表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/231

Episode 40 飛ばしていくレース

 スタートの合図が鳴ると、一斉に飛び出していく。

 そして、注目のリアクションタイムはコンマ59と、相変わらずとんでもないタイム。私のバックのリアクションタイムと同じくらいなのがなおさらすごい。

 昨日と同様、私直伝のドルフィンキックを豪快に打って浮き上がってくると、全力で腕を回し、足を動かす。

 周りは……気にしてないみたいね。

 それなら安心だけど、横一線に並ぶ10人の選手。最期の一瞬まで気が抜けないな。なんて思いつつ、あっという間のレースが終わる。

 ほぼ同時にタイムと順位が出てきて焦ったけど、遊菜ちゃんはヒート2位、タイムが27秒25と、ベストタイムが出ている。

 さすがだな。火事場の馬鹿力といったところだろうか。ただ、ここでベストを出して、まだ、結果の蓋を開けてみないと何とも言えないけど、決勝には出られそうなタイム。


「ほぉ~。これが大神の力か。えげついな。原田はこれよりも早いタイムで泳ぐんやろ?ほんま、なんか、怖いわ」


 遊菜ちゃんのレースを前のめりになって観戦していた長浦先生。感心するような表情で両手を頭の後ろに組んでいた。

 さぁ、このあとは直哉か。去年の記録を見ている限り、決勝に残るためにはやっぱり、4秒前半はほしいところ。ただ、直哉が4秒前半なんて出したことがないのよね。

 それでも昨日のレースでベストタイムを2回も叩き出しているから、今回も出してくれるだろうとは思っている。

 そこから女子のレースが10組も続いたあと、男子のレースが始まる。

 その前に、女子半フリのレース結果が電光掲示板に表示される。

 遊菜ちゃんは、なんとか7位で決勝進出を決めた。これで遊菜ちゃんは一安心かな。あとは、直哉だ。

 そして、その直哉は4組で登場。それほどにし烈な争いになるか。とプログラムを見たときに思った。

 そして、案の定と言うべきか、1組から3組の選手全員が、24秒後半で収まるように泳ぎきっていく。それでも、今年は去年に比べて、レベルが落ちているのか3秒台で泳ぐ選手がいない。

 このレースを4秒前半で泳いだら、決勝に行ける確率は大きくなる。

 ただ、ノートを見て思い出したんだけど、直哉って、環境の悪かった地区大会で半フリとを4秒6で泳いでいたのね。そのことを完全に忘れていた。


『続いて、予選4組の競技を行います』


 ここで直哉の番。景気よく遊菜に続いていいタイムを叩き出してほしいんだけど。

 直哉は、いつものように自分のルーティンを進めて、長い笛が鳴ってから動き出す。

 そして、一息ついたあと、いつもとは違ってゆっくりと相撲の立ち会いの形に。

 その姿に、緊張しているのかと思った。

 それでもレースが止まることはなく、「よーい」の声が聞こえ、スッとスタートの構えをとる直哉。

 そのすぐあとにスタートの合図が鳴る。

 その合図と同時に飛び出していく。

 直哉は、飛び出したあと、ドルフィンキックを打ち込み、遅れを取らないように前へ、さらに前へと飛ばす。

 勢いはかなりあるように見えるけど、横一線の状態だと、やっぱりわかりにくい。

 ただ、やっぱりリーチのある直哉が有利そうには見える。あとはもう運次第。

 祈るような思いで見つめて、フィニッシュを迎えるのを見守る。


 そして、あっという間のレースは、一瞬のうちに過ぎ去り、タイムは24秒38でまさかのここでもヒートトップ。

 えげつねぇな。こんな場面でもベストを叩き出せるとは……。なんか、遊菜ちゃんと張り合ってベストをたたき出しているようにも見えるんだよな。

 とりあえず、今現状、9位相当のタイム。このまま行ってくれたらありがたいんだけど……。と思いながら、レースの展開を見ていた。


 幸い、16組もあったレースが終わり、直哉は全体の9位で決勝に進んだ。

 上位10人だけが決勝に進めること、100分の1秒が命取りになる半フリだということを考えると、かなりギリギリで滑り込めた。って考えるのが妥当かもしれない。


 今日の予選はこれだけで、決勝進出を決めた2人の次のレースは3時過ぎからの予定になっている。

 たぶん、それまでは暇だろうから、クールダウンして戻ってくるだろう。ただ、それにともなって、私も暇になるんだよな。

 なんて思いながら、ゆっくりとプログラムとスプリットブックをカバンの中に片付ける。


「大神も原田もまさかの決勝か。こりゃ、今年の夏は忙しくなりそうやな。嬉しいような、悲しいような……」


 長浦先生は頭を抱え込みながら恨めしそうに言った。

 私も正直、ここまで来るとは思っていなかったからビックリしているところはある。

 ただ、まだ近畿大会に行くための駒を進めただけ。直哉が目標にしているインターハイに進むためのタイムには半フリも1フリも届いていない。近畿大会に進めるのは、上位8人という条件をクリアしているからだ。インターハイに進むなら、タイムを切らないと話にならない。

 それでも、運動部から近畿大会に進むのは、初めてのことらしく、長浦先生曰く、昨日、2人が近畿大会行きを決めたことに学校の中では少しざわついているらしい。

 まぁそもそも、扇原は商業の勉強をする高校だし、目立つ部活といえば、全国経験のある吹奏楽部と、青春といえばの軽音楽部くらいだからね……。

 運動部は、存在してるだけで御の字というところが多い。

 こう考えると、やっぱり、直哉と遊菜ちゃんは、先生たちから見ると、特異に見えてるのかもしれないね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ