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Episode 46 そう言えば、遊菜は知らなかったね。

「オッケー。いけるで。準備できたら言うてな」

「いけるで。頼んでええ?」

「了解。ほんならいくで。よーい、アイッ!」


 直哉の合図で私はできるかぎり早く反応してスタートしていく。

 ただ、自分でもわかるくらい壊滅的なスタート。もう、そこは割りきってバサロを打って加速を促し、ゆっくりと浮き上がっていき、水面に身体が浮き上がりきったタイミングで腕を回し始める。

 しっかり肩をローリングさせながら泳ぐから、フィニッシュからトップに戻してくるとき、中学の時からの癖で腕が身体の中心より内側に入ってしまう。

 これはもう直らないって直哉にも、中学の時の顧問にも言われた。

 ただ、一見、軸がブレているように見えるけど、意外にもこんなフォームでも空のコップをおでこに乗せて25メートル泳ぎきることはできる。

 そんなフォームで最初の25メートルを泳ぎきり、久しぶりのファーストクォーターを飛ばしてからターン後のバサロ。

 正直なことをいうと、だいぶスタミナは削られている。感覚的には18くらい。

 現役のときなら、17で入って、20で戻れたけど、たぶん今は24で戻る気がする。それくらいのスタミナの削られかたをしている。


 ラストクォーターに入って、さすがに息も続かなくて、バサロを打ちながらもすぐに浮き上がり、また腕を回し始める。

 1年弱泳がないだけでここまで肺活量もスタミナも落ちるとは思っていなかった。さすがに普及点だな。と感じながら、最後まで泳ぎきる。


 ラスト5メートルの旗が見えて、一度仰向けのまま水中に顔を突っこみ、距離を確認。その後2掻きしてからもう一度顔を突っこみ、タッチを合わせる。

 ここの感覚は何一つ変わらなくて安心したけど、もう、息も絶え絶え。鍛え直さなきゃな。なんて思ったよね。


「落ちたなぁ~。42秒35やってさ」


 直哉にそう言われて、自分でも苦笑いを浮かべてしまう。

 1年でこんなに落ちるか。正直、ここまで落ちるとは思っていなかった。かなりショックだな。


「それでも、女子のなかでのバックは一番速いやろ?なんとかなるんちゃう?」

「さぁ?どうやろ。この高校の中では一番やと思うけど、周りをみたらどうやろ。って感じ。蓋開けてみてって感じちゃう。まぁ、一番の問題はスタートやろうな。丸っきり1秒はかかってたと思うし」

「どうやろうな。細かいのは正式レースやないと見られへんからなんとも言われへんけど、飛べてないのは確実やな。昔やったら、2メーターは飛べとったのに、今は1メーター半超えるくらいやもん」


 そんなに飛べてないのか。変わらないくらい飛べていたと思っていたのに。なんか、いろいろショックが積み重なって、立ち直れなくなりそう……。


「でも、フォーム自体は相変わらずきれいやし、バサロも相変わらず強いから、ペース配分さえどうにかなれば問題ないと思うけどな」

「そう言うてもらえるだけでありがたいわ。やけど、マネージャーとしてのプライドは保てても、選手のプライドはズタズタやで。明日、レースの度に正気を失わんかったらええんやけど……」

「どうにかなるやろ。お前は図太いところもあるんから」

「図太いって。そんなことないやろ。あんだけ中学のときのこと引きずってんのに。こんだけスタートがボロボロやったら、逆に笑えるわ」


 逆に動画を撮ってほしいくらいよ。私のスタートを。それでもわかるくらいひどいものなんだよな。


「とりあえず、上からフリーも計ってくれへん?なんとなくやっておきたい」

「オーライ」


 どうせ、スタートのせいでとんでもないタイムを叩き出すことはわかっている。それでも、なんとなくやってみようかなって思えた。どうせ、直哉と遊菜しか見ていない。他のみんなはもう帰ったし。

 というのも、軽く調整メニューをこなしてからの設営だったから。

 明日は多少、疲労が残るだろうけど、問題ないかなって勝手に思っている。

 私が残っている理由は、直哉たちの練習を見るため。

 正直、見なくてもいいかなって思っていたけど、プログラムを見ちゃったらね……。感覚を取り戻したいって思っちゃったらね……。残ってでも泳いで感覚を確認するよ。


「オッケー。お願い」

「あーいよ。いきまーす。よーい、アイッ!」


 さっきと同じように直哉の声が聞こえて、私もできる限りの反応で飛び出す。

 けど、自分の身体があまりにも動かなくて笑ってしまったまま、落ちるように入水。

 身体だけは前に突っ込もうとしていたのに、足がまったく動かず、前のめりになって水中に落ちてしまった。

 ただそれだけなのに、笑いが止まらない。


「ごめ~ん、もっかいやらせて~」


 水面に顔をあげて直哉を見ると、顔を逸らして笑いを堪えていて、遊菜は物珍しそうに私を見ている。


「咲ちゃんでもそんなんなるんや。意外やな」

「昔の精神的外傷(トラウマ)がね~抜けきらへんのよ。やから、遊菜はずっと不思議がっとったけど、うちはマネージャーとして2人を支えるようになったんよ」


 ここで、去年あったことを簡単に話す。

 直哉は「話してええんか?」みたいな顔で見ていたけど、私だってある程度吹っ切れた。詳しく話すと、まだフラッシュバックするから話せないけど、大まかになら話せるまで回復した。


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