Episode 21 午後1発目のレース
「調子よさそうやね」
「あ?あぁ。そうやな。さっきの1フリもええ感じやったし、まぁ、悪くないとは思うわ
「ちなみ、さっきのレース、5秒5やったけど、どうやった?」
「そんなに出とったん?気づかんかったわ。それに、あんまり見てなかったし」
どうやら、直哉も気づいていなかったのか。まぁ、中央大会に出られるならそれでいい。って思っているくらいで、それに気づかないくらい調子がいいんだろうな。
「あっ、せや。ファーストハーフは?」
「ファーストハーフはたしか5秒8やったかな」
「そうか。ファーストハーフも速かったんやな。6秒インの8秒フィニッシュやと思ってたから、1フリでそれは上等やろ。しかも、こんなに条件が悪い中でこれは」
「満足したらあかんで。あんた、インターハイ行くんやろ?3秒はいるんちゃうん?」
「たぶん、それくらいはいるやろうな。とりあえず、次の半フリは4秒前半目指してみるわ」
そういうと、直哉はまた軽く泳ぎだした。
そこから直哉も遊菜も15分前になるまで泳いでいた。
そして、ここから男女それぞれ4×100メートルのメドレーリレーが始まる。
扇商は男女ともに3組中2組で登場する。
女子からは、バック専門の棚橋先輩、バッタの福浦先輩、ブレの成海先輩、フリーの遊菜というオーダーで、すでに、福浦先輩と遊菜にアクセルが掛かっている。この様子を見ると、一気に突っ込んでくれるはず。
そして、男子は、バック専門の部長、ブレに鮎川さん、バッタに成東さん、フリーに直哉というオーダー。
たぶん、この大会の冒頭あたりで、メドレーリレーの話をしたと思うけど、メドレーは専門種目を泳ぐ選手を選ぶことが多い。だけど、今回は、バッタ専門の鮎川さんがブレに入っている。
というのは簡単な話で、ひょろり先輩と鮎川さんを1ブレで勝負させたとき、断トツで鮎川さんのほうが早かったから。
そして、鮎川さんと成東さんで1ブレを勝負させても、鮎川さんのほうが速かった。
これに関しては、個メでブレの練習をしていることもあるんだろうな。推測できるけど、まぁ、これが1番速いなら。ということで、こういうオーダーになっている。
『ただいまより競技を再開します。プログラムナンバー15番、女子400メートルメドレーリレー、1組の競技を行います』
場内アナウンスのあと、笛の音が鳴り、ファーストスイマーが水中に入る。
そうだ。混継とバックの種目は、水中から仰向けスタートになる。
そのせいで、短い笛が4回、長い笛が1回鳴ってから、水中に入り、さらにもう1回長い笛が鳴る。
この最後の長い笛でスイマーはスタートできる態勢を取らないといけない。
こうなんか、説明すると、懐かしく感じてしまうね。たぶん、今でもスタートは怖くてできないだろうけど。
長い笛も鳴り「テイクユアーマークス」との声も聞こえた。もうスタートかと思いながらも、水中でスタートの姿勢を取る6人を見る。
まぁ、人それぞれだから、何も言わないけど、身体を水面から上げる選手もいるんだな。と思う。私は、これに力を使うことを嫌ってしなかったけど、どうなんだろう。水の抵抗って少ないのかな?私はあまり変わらないと思ったけど。
そんなことを考えていると、レースが始まっていた。もちろん、お昼の間に乾いたジャージの裾も一瞬でびしょ濡れに。まぁ、そんなことに抗っていても何もないからいいんだけど。
やっぱり、速い選手はバサロキックで半分くらい稼ぐか。
こういう人ほど25メートルのバサロなんて余裕なんだろうけど、まぁ、レースでするバカはいないよね。
昔、1バックのレースで、ほぼ全部の距離をバサロで行ってオリンピックで優勝した選手がいたこともあり、今は、スタート・ターン後15メートルまでって決められているし。
浮き上がってきてからは、ものすごく泳ぎ方に差が出る。
静かに進む選手もいれば、リズムに乗せて身体が上下する選手もいる。
私はあまり身体を上下することはしたくないかな。
確かに、水中を深く掻いて、浅く出てくるけど、その分、抵抗が増えるから、やる意味がないんじゃないとか思っている。
それに、個人的には、水が鼻に入るのが1番嫌だというのも1つ。
だから、私は静かに一定のペースを刻んで泳いでいた。
ファーストスイマーのバックはあっという間で、セカンドスイマーのバッタにつながっていっていた。
バッタはどこの学校も豪快で、しぶきが派手に立つ。それでも、速いんだから、パワーはすごい。ただ、やっぱり、徐々に広がりだす差は埋められない。
これがインターハイとか近畿大会なら、ほぼ横一線でレースは進むんだろうけど。
バッタも各校、まるで蝶のように跳ねて泳いでいく。その姿はやっぱり格好いいと思ってしまうよね。
サードスイマーのブレの選手が引き継ぎの準備に入ろうとするころには、まだ2分しかたっていない。やっぱり、1組は速いよね。わかり切っていることだけどさ。
そこから飛び出していくのはブレの選手たち。
ブレの選手がたぶん、フォームや性格が個人的には1番個性的なんだと思う。
その理由は、速くなるフォームに関しては人それぞれで、その人に合う・合わないが1番はっきりしているから。
個人的には、ブレを教えるのが1番難しいと思うくらい。
基本的なフォームを教えるのは簡単だよ?ただね、そこから速くなろうとすると、人それぞれのフォームを見つけるところから始めないといけない。そこに1番時間を割いてしまうし、合わなかったら、また探し直し。みたいなところがあるから、余計に時間がかかる。
私が一番苦手な種目の1つでもある。
だから、ブレを専門にする選手は、私から言わせれば、器用な選手か、運よくフォームを見つけた選手だと思っている。
正直、今の1年男子にブレができる選手がいないから、誰かお願いしないといけないなぁ、なんて思いながらも、適任者が誰もいないから、来年の新入生頼みというところも考えないといけないかな。
まぁ、今の3年が引退した後、しばらくの間は、直哉をブレに持っていく?正直、専門のない初心者のヨッシーを持っていきたい気もするけど、これでハマらなかった時が1番怖い。
それは、その時に考えるか。ただ、ヨッシーにはブレも練習してもらおうか。
そんなことを考えていると、ブレも終わりかけている。最後のフリー。
ここで最後、順位が変わることもあるかな。
……まぁ、トップの桃女は確定だろうね。ただ、2位争いを将星高校と海宮で。本当にこのフリーで変わるだろうな。
結局、最後まで桃女がトップ。2位は最後のフリーで抜け出した将星高校、3位に海宮と続き、違反もなく6チームが泳ぎ切った。




