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Episode 218 なんとかなったのかな

 その直哉、ここから見る限り、スタートの時の軸足、しっかり蹴りこみを入れられているみたい。

 さらに、私が忠告した15メートルラインの意識もしっかりとあるようで、さっきに比べて一回多い12回のドルフィンキックを打って浮き上がってくるところまで完璧。

 浮き上がってきてからのストロークピッチも、ひとつずつ考えて回すように落ち着いているようにも見える。

 そして、あっという間の50メートル。フィニッシュタッチも完璧にそろったようにも見えた。

 完璧にフィニッシュタッチが揃ったタイミングで手元のストップウォッチを止め、タイムを確認する。

 ……うん。ほしいタイムまではもう一息だけど、コンマ5も縮められたら十分だ。

 私ができるのは正直、ここまでかな。あとは直哉たちのパフォーマンス次第。

 本人たちは、インターハイ2連覇なんて狙っていないみたいだけど、私個人としては、少しだけ狙ってほしいかなって思っているところがあるのも本音。

 まぁ、私も含めてだけど、〈楽しんだもの勝ち〉っていう扇商水泳部のスローガンを掲げている以上、私から2連覇を強要することはないし、できないけどね。

 さて。ここまで来たら、私はゆっくりさせてもらいますか。遊菜のレースが始まるまで。

 まぁ、遊菜が出る種目が始まったとしても、会えることはない。なんせ、最終組、6組のセンターに陣取っているんだから。

 そんなことを思いながら、直哉に次のメニューをサインで指示して、ゆっくりと席に着く。

 というか、直哉に対して、遊菜は、地区大会のときから、ずっと好調をキープしている。府大会のときも、周りを寄せ付けない圧倒的な速さで優勝しているし、ベストに近いタイムをたたき出すし。しかも、個のタイムより速いタイムで泳ぐ選手は近畿大会にいないだろうし。

 それに、ドルフィンと今のフォームを身に着けた遊菜に、プラスでパワーが加われば、確実に“鬼に金棒”だろう。

 ……なんでだろう。鬼の姿の遊菜を想像したら、笑いながら金棒を振り回す遊菜が頭の中に浮かんだ。


「あっ、咲先輩。お疲れ様です。遊菜先輩たち、招集に向かいました。原田先輩も『調子が戻ったわ』って言って、すこしえがおでした。遊菜先輩は……いつも通りです」


 気を楽にして、静かになった場内を見つめていた私に、直哉たちのアップに付き合ってくれていた奈々美ちゃんが客席に戻ってきた。


「ほんで、どうやった?下の様子は。上では感じられへん感覚があったんちゃう?」

「ほとんど原田先輩たちのアップを見ていたんで、それに必死になってついて行ってましたけど、ちゅうおうたいかいにくらべて、やっぱり、雰囲気が変わりますね。猛者の集まりと言うか、1年でほとんど経験のない私がいること自体、場違いに感じましたね」

「そう。でも、ええ経験になったやろ?」

「なんか、新鮮でしたね。それに、遊菜先輩たちがダッシュの列に並んで待っている間、ほかの選手たちのアップに目が移ったりしましたけど、人それぞれにアップの方法があるんやなって言うので勉強になりました」

「よかった。下で見てもらって。たぶん、上から見てても、ぼーっと眺めてるだけやったやろ?」

「かもしれないですね。たぶん、ここだけじゃなくて、インターハイのアップとかも、もっと参考になりそうです」

「なんなら、今年は京都で競泳のインターハイがあるからな。来ようと思ったら来れると思うけど」

「でも、この近畿大会の間は、愛那先輩がマネージャーの代わりで入ってくれていますけど、インターハイの時期はさすがにみんな練習するから、マネージャーも抜けられそうになさそうですけど」

「ただな、お盆明けやねんな。やから、そのまま休みにして、応援に行くってこともできるけど。まぁ、個人でチケット手配してって形にはなるやろうけど」

「ただ、みんながみんなは入れるわけじゃないですもんね。それに、愛那先輩から聞きましたけど、規定で、うちはマネージャーが1人しか同行できませんもんね」


 愛那からいろいろ話は聞いているのか。それなら、こっちも話が早い。ありがたいね。


「正確に言うたら、出場選手の数によって変わるから、何とも言われへんけどな。たぶん、うちらは1人を割り当てられたらありがたいほうやな。去年は直哉と遊菜のご希望で、うちが行ったけど、今年はどうやろうね。ほかの子にご指名が行ったら、そうなるやろうし」

「そこは絶対に咲先輩ですよ。それに、私と優奈はそこまでの器じゃないですし」


 正直なところ、それが一番ありがたいっちゃありがたい。だけど、経験と言う面でも、別のマネージャーに経験させてあげたいというのも本音のひとつにある。


『プログラムナンバー5番、女子100メートル自由形、予選1組の競技を行います』


 さて、いよいよですな。正直、この予選は楽に突破できるだろう。私は正直、直哉も遊菜もタイムとの戦いになるかなって思っている。

 正直、この予選で全国大会の記録を突破できれば、予選落ちしたとしても、インターハイには進めるんだから。

 まぁ、全国大会の制限記録を割れるなら、予選は突破できると思っているけど。

 レースを重ねるたびに、調子を上げる遊菜だから、正直、遊菜に関しては、そこまで心配はしていない。

 とは言いつつも、いつも練習のときも全力の遊菜も、周りを見てレースすることがあるから、今回は、それが顕著に出てきてしまうんじゃないかなって思っている。そこが少し怖いところかな。なんて思ったりね。

 というのも、遊菜は、自分よりも速い選手が隣にいると、テンションが上がって隠れている力を出したりするけど、自分が一番速い存在だってわかった瞬間、少しタイムが伸び切らなくなる。

 そんなことを思っていると、なんとかって言うタイミングで沙良ちゃんが戻ってきた。


「あぶな。ギリギリすぎたって。間に合ったからええか」


 そう言いながら、通路の横の席に腰を下ろした沙良ちゃん。しっかりと食いつくように前のめりで見ている。

 どうやら、自分のレース以外にもいろいろと興味があるみたいね。なんて思いながら、いろいろと手本にできる選手がいないか見ているけど、まぁ、なんていうか、みんなパワー系に近いフォームで泳いでいたりするから、なかなかなぁ。なんて思いながら、レースを観戦している。


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