Episode 224 やっぱ、持つべきものはスーパーマネージャーやな
「美咲、なんかわかったか?」
『いろいろな。一気に言うていくけど、最初、スタートの時、軸足の蹴りだしが無くなってる。いつから添えるだけになってんねん。あと、浮き上がり、ドルフィンをもう一回打てるはず。ダッシュで泳ぎ始めることより、15メートルライン意識して、掻き出しのフォームを正すこと。それだけで買わwるは図。あと、リズム。浮き上がりが早いせいか、ストロークピッチがほんのわずかに早いかも。それで、もしかしたらマシになるかも』
「お、おう。わかった。蹴りだしとドルフィンとピッチやな。もっかい確認してみるわ」
思った以上に指摘事項がゴロゴロと出てきたな。こんなに出てくるとは思ってなかった。
『うん。頼んだで。ほんなら、奈々美ちゃんに変わってくれへん?』
「おう、サンキュー」
それだけ返すと、スマホを大野さんに返し、美咲と電話が終わったタイミングで、大野さんに話しかける。
「すまんな、いろいろ助かったわ」
「こちらこそ、うまく指摘できなくてすいません」
「気にすんなって。あいつは、スーパーマネージャーやねんんから。なれるように頑張ったらええからな。頼むで」
はい!大野さんがそういうと、この代は意外と盛り上がるかもしれんな。そう思いながら、今度は、スタートダッシュの列に並ばず、ペースレーンに入って、美咲に言われたことをひとつずつ確認していく。
それにしても、fk-無じゃなかったところが安心できるな。これでまるっきりフォームが変わってたら、時間、どれだけかかるんやろうな。ちょっとゾッとするよな。
でも、フォームが何も変わってなくて、意識だけってなるだけで、問題は簡単になる。しかも、全部スタートから15メートル付近まで。マジで助かるわ。
そんなことを思いながら、少しペースレーンで言われたことをひとつずつ確認する。
とはいっても、これは、スタート練でしかできひんやんって思って、100メートルだけ泳いで、もう一度スタート練習できるレーンに戻って、しばらく並ぶ。
「直ちゃん、まだ飛ぶん?」
まだ泳ぐ気でおる俺を見て大神が声をかけてきた。
「最後の確認や。美咲からアドバイス貰ったしな。その確認だけしたら、アッププールに行くわ」
「そう。あんまり無茶しなや?レース前やで」
「わかってるって。それに、美咲からの指摘が俺の意識してないところばっかりやったからな。それだけ確認させてくれや」
正直に言うと、美咲に言われたことを今ここで確認したい。アッププールでできひんかもしれへんし、忘れることはないやろうけど、美咲のみている前でやっておきたいって言うのもある。それで、できてなかったらもっかいって言われるや折るし、見てもらってる前でやるのが一番やわ。
そんなことを思いながら、ちらっと大野さんの方を見ると、すでにスマホを構えていてい、俺の泳ぎを撮ろうとしてるのがわかった。まぁ、映像に残してくれるだけでもありがたいわ。
「大野さん、ちょっと」
「はい?どうしました?」
「美咲から俺の指摘事項って聞いてる?」
「はい。スタートの時の軸足の蹴りだしと、水中でのドルフィンキックをプラス1回。そこからのストローっくピッチですよね?」
相変わらずぬかりねぇな。全部きっちり伝えてやがる。少し恥ずかしいけどな。
「確かに、ここは私も目が尽きませんでした。ずっとフォームばかり追いかけてしまってましたし、さすがですよね。見咲先輩って」
「ほんま、美咲さまさまやで。あいつがおらへんかったら、俺も大神もインターハイなんか、夢のまた夢やったからな」
「せやな。咲ちゃんおらへんかったら、ずっとくすぶってたかもしれんし、なんなら、水の申し子とおちかづきになられへんかったかもしれんし」
いつの間にか俺の後ろにいた大神が話に入ってきた。けど、大神の言う通りなんよな。美咲がおらへんかったら、水の申し子こと、宮武花梨選手と仲良くなることなんてなかったかもしれんし、迷惑な話やけど、あそこまでちゅうもくされることにはならんかったやろうな。
「まさかの交友関係!そんなことあるんですね」
おいおい、そこまで目を輝かせるなよな。
「正直に言うけど、俺らはちょっかいかけられたほうやで?アッププールで。俺が直接話したのは、そのときと、翌日の公式のアップ前やったか?それだけやで」
「せやね。うちは、あのあと、SNSで話したりしてるけどさ」
「あぁ、あかん。私が付いていける空域超えてった~」
そう言って大野さんは頭を抱え込んだ。まぁ、まさか、そんな有名な人と知り合いになるとは思ってなかったんやろうな。正直、俺もやけど。
「まぁ、今年は近畿でインターハイがあるんやし、美咲に連れて行ってもらえる機会があるんやったら、ついてきたらええやん。おもろいと思うで」
「はい!そうします!」
っと、ちょっと話過ぎたな。俺は最後の確認としてスタート練習を最後やるか。
「あっ、すいません。話過ぎましたね。切り替え、できます?」
テンションが上がってしもうたんやろうな。大野さんは、ちょっと俺を気遣うように効いてきた。
「問題ないで。ほんなら、もっかい動画回してもらってもええか?」
「はい、任せてください」
そう答えられると、なんかなぁ。ただ、このやる気も無駄にしたくないし、ちょっと頑張ってみるか。
「大神も稲葉さんももっかい飛んどくか?」
「せやね。せっかいやし、もっかい飛んどこうっと」
「大神先輩がそういうなら、私も」
ということで、3人がみんな飛ぶことに。そのあとにアッププールに行く形になる。
順番はあっという間に回って来て、先に準備をさせてもらう。
そして、言われたもとをもう一度全部思い出して、大野さんの掛け声を待つ。




