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Episode 45 私も!?

 50メートルだけ泳いで顔を上げると、遊菜がニヤニヤして私を見てた。


「相変わらず、咲ちゃんのドルフィンは健在やな。いつ見ても惚れ惚れするわ」


 お節介には聞こえなかったけど、遊菜が羨む気持ちはわからなくもない。

 なんだって、遊菜のドルフィンは私がコツだけ教えた派生もので、遊菜は自分のフォームに合うように改良を加えただけだし。


「もう、太ももがヤバイけどね。ちょびっとしかドルフィン打ってへんのに。やっぱ、うちはマネージャーやな」

「うちらから言わせたら咲ちゃんはコーチやけどな」


 遊菜にきっぱりと言われ、遊菜はそういう目で私を見てるのかと気づいた。

 それでも、少しばかり自分のことに集中してみようと思い、もう一度息を吸い込み、軽く潜ってから壁を蹴る。

 壁を蹴った勢いをそのままに少しだけ進み、少し勢いを感じなくなってからゆっくりとドルフィンを打つ。

 こんなことをしても一瞬の足しにしかならないことはわかっているんだけど、衰えた私の太ももに無理やり鞭を打つのは危ないって思えた。


 そして、また50メートルを泳いだあと、そのままクイックターンをして、今度はバサロを打ち付け、背泳ぎで50メートル。

 安定した青空に心底気持ちよくなりながら、25メートル。またターンをして同じように25メートル。まだまだゆっくりだけど、フォームは崩れてない。……と思いたい。

 あとで直哉に聞いてみるか。スタートの練習もしたいし。

 そんなことを思いながら泳ぎきった。


「直哉~、悪いんやけどさ、スタートの練習したいねん。合図出してくれん?」

「お、おう。やけど行けるんか?」

「やるしかないやん。レースに出ることになるんやから。それに、いつまでもウジウジしてられへん。前に進まんと」

「そ、そうか。わかった。上から?バック?」

「とりあえずバック。プログラム見たら1バックと2バックに入ってたからやらなあかんやろ。上からは別にええかなって」

「でも、フリーリレーは早いもん順やろ?最悪、入るんちゃうん?ベストでハーフ2秒持ってたやろ?」

「そんなん昔の話やん。今はたぶん40とか出るで。40なんか叩き出すうちにリレーは無理やで」

「まぁ、やってみて。ってところちゃう?まぁ、なんとなくやねんけど、メドレーリレーには駆り出されることになるやろうけど」


 正直、いろいろ不安はある。スタートをミスっちゃうんじゃないか?とか、またわずかな差で泣いちゃうんじゃないか?とか。考えれば考えるほど怖い。

 でも、決まってしまっちゃったなら、やりきるしかないよね。

 そう思いながら、スタートバーを握り、久々に壁に足の裏をつけた。


「行くぞ。よーい、アイッ!」


 直哉の口からこんな声を聞くなんて久しぶりだな。なんて思いながら壁を蹴り、気分は斜め上に飛ぶ。

 まぁ、実際には斜め上に飛んだあと、腰を反って、手先から入水。なるべく水面に出たあと、水中に入る意識。

 進む方向に胸が、お腹が天に向いていれば、ちょうどいい角度で入れると思っている。

 逆に、飛んだあと、進んでいる方向に背中が向いていれば、かなりの抵抗がかかるから、そこには注意ね。

 水中に入った私は、一瞬だけストリームラインをとったあと、バサロキックを打ちながら上がってきて、数回腕を回したあと、片手をあげたままそのまま流す。

 スピードがなくなったとき、底に足をついて、その場に立って一息つく。

 ……なんていうか、個人的には相当衰えたなって思う。

 バサロもスタートしたあととターンをしたあとは25メートルプールならハーフラインまでって決まっていて、中学時代の私なら余裕で浮き上がってくることはできていたけど、さすがに、ここまで衰えると、まぁ、きついよね。

 軽くクロールでスタート側に戻り、直哉に聞く。


「直哉~、さっきのスタートどうやった?」

「あぁ、相変わらず反応できてへんな~。まぁ、あれからまったく泳いでなかったししゃぁないのちゃう?あと、フォームは相変わらずきれいやわ。文句ないで」


 フォームが崩れていないのは助かったところか。スタートはもうどうにもならないから諦めるけど、スタートの遅れとスタミナ不足を持っている技術でカバーするしかないか。

 ここまでくると、今更出たくない。なんて言えないよね。リレーは遊菜にカバーしてもらうとして、とりあえず、バックのレースに集中しようか。


「直哉、ごめん、半バック1本計ってくれへん?今の現在地見ときたい」


 エントリータイムがどれだけなのかは知らない。それはあとで長浦先生に聞いたらいいだけだ。

 小さな大会だから、気にしなくてもいい。みたいな声もありそうだけど、出るからには、ちゃんとしたい。


「オーライ。ちょっと待ってや」


 直哉はそう言うと、プールサイドに上がりセームで身体を軽く拭いてから、ストップウォッチを握った。


「オッケー。いけるで。準備できたら言うてな」


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