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Episode 22 女子メドレーリレー

 今度は扇商の番。

 同じように笛が鳴り、水の中に入る棚橋先輩。いつものふわふわとした感じは変わらない。

 首を左右に振って、1度水中に潜る。ここまでが最近見せる棚橋先輩のルーティン。本人曰く、足をかける位置を確認しているらしい。

 私はそんなことせずに、だいたい、適当だけど。スタートで出遅れたとしても、バサロキックで挽回できるし。だから、スタートはあまり得意じゃなかった。今更ぶっちゃけるけど。

 長い笛が2回鳴った後、しっかりと構える棚橋先輩。まだ楽な状態だ。


「テイクユアーマークス」


 この声でしっかりとスタート台の方に身体を引き寄せ、号砲が鳴ると、身体を後ろに引き離すと同時に思いっきり身体を反って、壁を蹴り、スタートしていく。

 うまい人は抵抗もほぼなくスタートしていくけど、下手な人は、背中で壁を作って抵抗にしてしまう。

 あとは、深く潜りすぎて、バサロしているときに身体を床にこすりつけてしまったりとかね。これも意外とあるあるだと思っている。

 ただ、棚橋先輩にこの心配は不必要だったみたい。早かったけど浮き上がりはきれいで、そのまま、そこにパワーがあればなぁ。と思わせるほどきれいなフォームで泳ぎだす。

 フォームはきれいだけど、やっぱり、パワー不足で、スピードに乗らない。周りからじわりじわりと置いていかれる展開に早くもなっている。

 ただ、ここから挽回できる場面はいくつかあるから大丈夫だとは思うんだけど……。


 結局、棚橋先輩は、最下位争いをしながら100メートルを泳ぎ、ブレの成海先輩に繋いでいった。

 さて。成海先輩の泳ぎだけど、ちょっと珍しく、どっちかというと、バッタに近いフォームをしている。

 というのも、ブレのストロークって、多くの選手は外に回すように掻いて、手を合わせて入水、もしくは、水中で完結させるのが大半なんだろうけど、成海先輩は、外に回さず、まっすぐ自分の身体の方に掻いて、そのまま水中に手を持ち上げ、戻し入水する。

 そして、キックもスイミングスクールに通っていた人ならわかると思うけど、膝を自分の方に引き寄せて、外に回し、挟むようにして、ペンギンの足のまま蹴りなさい。なんて言われていたと思うけど、成海先輩はそんなことをせず、膝を自分の方に引き寄せると、そのまま後ろに蹴りだすように伸ばして少しだけ挟み込み、ストリームラインを取る。

 それでタイムが伸びたって本人は言うんだから、これ以上、私が何か言うことはできない。

 というのも、ブレのフォームに関しては、人によって速くなるフォームが全く違うから。ただ、そのフォームをほったらかしにするわけじゃないよ?そのフォームのまま何かできるんじゃないかと、提案することもある。

 まぁ、成海先輩のフォームは独特すぎて、アドバイスするどころじゃなかったけど。

 ただただ私も実際にやってみて、アドバイスができなかっただけ。というか、成海先輩のフォームは、腕力をとんでもなく使うから、続けると、すぐに鈍った二の腕が張りだして、50メートルを泳ぐのが限界だったから。

 やっぱり、専門外のことは、勉強になるよね。

 そんなフォームで2ブレに挑戦しようとするんだから、さすがだよね。

 その成海先輩。たぶん、棚橋先輩が1バックで最下位争いをしながら引き継いだせいもあるのか、かなり、ストロークピッチのペースが速いようにも見えるし、さっきのファーストクォーターの折り返し地点、タイミングが狂ってタッチが合っていなかった。

 このファーストハーフもタッチが合っていないのか、ラスト一掻きを迷い、結局掻かずに流して折り返していく。

 ……ファーストハーフが43秒か。慌てたというのもあるのか、ベストタイムよりも2秒ほど遅れている。

 それでも、最下位争いから抜け出したとわかったのか、折り返しで壁を蹴った後、勢いがなくなりかけたところにドルフィンを1回、、コンマ5秒を遅らせて一掻き、また勢いがなくなりかけると、一蹴りして浮き上がってくる。

 これだけでがっつり距離を稼ぐんだからすごいよね。

 そんな姿に感心していると、あっという間にサードクォーターの折り返し。

 ここでも若干、タイミングが合わなかったのか、少し流れたターン。そして、かなりきついんだろうな。ブレスの時、顔を上げるけど、少し長く水上に顔を上げて、また壁を蹴っていく。

 そこから、また浮き上がってくると、成海先輩のブレスに合わせて遊菜の大きな声が聞こえてくる。


「ラスト!成海さん!ラスト!上げて上げて!上げて!」


 スタート台には福浦先輩がゴーグルもして準備している。なんなら、指先を成海先輩の指先に合わせてタイミングを計っている。

 ただ、遊菜の迫力のある顔に力をもらったのか、少しから回ってしまった成海先輩は、バテバテの状態でサードスイマーの福浦先輩に繋いでいく。

 ただ、それでも6チーム中5番手というかなり下位でレースが進むせいで焦ったのか、スタートの時、足を滑らせてしまった。

 幸い、どこかにぶつけたというのはなかったけど、危うく、成海先輩と衝突する寸前だった。

 成海先輩は、練習のときの癖が残っていたのか、レーンの右側をギリギリで泳いだことが幸いしたというようなところか。

 足を滑らせて最悪なスタートを切った福浦先輩だけど、なんとかドルフィンキックを打って、加速していき立て直しを図っている。

 浮き上がりは、こっちも癖があって、ハーフラインぎりぎりまで潜り、そこからいつもよりピッチを早くしたフォームで飛ぶように泳いでいく。

 ……たぶん、棚橋先輩と成海先輩が下位の方で泳いでいたことを見て、挽回しないと。と思ってしまったのか、こっちも、ストロークピッチがいつもより速く、ターンの時、タッチが合わなくて、ロスになるんだろうな。なんて思いながら、泳いでいく姿を見ていたけど、案の定、タッチが合わなかったみたいで、ラスト一掻きを迷ったのか、結局、掻かずに流してタッチを合わせた。

 これでたぶん、コンマ5秒ほどのロス。焦らなければ、絶対にタイミングは合っていたはずなのに。なんて思いながら、ファーストクォーターのタイムを見る。

 うん。ファーストクォーターは17秒か。力んでしまった分、いろいろロスになったかな。

 そう思っていると、セカンドクォーターからは、周りが見えて、前を抜いていたことをわかったのか、ピッチが元のペースに戻り、さらに飛ぶように泳いでいく。

 福浦先輩の持ち味は、この飛ぶようなフォーム。だけど、腰を怪我しそうなフォームで、私は少し怖く感じる。


 その福浦先輩。落ち着いて泳ぐことができているのか、少し持ち直して、ファーストハーフが36秒台で折り返し。

 このペースなら、ギリギリ1分20くらいかな。まぁ、個人では、ギリギリで中央大会の記録を切っているから、気にすることはないんだけど、やっぱり、リレーだけども、もう一度切っておきたいところではあるよね。

 だけど、レース開始から4時間で3レース目の福浦先輩。しかも、うち2レースはバッタ。さすがに疲労がぬけきれていないのか、目に見えてバテ始めている。しっかり粘ってほしいところだけど、どうだろう。ちょっときついかな。


 レースを続ける福浦先輩。レース後半になるにつれて、フォームがだんだんと雑になってきている。

 ……そういえば、ファーストハーフはブレスを入れていなかったな。もしかして、急ごうとして無理したせいで、疲れがなおさら溜まったのか……。

 この25メートルだけで25秒。ほぼ1メートルに1秒のペースか。こりゃ、ラストクォーターもきついだろうな。

 そんなことを思いつつ、サードクォーターの折り返し。

 浮き上がってくるのは本当に速かったところを見ると、かなりバテているのは、目に見えている。もう少しだ。頑張ってほしい。


「福浦さん!ラスト!気合入れて!ラスト!粘って!」


 応援の声がある中で響く遊菜の大声。自分は、コース台の上に立ち、エールを送るように手を叩いたり、両手を自分のところに来い!といわんばかりのアクションを起こしながら叫ぶ。それは、ラスト5メートルになるまで続いていた。

 ラスト5メートルまで来ると、遊菜は一気に集中しだしたのか、両手で福浦先輩の指先を追う。そして、その指先が壁に着く直前。

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