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Episode 3 迷い

「ごめん~、おそなった~」


 そういって息を切らせながらこっちに駆け寄ってきたのはひょろり先輩より1段低い男子生徒。たぶん、この人が部長?そして、そのうしろから女子生徒も追いかけるようにして駆け寄ってくる。


「ひょろり、この2人がそうか?」

「せやね。あっ、まだ名前とか聞いてなかったな」

「原田直哉っす。フリー専門っす。とくにスプリント専門っすね」

「フリーのスプリントか。ほんなら鮎川とええ勝負してくれるんちゃう?あいつもそこそこ速いから。で、そっちの子は?」


 そういって視線を私に向けられる。


「あっ、伊藤美咲です。専門はバックでした。一応、中学のときは府大会まででした」

「バックか。女子のバックは壊滅してるからなぁ。入ってくれたら即リレメンやろ。あっ、ごめん。俺ばっかり喋ってんな。俺の名前は中山ソラ。ソラっていうのは草冠に『倉』っていう字と青空の『空』という字でソラって読むねん。専門はバックです。よろしくな。ほんで、こっちが」

「橋本晃です。まぁ、見た目どおりひょろっとしてるから、周りからひょろりと呼ばれてるわ。専門はブレね」

「そして、あたしがこの水泳部唯一のマネージャーの中元沙雪です。歴代の部長はしっかりしてはったから去年、おととしと水の中につかりっぱなしだったのかな?よろしくね」

「ほんなら、早速やけど部活始めようと思ってるんやけど、なんか動ける服持ってる?」

「俺は持ってますけど」


 たぶん、プール帰りに制服じゃいやだというのが直哉の言い分だろう。


「伊藤さんはなんか持ってる?」


 部長の言葉に私は首を横に振る。私に関しては、まさか、こんなところに来るとは思ってなかった。もってるカバンの中に入ってるのは、さっきもらったプリントと筆箱。お弁当と水筒(まるで遠足に行くみたい)あとはばれないようにもって来てるガムくらい。


「なら、今日は中元さんと一緒に行動してな」


 部長から言われて、首を縦に振るしかない。


「美咲ちゃん、よろしくね」


 中元さんを正面で見ると綺麗。化粧をべたべたした『綺麗』ではなく、スッピンでもかわいいってこと。陽に少し焼けて、少し色の抜けた髪にマッチして顔立ちが揃ってる。うらやましい。


「美咲ちゃんは選手希望なん?それともマネージャー希望なん?あたし的にはさっきあんな感じで言うたけど、マネージャーはあたしだけで人不足やねん。やから、あたし的には美咲ちゃんがマネージャーで入ってくれたらええねんけどなぁ。とか思ってるんやけど」


 中元さんに期待の目で見られるけど、どっちにするか、まだ入るかどうかも決めていなかった私にはすぐに答えることはできなかった。



 というのがここにきたきっかけだった。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



「うち、正直に言うて、水泳は辞めたつもりやったんです。今日は無理やり原田に連れてこられたような感じで何にも考えてなかったんです。もちろん、選択肢のひとつに入ってなかったんで、今はマネージャーとかも考えてないです」


 私がそういうと、中元さんは「そう」としか言わなかった。そして、中元さんは空を見上げた。


「そうなんや。まぁ、まだ初日やしな。自分のやりたいこと、ゆっくり探してもいいんちゃう?あたしもいろいろ周ったけど、結局水泳部に落ち着いたような感じやし」

「中元さんも水泳やられてたんですか?」

「形だけやけどね。中山くんや橋本君みたいにバリバリ水泳やってたわけとちゃうんやけど、あたし、もともと泳がれへんかってん。やけど、泳げないながらも水泳の楽しさに気付いてん。今まで泳がれへんかったもんが泳げるんやで。できひんかったことができるってうれしない?それが楽しくってずっと続けとったんやけど、急に部活上がった後とかにせき込むようになって相談したらアレルギーやって。このままやったら、死にはしないけど、慢性的にせき込むようになるって言われて……。まぁ、部活引退直後やったから試合に出られへんとかはなかってんけど、やっぱり好きなことができひんって辛いやん?やけど地元のプールとかも急に敬遠するようになって……。で、もともと狙ってたここに入ってまた始めた感じかな」

「そうなんですか。今は塩素とかって大丈夫なんですか?」

「たまに遊んだりして大量にばらまくときはあるけど、それ以外は結構塩素濃度は薄いから大丈夫。普通に入ってるし」

「そうなんですか。……中元さんが思う水泳の楽しさって何ですか?」

「どないしたん、急に。」

「うちには水泳の楽しさが分からないんですよ。昔は楽しいとしか思ってへんかったのに、去年の秋くらいから楽しいとは思われへんようになってきたんです」

「さっきも言うたけど、昔は泳げたって感情がうれしかったし、仲間とかもむっちゃおったから素直にうれしいと思える楽しさもあったし、いろいろ楽しいと思えたわ。今は、ちょっと別で、選手のタイムが上がることかな。うちも水泳やっとった知識もあるし、改善とかできて、タイムとか上がったらちょっとテンション上がるやん?そういうもんもあるかな」


 そうか。やっぱり、マネージャーって選手を1番に考えるんだよね。

 でも、マネージャーってパッとしないしなぁ。でも、中元さんは選手がタイムを出したら面白いって言ってる。


「そういうもんもありなんかなぁ」

「まぁ、なんにもせぇへんよりは十分マシやと思うで」

「そうですよね」

「この水泳部とほかの部活とちゃうところは、暑い時にプール入っててもええし、泳げる人は泳いでも問題ないし。正直に言えば、マネージャーらしいことはちょっとあるけど、ほとんどなんもせんでええもん。気楽にできると思うけどなぁ」


 そうなんだ。そういう考え方もできるのか。それやったら暇な時間も無駄に使わなくてもいいし、マネージャーでも一応水泳をやってることになるし。


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