒やねんから」
「あぁ、考えてみたらそうやな。それに、雰囲気は何となく悪くないもんな」
「アホか。でも、ギスギスやったらそれはそれでマネジメントなんかできひんし。まぁ、一時期はやばかったやろうけど」
入学した時は、ビックリもしたし、こんな感情になるとは思っていなかった。
ただ、最近、噂をされるようになってから、直哉のことを意識し始めているのも事実。だけど、そこに、遊菜から直哉のことが気になりだしているという相談を受けているのも事実。
ちょっとした三角関係になりつつあるけど、これに関しては、私は静観するほうがいいかもしれない。
それに、今の私は恋愛よりマネージャー業のほうが大事な気がしている。
「とりあえず行くで。たぶん、やることあるやろうから」
そういうと、私は駅までの道のりで自転車を走らせる。
そのまま電車に乗って、学校の最寄り駅に。そこから歩いて10分。学校に着いて、屋上に上がり、いつも通り、洗体槽の壁のところに置かれていた鍵で更衣室の鍵を開け、中に入って、練習用のスイムウェアに着替え、その上からTシャツを着て、ジャージを履いて外に出る。
洗体槽に鍵が置かれていたということは、たぶん、部長はもう来ているはず。で、プール一帯を見ても部長の姿が見えないのを考えると、たぶん、職員室で何かをしているのかなと。
そんな状況だと、私は、マネージャーとしてドリンクの準備をしておこうかな。
夏の太陽が、今日も暑くするぞと言わんばかりキラキラ輝いている。
たぶん、今日も暑くなる。1階から冷水機で水を汲んできて、スポドリの粉を入れて、あと、近くのコンビニで氷を買ってきて、ウォータージャグに放り込んでおくか。
「昨日、俺、全部カギ閉めたよな?」
部室から出てきた直哉は、Tシャツに半パン姿で足元はビーサン。いつでも脱いで泳ぎだせそう。
「全部閉めたんちゃうん?」
「やんな?お前も見てるよな?やのに、鍵が空いとったから部長はおるんかと思ってんけど、荷物が何もなかってん」
……あっ!そうじゃん!今日、部室兼更衣室は、来校する女子の更衣室になるんだった。
「直哉、男子の更衣室、今日は3Bの教室やで。普段男子の更衣室は女子の更衣室になるから」
「あっ、せやったな。そんなこと言うてたな。ほんなら、俺も荷物をどかさなあかんな」
そう言うと、直哉は部室に戻った後、そのまま校舎に入っていった。
それと入れ替わるように、沙雪先輩が顔を出した。
「あら、咲ちゃん、おはようさん。またえらい早いな」
「まぁ、1年ですし、やることがいろいろあるでしょうし」
「ある程度は昨日のうちにやったし、あとは今日しかできひんことの準備やもんな。とりあえず、部室からブルーシートを持って場所取りを先にしてまうか」
沙雪先輩は、先に女子更衣室に入ると着替えて、ブルーシートを持って出てきた。
「とりあえず、うちらは、屋根とテントの両方を陣取らせてもらうか。うちらの人数は結構多いんやし」
「そうですね。私は、ジャグに水を入れてきます」
「オッケー。お願いね」
ということで、それぞれに分かれて、私は1階に降りて水を汲みに行く。
もちろん、何リットルもいっぱいに水を入れたウォータージャグはさすがに重い。
それを5階相当の屋上に持って行かなきゃいけないんだから、まぁ重たいよね。
たぶん、8リットルの水とジャグの重さ。腕に相当な負担がかかっているよね。なんて思いながら、何とかという思いで屋上に上がる。




