Episode 33 個人レース
そんななか残された私は、始まりかけている男子のメドレーリレーを観戦する。
時間はすでに10時過ぎ。それでも今日2つめのプログラムだ。
やっぱりね、こうやって長い時間待っていると、さすがに眠たくなってくるのよね。とくにほとんどやることのない人って。
しかも、朝早いでしょ?余計に眠くなる。いつも、大会で私のレースがない日はどうして時間をつぶすかずっと考えていたもんね。まぁ、応援が主だったわけだけど。
とりあえず、私が寝るわけにはいかないから、トップとラストのタイムだけとっていくか。来年の参考になるだろう。
そう思い、マネージャーで1冊貰ったプログラムに、今から始まる男子2組のタイムをとっていく。
ただ、まだ2組とはいえ、強豪と呼ばれる高校がゴロゴロと出てくる。地区大会開催校の海宮もここに出てくる。
やっぱり、大阪は公立より私立のほうが強いよね。
そりゃそうか。施設も整っているし、コーチを何人も招聘して強くなっていっているんだし。
そんなことを思いながら、昼までかかるリレー競技を見て、タイムを書いて、時間を潰していた。
『プログラムナンバー21番、男子200メートル個人メドレー予選1組の競技を行います』
さすがに鮎川さんは制限ギリギリで出場しているせいか、13組中10組で出場。
そして、ようやく10組まで来た男子の2個メ。
鮎川さんは3レーンで出場。さすがに、制限タイムギリギリか、少しオーバーするかのどちらか。
あまりにもオーバーする選手が多すぎると、大会本部から学校に出場停止の措置が取られるけど、まぁ扇原商業は大丈夫だろうとは思っている。なんせ、制限ギリギリなのは、鮎川さんと福浦先輩くらい。
正直、直哉と遊菜は余裕でクリアしているから、多分、大丈夫だろう。
『続いて予選10組の競技を行います』
通告のあと、笛が鳴り、鮎川さんは大きく伸びた後スタート台に上る。その足取りは遠目からでも少し緊張しているようにも見える。
「テイクユアーマークス」
この声が聞こえるころには、場内はしっかりと静寂に包まれている。
号砲が鳴ると一斉にスタート。
この組くらいになってくると、さすがにバッタの勢いにも差が出てくる。
鮎川さんみたいに、最初から豪快に行く選手、最初は静かだけど、後半になるにつれて、差を縮めてくる選手もいるだろう。
その中で鮎川さんはバッタから優位に進めようと、最初から飛ばして、先頭に立っているようにも見える。
だけど、これに関しては、斜めから見えていることもあって、ちょっとわかりにくい。
そしてあっという間の50メートル。鮎川さんは33秒で先頭。続いてのバックはどうだろうかというところ。
ただ、やっぱりというか、先週の地区大会と同じような感じで泳いでいるようにも見える。
そして、両サイドとも差がじわりと縮んでいる。
50メートルの折り返し時点で4秒ほどあったけど、バックでそれが1秒ほど。なんなら、ほぼ横並びのところまで来ている。鮎川さんには焦らず泳いでほしいところだけど、どうだろう。
折り返し時点で1分18秒。前回とは……2秒ほど遅れているか。ただそれは、久しぶりの長水路のレースだし仕方ないかな。
言い訳にはできないところはあるかもしれない。何も言わないでおこう。
そこから鮎川さんは、スタミナ温存と称するブレで少し回復させた後、最後のフリーはキックも強く入れ込み、ほぼ全力のように見えた。
トータルタイムは2分41秒33で、前回よりもわずかに落ちて、タイムオーバーになってしまったものの、これくらいなら許してくれるだろう。
そこから男女の1バックを挟んだあと、女子の1バタが始まる。
福浦先輩は6組あるうちの5組で登場。
制限ギリギリだとこのあたりで組まれるのは仕方ないのだろうな。なんて思いながら、プログラムにレースの結果をできるだけ書き込んでいく。
さすがに、1組や2組のようなタイムが出ることはないだろうけど、福浦先輩にもベストを目指して頑張ってほしいなとは思っている。
『同じく予選5組の競技を行います』
しばらくして、そんな声が聞こえてハッとすると、福浦先輩の出るレースになっていた。
その場内通告が聞こえると、いつもの流れでレースがスタートしていく。
福浦先輩には珍しく、リアクションタイムがコンマ8秒で飛び出していった。
あっ、そうそう。このリアクションタイムなんだけど、距離が短ければ短いほど重要になってきたりする。
スタートが得意な選手ならもちろん短いし、苦手な選手なら長い。
だいたいコンマ6~8くらいが平均的なんじゃないかと思っている。
そして、このリアクションタイムがどれだけ重要かと言えば、あくまでも私の考えだけど、たとえば、50メートルのベストが30秒ちょうどの選手が2人いたとします。仮にAさんとBさんにしておこうか。




