Episode 4 部活中
「あっ、せや。話が変わるんやけどさ、原田くんって、全国大会に進んだ原田くん?名前も一緒やからまさかやとは思ってたんやけど」
「まぁそうですね。行きましたね。地元でフィーバーが起きたくらいですから」
「そうだよね。さっきも見てそう思ってん。でも、何でこんなところに来たんだろう?彼やったらこんなところでなくても御幣大付属とか海宮とか行けたやろ」
「それはさすがに私にもわからないです。あいつ、もとから変わってるやつで、私にもなに考えてるかわからないときがあるんです。理由は本人から聞いたほうがいいと思いますよ」
「あいつってことは、前から知り合いなん?」
「まっ、そうですね。一応中学が一緒でしたから」
そんな他愛のない話を続けながら少し様子を見ながら過ごしていると、視界の隅に金色の何かが映った。
「水泳部ってここでいいですか」
声は少し高かったけど、不安で消え入りそうだった。
やけど、ものすごく綺麗な子。さっき視界の隅に映った金色の何かは、彼女の髪の毛だった。ちょっとくらいなら驚かないんだけど、今にも輝き放つほど明るかったらいくらなんでもビックリするよね。あと、余計なことを考えるならば、校則に引っかかるんじゃないかって心配になる。
「うん。そうやけど……。もしかして新入生?ヤバッ。1日で3人も来るとか。今年は恵まれてんね。ちょ、こっちきぃや!」
中元さん、相当興奮している。よほど珍しいんだろうか?それに対して、金髪の子はちょっと引いてる。でも、私だってちょっと引いてるところがある。
名前は?中元さんが聞く。
「福森愛那です。こんな髪色してますけど、染めてなければ、ウィッグでもなく、実は地毛です」
この子、地毛なんだ。1人で勝手に驚く。
「愛那ちゃんやね。愛那ちゃんって水泳経験は?」
「あります。ミドルとバッタでした。うまいことは行かなかったんですけど」
「ってことは選手希望でええんかな?」
「いや、今は腰に違和感があって、ドクターストップがかかってます。なんで、それが取れたら選手復帰になると思います」
マネージャーか。結構多い気がするけど、もし、人数がこれだけだったらマネージャーと選手の数が一緒になる。
「中元さん、まさかですけど、選手がこれだけじゃないですよね?」
「あほなこと言わんといて。こんな少ないわけないやん。うちのクラブは吹奏楽、軽音楽に続いて多いねんから。女子はあたし以外に五人もいてるし、男子もあと4人いてるし」
何とかリレーが組める状態か。これだったら、試合に出ても結構遅かったりするよね。もともと、この学校で府大会より先に行ったということは聞いたことがない。実力的にはそんなところだろう。
あとは、なにか聞くことがあったかな?そんなことを思いながらプールサイドで汗を流している直哉を見た。
「あっつ~」
一通りのメニューを終わらせたのだろう。直哉と部長、ひょろり先輩がバルブボックスの前に来た。
「中山くん、まだやるの?」
「もうちょっとかな。あと縄跳びやってクールダウンって感じ」
「了解。あっ、あと、マネージャー希望で福森愛那ちゃん。一応水泳経験はアリってことで。専門はミドルとバッタやったかな?」
「はい、そうです。ちょっと腰痛めて泳げないんで、泳げるようになったら選手に復帰するつもりです」
「そうか。でも、今はマネージャーやもんな。今年はある意味当たり年やけど、もう少し選手来てほしいわ」
部長が少し悲しげに呟く。
そういえば、私はまだどっちにするかまだ決めかねているところ。どっちにするか早いこと決めて伝えないと。入るかはいらないかも含めて。
まっ、とりあえず、楽しそうだし、入ってみてもいいかも。
「美咲、どうやった?」
部活は5時に終わって、その帰り道。部長と中元さん、ひょろり先輩はみんなJRで帰って、一緒にいた福森さんは別の地下鉄で帰るらしく、せっかくの放課後を直哉と過ごすことになる。その直哉が横を歩いている私に聞いてくる。
「何が?」
「何がって。部活やん。選手じゃなくてもええけど、やっていけそうなん?」
「別に。入ってもいいかなってくらい。それとも何?入ってくれって言うてるん?」
「そういうわけとちゃうけど、お前、あのレースが終わってから競泳避けとったもんな。わかってたよ。でも、競泳一筋やったお前がもしかしたら一生競泳から離れるんとちゃうかなって心配した。まぁ、お前の今日の顔を見て安心したけどな。まだくすぶってるんやろ?もっと素直になれや」
そういえば、あのレースをもって、私は部活を一足先に引退した。それだけ競泳を嫌いになっていた。でも、心のどこかでは、水の感触のもどかしさが残っていた。
そんな気持ちがどこかに出ていたから、今日、直哉が誘ってくれたのかな?一瞬、そんな気がした。
「……今日、マネージャーの中元さんと話してて、やっと素直になれた気がした。うち、とりあえず、マネージャーとして水泳部に入る。選手に転向するのは気が変わってから。それに、夏場は1レーンは空いてるっていうから、そこからでも遅くはないかなって思ってる」
「そうか。まぁ、また美咲らしい美咲が見れるんは嬉しいな。塞ぎこんだお前ブサイクに見えたからな。 いてっ!」
直哉が私に向かって『ブサイク』って言った瞬間、直哉のお尻を蹴飛ばした。
「なにすんねん」
「ブサイクって言うからやん。そこまでうちはブスじゃないですぅ。去年は3人から告白されてんから。まぁ、今は無理っていうて、全部断ったけど」
「ふぅーん。別に興味ねぇや」
「あっそ」
ここから2人とも無口になった。話すことがなくなったから。
まだ何回かしか歩いたことのない駅までの道。何もかもが新しく感じる。しかも、今日に関しては、直哉が隣にいる。直哉が隣にいるのは慣れてるけど、新しい道だから違和感しかない。これがずっと続くのかなぁ。
……。あっ、そういえば、直哉に聞きたいことがあるんだった。今聞いとこう。