Episode 43 次のステージへ進めるの?
遊菜ちゃんのフィニッシュと同時に顔を電光掲示板にグイっと向ける。
『9 オオガミ ユナ オウギハラ 7 27.15』
と表示されていた。
思わず、立ち上がって叫んじゃったよね。
周りの視線も気にすることなく、スマホで写真を撮りまくる。
なんとか遊菜ちゃんが昨日のレースに引き続き近畿大会行きを決めた。
これであとは直哉だけ。これで直哉も決めてしまえば熱いよ。中学の時に比べると、一気にレベルが上がるって言うのに。
それだけじゃない。
これがミテダイフとか桃女とかの強豪校なら、それが当たり前なんて雰囲気が流れるんだろうけど、弱小校に位置づけられる扇商から近畿大会に出る選手がでてくると、お祭り騒ぎだろうな。
現に、昨日時点で職員室が少し騒がしかったみたいだし。これで全国も決めてしまえば、学校中がお祭り騒ぎになるんだろうな。と思いながら、直哉のレースを待つ。
直哉の予選は、頭から突っ込んでいったものの、タッチ一つで変わるレースに何とか勝ち進み、予選9位、決勝では1レーンを泳ぐ。
こっちもなんとか8位までには入ってほしい。そんなことを思いながらアナウンスを待つ。
『プログラムナンバー54番、男子50メートル自由形、決勝のレーン順を申し上げます。第1レーン、原田くん、扇原』
「直哉~!行け~!」
遊菜ちゃんの時と同じくらいの声量で直哉にエールを送る。
だけど、さすがにざわざわしている場内に私の声はあいつに届かない。
それは仕方がないのはわかっている。今、私にできるのは、あいつのことを信じることだけ。そして、運が向くように祈るだけ。
その直哉は、自分の名前がコールされ、プールに向けて一礼したあと、スタスタとコース台のところまで行って、リラックスさせようとしているのか、コース台を使って足を伸ばしている。
そして、選手10人がコールされても足を伸ばすことをやめない直哉。それは、審判長の短い笛が鳴り終わるまで続いて、長い笛が鳴り終わると、ようやくゆっくりとコース台に登って、相撲の立ち合いのような構えを取る。
これが直哉のスタート前のルーティンで、これは中学の時から変わらない。私からしても、相変わらず独特だな。と思うだけ。
もう聞きなれた『よーい』という出発合図員の声のあと、スタートの音が鳴り響く。
それと同時に飛び出す選手10人。
直哉も後れを取らず、一気に飛び出して、ドルフィンキックを打って浮き上がってくる。
フリーレースに関しては、潜り距離が短いほうがいいって言われてるけど、直哉はセオリー無視で規定ギリギリの15メートルラインまでドルフィンキックを打ってきた。
しかも、長身と腕の長さもあるのか、数掻きしたところでトップに躍り出たように見えた。
だけど、それはほんの一瞬だけだったのか、必死に食らいつく直哉。だけど、今までより感触がいいのか、ファーストクォーターを目算11秒頭で通過していった。
そこからレースは硬直した状態で進み、ラスト5メートル。ここでもあっという間なレースは展開され、10人の選手はほぼ同時のタイミングでフィニッシュ。
そのフィニッシュしたタイミングで遊菜ちゃんの時と同じように顔を電光掲示板にグイっと向ける。
『1 ハラダ ナオヤ オウギハラ 7 24.71』
この表示を見た瞬間、かなりほっとした。
というのも、後続と百分の5秒差、そのまた後ろとはコンマ1の差しかなかったから。
ここまで大接戦になるとは思ってもおらず、私としてもかなり肝を冷やした。
これでなんとか2人とも2種目で近畿行きを決めた。もちろん、何とかっていう形だけどね。
まぁ、こういう形だとしても、私としては本当にうれしい。
私がマネージャーになって報われたのは、これが初めてなんじゃないかなって思う。でも、いろいろとうれしい。マネージャーになってよかった。と思えている。
このままインターハイまで行けたりして。
まぁ、そんな考えを持たずに、私はマネジメントすることに専念して、選手の背中を押せるように私は私で頑張るか。
さて。これから私が忙しくなりそうだ。




