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Episode 24 フラッシュバック

 直哉は物静かな姿勢で、成東さんの泳ぎを見ているようにも見えた。

 そして、直哉は成東さんが壁にタッチしてほんの一瞬だけ間を作って飛び出していく。

 そこからは、ドルフィンキックを打って浮き上がってきて、そのまま最初からフルスロットルで前を追いかける。その姿は、イルカというよりはサメのように感じた。

 あっという間にファーストクォーターを泳いだ直哉は、続いてセカンドクォーターへ。飛び出してからわずか10秒の出来事だった。

 そのあとも、ほとんど変わらないフォームで泳ぎ続け、54秒で自分の出番を終わらせた。

 あっけにとられるのは私だよね。もちろん、直哉がレース中、感情を顔に出さないことは多々ある。

 それでも、直哉の泳ぐ姿をサメのように感じることはなかった。せめてシャチくらいの感覚。

 シャチも凶暴だけど、シャチは遊び感覚で獲物を弱らせるって言うじゃん?

 直哉がリレーを泳ぐとき、引き継ぎ時点で2位以下にいるとよくそんな顔をする。

 中学の時の同級生は、そんな直哉を見て、悪魔だとか、魔王とか言っていた。

 ただ、それでもサメのように感じることはなかった。

 ……なにがあったのか。それは本人に聞いてみないとわからないけど、本当に何があったんだ?

 ここからは30分ほどロングのレースが続くから、今のうちに聞いてきてもいいかもしれないけど、その直哉がどこにいるのかわからなくなってしまった。

 いったん教室に戻って聞いてみようかな。

 ただ、この場から動ける余裕はなく、この大会が終わった後に聞くか、と思い直して、次に始まる8フリの選手たちが自分のレーンの前に来ていた。

 ……これ、私、挫折せずに、もしこの場に立っていたらどうなっていたんだろう。

 単なる予選会だから、なにも思うことはなかったのかな……。

 徐々にあのときの記憶が思い返され始めている。だけど、ここで逃げても何も変わらない。無念さを払しょくするなら、見届けないと。


『プログラムナンバー17番。女子800メートル自由形の競技を行います』


 ここから30分ほどは何もしない時間が続く。最長距離の種目に扇原からは誰も出ないから。そもそもこの競技に出るのはドMしかいないだろう。そういう私も出てたんだけど……。

 やっぱり、女子は男子みたいに最初から全力で行くことはない。速い人は速いけど、それでも、キックは少なめ、ストロークもゆったりとしている。私が出た去年のレースはこんな風にできていたのだろうか?

 そう考えた瞬間、少しだけふらっとした気がした。久しぶりに記憶がフラッシュバックしてきた……。


「大丈夫か?」


 思考回路をさえぎるように声をかけてきたのは直哉だった。


「何してるん?招集とちゃうん?」

「8フリが始まって、このあとにセンゴも女子のレースもあんのに早すぎるやろ。それに、お前の顔がチラッと見えたけど、ものすごい赤なっとったから、大丈夫なんかなぁって思って。まぁ、どうせ去年の記憶のフラッシュバックやろ」


 直哉には全部バレているみたいだ。


「ようわかったな」

「お前の顔がプールで赤なるときは、たいてい去年の記憶を思い出してるときやしな。刺激せんとこと思ってあえて触れへんかってんけど」


 私が記憶のフラッシュバックをしているとき、顔が赤くなるなんて初めて聞いた。


「そう。別にたいしたこととちゃうし、大丈夫やで。気にせんといて」

「そうか。一応、沙雪先輩にも言うとくけど」


 そこまで心配をかけるわけにはいかない。これは私の問題なんだから。


「大丈夫やって言うてるやん!人の心配するより、自分の心配したらどうなん?」

「それはこっちのせりふや。お前こそ、人の心配するより自分の心配をしろよ。立ってんのもままなられへんのに強がってさ。アホちゃうん」


 そこでようやく私の体の状態がわかった。直哉が少しふらふらしてるなと思っていたのは、私が少しふらふらしていたから。そこまで気づかないのは確かに強がっていたからかもしれない。ここは直哉に従うのもありか。


「……ごめん、うちがアホやったわ。なんでこういうときに冷静にならへんねんやろうな」

「素直になっただけでも十分やわ。いったんそこに腰掛けときや。どうせ、ロングは誰もでぇへんねんやろ?場所はみといたるから、ちょっとくらい休めや」


 そういって直哉は私から離れようとする。


「待って。……怖いねん。またフラッシュバックすんのが」

「……はぁ。ほんなら、中元さんか福森を呼んでもええな。いつまでもおられへんで」

「わかってる。だけど、お願い。もう少しだけ」


 自分がわがままだって言うことは十分にわかってる。だけど、記憶がフラッシュバックするのも怖い。


「……あぁ。わかったよ」


 静かに言った直哉に少し体を甘えるように預けた。びくともしない直哉の体幹に少しびっくりした。やっぱり、インターハイを意識してトレーニングしてるんだ。と思う。

 やっぱり、1年目からインターハイに出ることしか考えてないんだ。だとするなら、私もしっかりと支えて応援してあげないと。こんなところでへばってられないな。過去のことなんて振り切らないと。


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