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Episode 44 会場設営

 入学してから初めての期末テストも終わり、またじっくりと近畿大会に向けて練習を積める日が始める。

 そんな近畿大会の前に非公式で小さい大会がある。

 それが明日で、公式大会にはあるタイム制限がなく、1人2種目、各種目3人までって言う制限はあるものの、扇商の規模で見ると、全員2種目出られる大会で、夏休みの終わりにある公立大会に向けた現在地を確認できる小さな大会が八商大会といって、商業高校ばかりが集まる大会があるらしい。

 会場については持ち回りで開催されるみたいで、今年はプールサイドが何気に広い扇商で開催される。

 ということで、今日の練習はなしで、会場設営が今日の活動になる。

 とはいっても、女子はプールサイドや更衣室、更衣室として使う教室の掃除が主な仕事、男子はいろいろな機械や日よけの点をと運んだり組み立てたりと、力仕事を分担。

 そして、しばらくしてから顧問に呼ばれマネージャー陣は職員室へ。

 私たちのやることは、長浦先生が作ったプログラムとレーン順を印刷した紙を冊子にしていく。


「今年は多いなぁ。勝てるんちゃう、今年は」

「勝てるって何ですか?」

「あぁ、一応な非公式やけど、チーム戦でええところまでいくんやけど、あとちょっとってところでいつもええところまで行くんやけど、男女ともに団体優勝は鶴(橋)商(業)に持っていかれんねん。やけど、今年は原田くんも遊菜ちゃんもおるから、優勝も狙えるんちゃうかって」


 なるほどね。だから、部長も副部長も日が近くなるにつれて燃えているのか。

 そんなことを思いながら、ペラペラと作り終わったプログラムを眺める。

 その中で私は違和感を覚える。


「八商大会は沙雪先輩も出るんですか?」

「女子はマネージャーも総動員やで。そうせな鶴商に勝たれへんからな。それに、うちは、2フリと2ブレにエントリーされてるし、美咲ちゃんには、壊滅的なバックで1バックと2バックのレースに出てもらうし、愛那ちゃんには、負担の少ない4フリと1ブレに出てもらうし」


 沙雪先輩から返された答えに目の前が真っ白になりかけた。

 まさか、小さい大会ながらもレースに出ることになるとは思っていなかったから。それに、精神的外傷もまだ癒えていない。不細工なスタートになるかもしれない。ちょっと気が重いな。


「やから、明日は本番用の水着も持ってきといてな」


 私はなんとか「わかりました」と絞り出し、出来上がったプログラム冊子を持って屋上の教官室に持っていく。

 持っていったあとは、女子の掃除に加わって、30分もすれば女子の仕事は終わる。そこからさらに5分して、男子の会場設営も終わる。


「あかん、これキツいわ」


 珍しく直哉が音を上げる。


「そんなにきつかった?」

「きついもなんも、両手に一個ずつレンガを持って1階から屋上へ2往復やで?変に筋肉痛になるわ」

「ええ筋トレになったやん。普段せぇへんねんちょうどよかったやん。言うても2キロとかそんなもんやろ?」

「アホか。5キロや。何年か前にテントが風に巻き上げられて、下に落ちたらしくて、そっから、テントの足とレンガをくくるようになったらしいわ」


 そんな過去があったのね……。ただ、風がよく回るって言うのはわかる気がする。

 屋上は北側にマンションはあるものの、そのほかの方角には遮るものがなく、風がいろんな方角から不規則に吹き付ける。

 ただ、私が入ってからは、特に物が飛んだなんて話はないけど、大きくて軽いものになると、やっぱり飛びやすいのか。それなら、レンガを置いて重りにするのは当たり前の話か。


「まぁ、落ちたんやったらしゃあないな。もう、ええトレーニングになったと思うしかないな」

「筋肉痛になりたくないから、このあとちょっと泳ぐわ。なんやったら、いつもの8割くらいで泳いでもええかもしれへんんな」

「そういうんやったらそれでメニュー作ろか?」

「あぁ、頼むわ。別に、筋肉痛のままレースしてもええんやろうけど、タイム悪かったら不思議がられるやろうしな」

「一応はちゃんと考えてるんやな」

「なんやねん、一応って」

「いや、こういう小さい大会は興味なくて手を抜くんかなって思ってたから」

「またとんでもない理論をぶちかましてくんなぁ。まぁ、確かに、手を抜いてもええかなとは思ったけど、ここだけ手を抜いたら、舐めてるって思われそうで、ちょっと考えてるんよ」

「なんだかんだ考えてるんやな。珍しい」

「いろいろ俺も考えてるんよ。まぁ、全力で行くのは決めたしな」


 どうやら、いろいろ決めたらしいね。顔がスッキリした。


「了解。ただ、うちもレースに駆り出されることになってるから、あんまり見られへんで」

「あぁ、芦屋先輩から美咲のベスト聞かれたから知ってる。ただ、ブランクあるやろうから、15秒プラスしたってくれとは言うたけど。っていうか、聞いてへんかったん?てっきり聞いてるもんやと思ってたけど」

「全部初耳。なんなら、芦屋先輩からも何も聞いてへん」


 なんだか、いろいろ厄介なことになりそう。ただ、こうなってしまった以上、当日は楽しんで行くか。

 そんなことを思いながら、私も更衣室に入ってスイムウェア姿になり、プールの中に入る。

 すっかり夏らしくなった空気を冷やしてくれる勢いで身体から熱が抜けていく感覚が気持ちいい。

 夏まっただ中、水泳部の特権だろう。

 もっと暑くなれば、もっと気持ちいいだろうな。なんて思いながら、ゴーグルをして水中に潜り、壁を蹴って泳ぎ出す。

 久しく直哉たちを見てばっかりで泳いでなかったから、久しぶりに泳ぐこの感覚が懐かしい。

 そんなことを思いながらゆっくり泳ぐ。


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