Episode 227 Sara side 学校で調整をやっていく
「あれっ?沙良っちやん。どないしたん?近畿大会身に行っとったんとちゃうん?」
プールサイドに姿を見せた私にビックリした福森先輩が私に話しかけてくる。
「なんだか、もっと上のステージに行きたくて……。あそこでレースを見ているなら、最後の調整をしようかなって」
「そう。えらいやる気やな。なんかあったん?」
「何て言うんかわからないんですけど、大神先輩と原田先輩のストイックさに心を打たれたというか、誰かの期待に応えたいなって」
そういうと、福浦先輩は大笑いした。
「ほんまおもろい子やわ。でも、その心意気やで。うちは、絶対沙良っちがインハイに進めると思ってるから。頼むで、新生エース」
なんだか、福森先輩に言われると、ちょっと嬉しいかも。
今までは自分のために。とか思って練習をしていたけど、今は、福森先輩の期待してくれているし、伊藤先輩も、私のためにできることをしてくれている。これには答えないといけない。そんな気がしている。
ただ、“新生エース”と言われると、ちょっとくすぐったい。やっぱり、この高校のエースは大神先輩や原田先輩よね。
「エースって。エースは原田先輩と大神先輩ですよ。私はまだまだ甘ちゃんですから。2人に追いつくまで相当時間がかかるって思ってしますし。なんなら、一生追いつけない存在かもしれないです」
「おっ、ほんまに丸っこくなったな。入ってきたころなんか、『うちがエースや!』と言わんばかりの勢いやったのに。成長したなぁ~」
福森先輩は、本当にお調子者だ。でも、こんなお調子者の先輩でも、この人は私が尊敬できる先輩のひとりになった。期待を裏切らないように、インターハイへ絶対にコマを進めてやる。そんな思いで更衣室に入り、朝に浸かっていたスイムウェアに着替える。
「おっ、1匹オオカミが出てきたで」
気持ちを新たに、真剣な顔をしてプールサイドに出てきたのに、笑わせようとしてくる福森先輩。思わず、私との温度差に少しずっこけそうになったよね。
「1匹オオカミって……。私、そんなタイプじゃないんですけど……」
「いやいや。そうやって~。うちには今の顔、そう見えたで。まぁ、そんな冗談は置いといて、優ちゃん、1人で沙良っち見たってくれへん?あとはうちがまとめて見るよって」
「あっ、はい。わかりました。えっと~、メニューは?」
「一応、咲ちゃんからメニューは送られてきてるけど、ちょっと勉強するつもりで、自分でつくってみたら?やりすぎやと思ったらさすがに止めるからさ」
なんだろう。福森先輩って、ものすごく天然そうなのに、意外としっかりして、この先のことも見据えている。
「いいんですか?なんだか、まだ自信はないですけど……」
「沙良っちやから、多少無理したって大丈夫やって。それに、うち、考えるん嫌いやし」
えっと~、前言撤回でもいいでしょうか?なんだか、さっきすごく見えた福森先輩が少し小さく見えてしまった。
「そしたら、沙良ちゃん、いつも通りアップでツーフォーファイブチョイスでいい?」
ちょっと控えめにメニューを伝えてくる大野さん。
「うん。わかった。ただ、そんなにビビらんでええからな。一応、同い年やねんから。それに、うち、メニューに関しては従順するつもりやから」
「あれだけ咲先輩に反発していたら、私だって不安になるよ」
たぶん、伊藤先輩に対する私の態度のことだろう。それに関しては、本当に申し訳ないことをしたと思っている。
「もうしない。あんな惨めな思いはしたくないし、とりあえず、アップ行ってくるわ」
松山さんにそういうと、静かにみずのなかにもぐり、強く壁を蹴って泳ぎだす。
ただ、強く蹴るのは壁だけ。まだアップとしての泳ぎで、身体を大きく動かして、固まりかけている筋肉を起こす。
いつものように1本目と2本目はクロールで、3本目は個メで、4本目は最初の100をバッタ、ラスト100をクロールで泳いでいる。これがいつものアップの仕方。
人によって、“チョイス”メニューはいろいろ考えがあるから、何も言わないでよ。私にだっていろいろ考えはあるし、言わないようにしてるし。
そして、泳いでいる感触だけど、やっぱり、朝から泳いでいることがあるからか、身体はしっかりとほぐれている。
今までで一番って言うわけじゃないかもしれないけど、今シーズンに入って一番体は動いている。
そして、4品泳ぎ終わった私は、松山さんの方を見ると、ちょっと難しい顔をしている。どうやら、メニュー作りで悩んでいるのかな。
なんて思っていると、泳ぎ終わった私に気づいたのか、松山さんはにっこりと微笑みながら次のメニューを伝えてくる。
「それじゃあ、沙良ちゃん、スキップスでワンフォーツー、レースも明日だし、ファーストハーフS1、ラストハーフチョイスで」
「わかった」
「まだアップとして捉えておいてよ。沙良ちゃんが好きなキツイメニューを用意してるからさ」
なんか、さらっと爆弾発言をされたような気がするけど、それは気のせいなんだろうか……。それに、なんだろう。もうちょっと嫌な予感がするけど、気にせずに泳ぐか。
とりあえず、気楽に泳ぐって、ものすごく気持ちがいい。たまに何にも考えたくなくなる時があるくらい。
まぁ、そんなことを言っていたら、伊藤先輩に怒られそうな気もするけど、今はいいよね?




