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Episode 49 密かな楽しみ

「多少な。なんだかんだ言うて、プール開きしてからほぼずっと2人につきっきりやったんやから。たまにプールに浸かることはあっても、コーチングして、すぐに上がってとかばっかりやったし。今日はたまたまレースに出るってことが分かったからさ、泳いどったけど、なんか、惨めな気持ちがある中にも、懐かしい気持ちがあって、なんか複雑やわ。やけど、あの時以来“楽しい”って感じるようになったっていうのは言えるかな。不思議とそんな感じやったわ」

「やろうな。のんびりと泳いでるときのお前の顔、今まで見せへんかったけど、ちょっと楽しそうやったし」

「やと思うよ。実際にダッシュしたときは、落ちっぷりに落胆しとったけどさ、のんびりと泳いでるときは楽しかったし。やけど、あんなスタートしとったら、選手には戻られへんわ。たぶん、一生。」

「そんなことないやろ。スタートが壊滅的でも、お前の泳ぎやったら、カバーできるんとちゃうんか?」

「どうやろうね。いろいろ錆びついてるから、かなりの努力がいると思うで。それに、スタミナも元に近いところまで持って来ようとするなら、この夏だけじゃ足りひんやろうし」


 正直なことを言うと、いろいろ本音が混じっている中で、言おうか言わないでおこうか悩んだ。だけど、口にしておくか。


「それに、2人のマネジメントをしてるほうが楽しいし」

「なんかお前からそんな言葉が出るんは珍しいな。普段は隠してる本音なんやろうけどさ」

「うちは、前からマネジメントのほうがあっとったんかもしれへんな。やけど、中学時代の経験があったからこそ、こうやっていろいろ技術がうんぬんかんぬん言えるんやからさ」

「まぁせやな。渋柿が言うとることとちゃうこともあるしな。俺も勉強はしてるけど、それより美咲の方が勉強してるんやと思うわ」


 まぁ、曲がりなりにも、マネージャー兼コーチですからね。なんて心の中で少しだけ威張ってみる。


「まだまだやって。うちは独学やもん。それに、いろいろ新しい技術は仕入れてるつもりやけど、追いつかへんところもあるしさ。それに、それも2人にあうかどうかすらわからんし」

「まぁ、タイムが出てる以上、今はフォームをいじりにくいよな。タイムがでぇへんくなってきたら変えることになるんやろうけど」


 いろいろあるからね。とは言っても、最近は、野球部とかバスケ部が筋トレのために、アーベルやダンベルを置いてある格技室を占有しているせいで、水泳部が入る隙がない。

 私からすれば、両クラブとも、府大会で万年1回戦負け。そのくせ一丁前に占有するんだから、少しは近畿大会に進むことが決まっている私たちに譲れって思うよね。


「少しずつ筋トレを入れていって、それに合わせたフォーム改造をしていきたいんやけどな。スプリンターでこんなに細い選手はトップにおらへんやろ」

「まぁ、俺もまだ線は細いし、大神も、あれで近畿進んだなんて言われても、信じてもらわれへんやろうな」


 もっとがっしりして、それに似合ったフォームが身につけば、直哉で2秒近く、ほぼ日本代表クラスには食いつけるんじゃないかと思っている。


「ごめ~ん、お待たせ~」


 そんなことを言いながら私たちに合流したのは遊菜。

 ウェーブのかかった癖毛は、泳ぎ終わった後にツイン団子にしていつも部活終わりに帰っていて、今日もいつも通り。


「なんか、ものすごい身体軽いわ。ただ、軽すぎて怖いって言うのはあるんやけど」

「まぁ、明日は気楽にレースできるやん。半フリも1フリも近畿行くやつおらへんやろ?」


 直哉はそう言って屋上の出入り口の近くにあるロッカーに行って、府大会のプログラムを取ってきた。

 私はご丁寧にプログラム全部に決勝に出た人の名前とタイムを書き込んでいる。

 それを見た直哉は、「まぁ、そんなことやろうと思っとったけどさ」とだけ言って、元の場所に戻した。


「八商に出てくる高校は誰も府大会の決勝に出られてないし、気楽に行けるやろ」

「またお気楽思考やな。まぁ、自信過剰にならんようにな。まぁ、ある程度」

「まぁ、当日、どうなるかやな。テンション上がったら全力で行くかもしれへんけどな」

「流して8出る選手が何言うてんねん。まぁ、決勝に近い選手はおったはずやから気は抜きなや」

「わかってるって」


 直哉はそう言うと、先に屋上の出入り口から校舎に入り、階段を下りて行った。

 それに続いて私も遊菜も屋上から校舎に入って、直哉が屋上の鍵を閉めて、一緒に階段を下りていく。


「すっかり暗くなってしもうたな」

「ちょっと遊び過ぎたな。でも、久しぶりに遊べたからええやん」


 遊菜は相変わらずのんきな言い方でルンルン気分。

 そんな遊菜を見ていると、私もちょっと気が楽になるかな。

 これなら、明日は行けそうかな。そんなことを思いながら直哉とともに家路についた。


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