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Episode 220 予選終わりの選手たち

「咲先輩、学校に戻って泳いでもいいですか?なんか、2人のレースを見てたら、このままじゃあかんて思って、泳ぎたくなってしもうて」


 うーん。そうだな。たしかに、出もしないのに、ここでずっと見ているより、少しでも最終調整をさせるほうがいいか。


「うん。わかった。ほんなら行っといで。メニューは組んで愛那と優奈ちゃんに渡しとくから」

「ありがとうございます。失礼します」


 そういうと、かなりパワーを余らせているのか、沙良ちゃんは元気に飛び出していった。


「沙良、かなり嬉しそうでしたね。もしかして、この効果を狙ってました?」

「いや、逆にもっと絶望してもらおうかなってえ思ってた」

「どういうことですか?」

「やる気になった彼女には言わんといてな。これでまた拗ねられたらかなんから」


 それだけいって、奈々美ちゃんに約束を取り付け、私は思っていたことを伝える。


「府大会で調子の上がらへん直哉のタイムを見て、近畿はこんなもんって思ってほしくなかったんよね。やから、直前で全レースを見せて、冷静にレースに向かってもらおうと思ってんけどな。まぁ、2人のレースを見て、完全に目が変わったからありがたいわ」

「ですね。あとは、沙良がどこまでやってくれる勝手処ですね。やけど、どうでしょう。沙良はベストを出さないと、全国は厳しいんじゃ……」

「大丈夫。沙良ちゃんはベストを出してくれるって。たぶん、ベスプラ1秒」

「そんなに!?」


 正直に言って、控えめに言ったけど、これだけ驚かれるとは思っていなかった。

 だけど、私としては、自信があるからそう言っただけ。中央大会から今日までで意外と時間があったから、その間に、私のやり方を浸透させているつもりで、沙良ちゃんもしっかりとついてきてくれている。

 たぶん、言っていた、スイミングクラブのコーチの教えは全部忘れてくれていることだろうと思う。


「遊菜も直哉もこの時期に2秒弱縮めたからな。沙良ちゃんもちゃんと締めてくれるって。それに、去年と似たようなメニューにしてたし、それにちゃんとついてきてくれたし。メニュー自体はかなり疲れたやろうけど、しっかり力はつけてくれた。去年と同じとは言わんけど、沙良ちゃんも、スイミングスクールに通ってた時に比べて、力はかなりつけてくれたと思うで」


 去年の直哉と遊菜は、ちょうどこの時期が一番伸びていた。今年こそ、伸ばしきれていないけど、沙良ちゃんがいる。その沙良ちゃんがどれだけタイムを伸ばしてきてくれるかは、明日次第。

 あとは、本人次第。

 そんなことを思いながら、男子の1フリの予選レースが終わってから1時間半くらいしたころかな。遊菜と直哉が戻ってきた。


「お疲れさん。2人ともタイムはよさげやったで。あともう少しで2人とも大会記録更新やろ。行けんちゃう?」

「まぁ、そこまでは考えてへんけど、後は、いつも通り溜め締めたらそれでええわ」


 2人ともやっぱりいつも通り。このあとの決勝は、さらにタイムを伸ばしてくれるだろうし、インターハイにも楽々進出できるだろう。


「あれ?稲葉さんは?」

「学校に戻ったで。ほんで、明日のレースに備えてちょっと泳ぐって。直哉のレースのときから完全に目の色が変わってたから、明日のレース、ベスト更新もあり得ると思う」

「そうか。ほんならひと安心やな。さて。俺らは俺らのレースに集中するか」

「せやね。あっ、せや。咲ちゃん、うちのタイムは?」

「えっと、遊菜先輩は、ファーストハーフが5秒8、トータルが5秒85ですね」

「うわっ、後半落ちすぎたな。やっぱり、慣れへんことしたらあかんな」

「やっぱり、なんか変えとったん?」

「うん。去年はトップに上り詰めることしか考えてへんかったうえに、みんな速いから前半は必死について行って、後半は全力って決めて1年やってたら、ええタイム出てたし、インハイのときは宮武さんについて行って、最後、後半勝負ってところでまくることできたけど、耕志は、ずっと追われてる立場に感じてるし、うちより速い存在の人がおらへんから、ついていくにしても、タイムが落ちるやろ?それはさすがに王者としての威厳が無くなるかなって思って、前半から突っ込むようにしてみたんよね。感覚的には、半フリを全力で2本続けるような感じ?でやってみてんけど、やっぱ、後半、めっちゃ遅かったよな?」

「そうですね……。ファーストクォーターが10秒、セカンドクォーターが15秒、サードクォーターが16秒、ラストクォーターが14秒ですね。ファーストクォーターを超えてからがほとんど同じようなタイムですね」

「そうか。奈々ちゃんありがとうな。後半、もう少し粘れるな。それか、前半をもうちょっと攻めるか。どうしようか……」


 そういうと、いろいろと悩みだす遊菜。

 悩むところはそこじゃない気がするんだけどなぁ。なんて思ったりはするけど、そこは遊菜が考えるところ。私が口を挟むところじゃないとは思う。

 もちろん、遊菜からアドバイスを求められるなら、できる限りでアドバイスをするつもりでいる。


「直哉、どうやった?調子は」

「あぁ、なんかアップのときに比べたら、比較にならんくらいよかったわ。美咲の言う通りで、ドルフィンキックを一回増やしたら、浮き上がりもしっくりきてたし、ストロークピッチもほんの少し落としたら、フィニッシュもぴったりおうたわ。ようわかったな」

「たまたまやって。まぁ、蹴りだしに関しては、癖づいてしもうたかもしれんから、もう無理やと思ってるけど、うちの考えやと、蹴りだしが弱くなって前に出られへん。前に出られへん分、浮き上がりも前に出るし、タイミングが合えへんのも当たり前やったやろうし、ストロークピッチが上がってたのは、タイムが出ぇへんくて焦ってたんとちゃうかなって思うわ」

「あぁ、なるほどな。ようわかったわ。助かったでもほんまに。とりあえず、蹴りだしさえどうにかしたいなぁ。あと、掻きだしが軽かったから、やっぱ、スタートも見直さなあかんな」


 2人とも、まだまだ課題はあるみたいね。伸びしろがあることは、記録を狙ってくれることだろうし、私も背中を押してあげないと。


「とりあえず、軽いクールダウンはしてきてるから、飯食って、決勝に向けて絵最終調整するか」

「せやね。決勝は記録狙ってみたいなぁ」

「そんなん言わんと、高校記録狙ったらええのに」

「それは無理やわ。やるんやったら、全国でやりたいわ」


 ちゃんと目標は立てているみたいで、私としてもひと安心。まぁ、目標もなしにここまで来られるとは何ひとつ思ってないけど。

 とりあえず、午後は奈々美ちゃんと変わってもらおうか。私も近くで直哉たちの調子も見ておきたいし。


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