Episode 226 Sara side学校に戻ってから
大神先輩と原田先輩のレースを見て目が覚めた気がした。私はこんなところで悩んでいられない。
もちろん、地区大会で自己ベストが出なくて、府大会でもギリギリ6位入賞。この近畿大会はなんとか滑り込んで出場できる。
それまではずっと信用しきれていなかった伊藤先輩のやり方に反発して、自分が所属しているスイミングスクールのコーチの教えを信じて、メニューの内容を自分なりに変えて泳いでいた。
ただ、それだけでは足りないことを思い知らされた。
伊藤先輩は、ずっとフォームを固めるために練習メニューを組んでいた。
それは、この水泳部に筋力アップが望める器具が少ないこと、それも運動部共同で使用するものになっているから、集中的にできても、長期的にしにくいというのが理由。
それなら、抵抗の少ないフォームを身に着けて、少ないパワーで進むようにとのことだった。
私は最初、それに気づかず、おのずとバッタでずっと泳いでいれば、パワーは着くと信じ込んでいて、ずっとダッシュメニューに置き換えて練習をしていた。
けれど、パワーは付いた気もする反面、タイムは、本当に。って言っていいほど伸びない。最初はそれを緩いサークルで組んでいる伊藤先輩のメニューのせいだと思っていた。だけど、それは違っていて、本当は、パワーでゴリ押す私のフォームがめちゃくちゃになって、パワーと抵抗がただただ倍になっただけだった。
ずっと私が正しいと思っていたことが、間違いだって気づかされたのは、選手権マネージャーの福浦先輩だった。
福森先輩は、中学時代、バッタ専門だったけど、無理に泳ぎ続けたせいか、腰を怪我して、去年1年はずっと力強く泳ぐことができなかったらしい。
ここで思い出す私の回想は、その福森先輩の言葉。
うち、正直なことを言うと、復帰するまでまだまだ時間がかかると思っとってん。しかも、いつ再発するかわからへんし、後悔もめっちゃした。力任せに泳ぐだけやなくて、フォームにも重点置いて泳いだらよかったってね。咲ちゃんはそれをいち早くやってた。
うちにはそれが最初なんでなんかはわからんかったけど、直ちゃんたちの成長、ほかの子らの成長を見とったらなんとなくわかったんよね。
それに、力もろくに入れてない部活で怪我するのなんか、アホ見たいやん。言い方が悪いかもしれんけど、趣味みたいなもんでやってる人もおるわけやしさ、やから咲ちゃんは、そこにこだわってんのかなって思ったりね。
うちも思ってることやねんけどさ、咲ちゃんが一番思ってることかもしれんねんけど、やっぱり、怪我はしてほしくないんよね。うちは、今でも週1で治療に行ってるし、ちょっとやばいな。って思ったら、すぐにやめるようにしてる。うちがずっと泳がへんのはそこが理由やねんな。
やから、沙良っちには、うちの二の舞にはなってほしくないし、咲ちゃんも、思ってることやと思う。
あと、うちが勝手に思ってることやけど、咲ちゃんは、まだ沙良っちを見放してへんと思うで。見放してるんやったら、ギータと同じレーンで泳がせへんもん。やから、一回騙されたと思って咲ちゃんのメニュー通りに、指示通りにやってみてほしいんよ」
そんなことを言われたのは、中央大会が終わってすぐの部活で、近畿に行けた喜びと、ふがいなさでもう練習を積まなきゃって思っていた練習中だった。
タイムが伸びなかったことに対して、自暴自棄になりかけていた私を慰めるかのように。
そして、その話をしてもらってから伊藤先輩のメニューを騙されたと思って指示通りにやってみると、疲労感がほとんどなく泳ぐことができた。
もちろん、S1がバッタやから、それなりにしんどいけど、100メートル8本を1分20秒サークルで回すハードメニューもスタミナがついたこともあるかもしれへんけど、少し楽にこなせるようになった。
そして、メニュー――の半分を占める“フォームチェック”も最初の1本は自分の思うように試し、そこからアドバイスをもらい2本目、3本目と確認していく。
そのアドバイスも、都度、伊藤先輩や福森先輩、奈々美からもらい、自分のものにしてきたつもり。




