Episode 222 Naoya side 焦りはある
やべぇな。俺はアップ中にもかかわらず、心の中で舌を出していた。
いつまで経っても、去年みたいなタイムが出るわけでもなく、どこかが狂ってんのか、ダッシュメニューの時、ターン、フィニッシュがことごとく合わず、勢いが流れる。
それさえなければ、ハーフ単位でコンマ2秒は変わるはずやねん。
美咲も俺の調子が悪いことは薄々と勘付いてるんやろうから、どこがおかしいんか見てくれてるんやけど、その美咲でさえも原因がわからんと悩んでる。
ほんまにどこが悪いんか……。
そんなことを思いながら、かなり焦っているなって言う実感もある。それを無理に抑えつつ、アップを続けていく。とはいうものの、焦っているというのもあるせいか、このアップからいろいろ試しているところはある。
フォームに原因はないと思うって言うてるし、さすがの美咲でも、周りからは“コーチ”と慕われているものの、同級生のマネージャーだ。
プロのコーチやないし、わからんとなったら、それはそれでしょうがないんかなって思う。
さて。こうなった以上、どうするか。さすがに今からフォームを変えることは相当なリスクがある。……とりあえず、アップを続けるか。美咲から次の指示来てるし。
「ワンフォー、ファーストハーフダッシュ、セカンドハーフイージーやってよ」
「オーライ」
「はい、わかりました」
今日に限っては、場慣らしを兼ねてるのか、今日出る予定のない稲葉さんもいる。
「直ちゃん、なんか焦ってる?いつもよりアップのペースが速い気がするんやけど?」
俺は、普段通りって思ってるんやけど、無意識にペースが速くなってたんか?俺を勝手にペースメーカーにしている大神が声をかけてくる。
「うん?そんなつもりはないんやけど、ちょっと焦ってるってところはあるかもしれん。中央であのタイムやったら、今年、勝たれへん気がしてな。正直、感覚が狂ってるって感じやねんな」
「あとで咲ちゃんに見てもらったらなんかわかるんちゃうん?」
「それがわかってるんやったら、練習中とか、今このタイミングで指摘されて直しにかかってるわ」
「あっ、そっか。そうやんな。咲ちゃんやったら一瞬で気づくよな。ほんなら、なんなんやろうな」
「俺が一番知りたいわ。こんなに長く苦しむんは久しぶりや。中学のときもいろいろあったけど、今が一番苦しいわ」
そう言って、苦笑いを少し浮かべた後、美咲の指示通り泳ぎだす。
最近では、このアップの時間とフォームチェックの時間が一番好きかもしれん。
まぁ、そのことを美咲に言うと、「そんなアホなこと言うてんと、はよ練習しぃや」とかいわれるんやろうな。とか思いながら、練習のときと同じ力でダッシュをしっかりとこなし、50のターン。
……やっぱり、ここも少し流れるな。理想は、掻いたと同時にターンできれば、完璧やねんけどなぁ……。
やっぱり、なんかおかしいのは明確。そのおかしいなにかがわかれば対処の使用がある。……我慢やな。
「原田先輩、遊菜先輩、お疲れさまです」
「お~っ、なっちゃん!どうしたん?」
上から声をかけてきたのはマネージャーの大野さん。
美咲からなんか言われたんやろうか?まぁ、近くで見てもらえるんやったらそれでええわ。なんて思いながら大神と大野さんの話を聞き流す。
「咲先輩から原田先輩と遊菜先輩、あと、沙良のアップの手伝いをお願いと言われまして~」
どうやら、美咲の差し金みたいやな。それでもありがたいわ。今やったら、近くから見てもらえるだけでも全く違うとか感じるかもしれへん。
「とりあえず、美咲からなんか聞いてる?」
「今は、サブプールでやってもらうメニューを預かってるだけです。メインプール(ここ)でのアップはハンドサインでやるみたいです。ただ、咲先輩と連絡を取ることはできます」
「そうか。とりあえず、このアップが終わったらスタートになるやろうし、その待ってる間に聞いてみるわ。頼むな」
善処します。そういうと、再度に移動して俺らのアップの様子を観察し始める。
あいつがどういうつもりで大野さんをよこしたんかわからんけど、これはマジでありがたいよな。
そんなことを思いながら、アップを続けて、美咲からもらったメニューが終わり、美咲の方を見る。
さっきと同じようにハンドサインでメニューが伝えられる。
「大神、稲葉さん、上からダッシュやて」
「イーライ」
正直、ここからやな。というのは薄々感じてる。
なにがここまで足を引っ張ってんのかはわからへん。ここでわかってくれたらほんまにありがたいな。




