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Episode 38 2人の決勝

 この声も、いつも以上に緊張感があって、なぜか私も緊張を感じてしまう。

 そして、全員が動かないことを確認したあと、スタートの合図が鳴る。

 スタートは見ている限り完璧かな。予選と同じコンマ58のリアクションタイムで飛び出しているし。

 その勢いも活かしたのか、ドルフィンキックを打って、浮き上がってきたときには、周りより少しだけリードを取ったようにも見える。

 ただ、やっぱり、隣の様子を伺っているのか、予選後半に見せたキックの爆発力はない。

 そして、ファーストハーフを8秒9で折り返す。予選よりも少し速いタイムだな。両隣が8秒7で回っているから、それのせいもあるのかもしれないね。

 ファーストハーフを8位で折り返していった遊菜ちゃんは、ターンのあとのドルフィンキックを打って前を追い抜いた後は、水を得た魚のようにしぶきを上げながら両隣を突き放そうとしていく。

 それでも、やっぱり身長が小さい上に、パワーも小さい遊菜ちゃんは、ドルフィンキックのパワーだけではさすがに突き放すことはできずに、むしろ、並ばれるほど。


 並ばれたことに少し焦りが見えたのか、少しバランスを崩して、無理に強く泳ぐ遊菜ちゃん。それも相まってか、結局フィニッシュタイムは59秒05とベストを更新したのかもしれないけど、ギリギリ7位で、次の近畿大会への駒を進めた。

 さすがに大阪トップ3に入るのは難しいか。遊菜ちゃんならいけるかななんて軽く思い込んでいたな。

 これから先、もっと上に行くためには、スタミナメニューも入れなきゃいけないかな。

 なんて思いつつ、次に始まる直哉のレースを待つ。


「さっきよりは速くなってるけど、周りもそりゃ速くなるよな。大神ちゃんでもここなんや。でも、垂れ幕できるからええんちゃう?」

『プログラムナンバー、38番、男子100メートル自由形、決勝のレーン順を申し上げます』


 直哉も遊菜と同じ9レーンでのレース。ここはさすがにアベックで近畿大会行きを決めてほしいけど、直哉に関しては、前半次第というところだろう。


『第9レーン、原田くん、扇原』

「直哉~!一本!」


 遊菜の時と同じように声を張り上げ、直哉にエールを送る。

 クールな印象を保つ直哉はなにも反応を見せず、自分の泳ぐレーンの前で、一礼して、ジャージを脱いで、レースできるような状態に。そして、プールを背にして大きく深呼吸をする。そして、そのまま後ろを向いたまま笛が鳴るのを待っている。

 直哉のあとに最後の選手がアナウンスされて入場。準備が終わったのを見届けるかのように、審判長の笛が鳴る。

 その笛で一息つくけど、まだ後ろを向いたまま。

 長い笛が鳴った時に、ようやくプールの方を向いて、そのままスタート台に上り、また一息ついて、ゆっくりと身体を曲げ、スタートの姿勢を取る。……直哉の場合は、相撲の立ち合いに近いか。スタートの姿勢が。


「よーい」


 この声で身体を少し引く選手もいるけど、直哉はまったく動かず。

 私も少しだけ身体を引いて勢いをつけてしまおうとする癖があるから、動かずに勢いをつけることができる直哉や遊菜ちゃんはすごいな。と思ってしまう。

 そして、合図が鳴った後、リアクションタイムをコンマ67で直哉は飛び出していった。

 予選と同様に、強いドルフィンキックを打っていって浮き上がってくる。浮き上がりは一番最後で、先頭に並んでレースを進めていこうとする。

 長身の直哉は大きなストロークで豪快に泳いでいって、ファーストハーフの折り返し。頭から25秒00と、珍しくジャストタイムで折り返していく。

 直哉も予選よりタイムを上げてきている。こりゃ、心配ってところもあるけど、ベストを期待してもいいかな。

 なんて思いながら、声を張り上げて応援する。

 そして、課題の後半もしっかりと粘って、なんとかというような感じで8位フィニッシュ。トータルタイムが54秒38で、こちらもギリギリで近畿大会に滑り込んだ。


「あっぶねぇな。後ろとタッチ差やん。気ぃ抜いていたら危なかったな」

「やな。原田くんもこれで近畿大会に行けるんか。なんか、2人とも雲の上の存在のようなものやな。うちらは邪魔できひんな」


 逆に私はいろいろ勉強しないとこの先を役に立てなくなりそう。と少しプレッシャー。


 そこから表彰式を挟み、男女のメドレーリレーを観戦し、直哉たちが戻ってくるのを待って、その間に、私はいろいろ片づけて帰れる準備をする。

 そして、レースが全部終わって20分もしたら、直哉も遊菜ちゃんも戻ってきた。


「お疲れ様。ええタイム叩き出したな」

「せやな。なんとかベスト出せたわ。ありがとうな」

「せや。うちもベストやってんな。ラップタイム見せてくれへん?」


 遊菜ちゃんからスプリットブックを要求され、私はカバンの中から練習用のノートを渡す。

 スプリットブックだと、字が少し小さくて、目の悪い遊菜ちゃんにはつらいかなと思って、書き写した練習用のノートを遊菜ちゃんに渡した。


「うげぇ。ファーストハーフは様子見すぎたな。ベストからコンマ5も遅れてるし。って考えたら、トータルベスト、よく出せたな。コンマ2だけやけど」


 なんとかベストだったみたいで、それでも後半を伸ばせたことに満足しているようだ。


「とりあえず、明日もレースあるんやし、帰るか」

「せやね。明日も完璧なレースが出来たら最高やねんけどなぁ」


 遊菜ちゃんは、自分の荷物を持つと、ひとつ大きく伸びた。

 そして、私たち一行は階段を降りて、それぞれ帰路についた。


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