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Episode 216 藁にすがる直哉

 さて。私は上に戻って、直哉たちのダッシュタイムを採って、レースが始まるまでゆっくりしようかな。

 そんなことを思って、自分たちが録っている席に戻り、プールの方を見ると、プールの奥の方、1レーンで直哉が手を上げているのが見えた。

 それじゃあ、ハーフダッシュのタイム取りと行きましょうか。

 それだけ思うと、またハンドサインで指示を出した後、私はストップウォッチを2つ取り出し、直哉が飛び出すのを待つ。そして、静止した状態から動き出した瞬間でストップウォッチを動かす。

 そのすぐ後に遊菜が続くこともわかっていたから、遊菜も同じタイミングを計り、もうひとつのストップウォッチを動かす。

 ただ、今日に関しては、沙良ちゃんも一緒やりにくいけど、少し余裕のある直哉の方で測るか。

 ……うん。何とか測れそう。

 沙良ちゃんのタイム計算が少し面倒だけど、どうにかなった。

 で、肝心のタイムだけど、直哉はハーフを4秒9、遊菜が5秒7、沙良ちゃんがバッタで飛んで8秒9か。

 アップがてらってところはあるけど、そこそこのタイムか。

 ただ、やっぱり、個人的にはちょっと心配になるタイム。

 直哉なら、アップでも4秒を切ってくると思ったんだけどなぁ……。ただ、遊菜に関しては、ペースを戻ってきたと思ってる。ただ、ここまで差がなくなるとは思わなかったよな。

 これ、直哉、かなり不調なんだろうな。ただ、どこがおかしいんだろうか。それさえわかれば私だって対応できるんだけど……。

 そんなことを思っていると、私のスマホのディスプレイが光る。

 電話?しかも、奈々美ちゃんから?


「もしもし、どうかした?」

『あっ、美咲か?すまん、俺や。ちょっと借りてる』


 耳に届いたのは直哉の声だった。


「どないしたん?珍しいやん。あんたがうちに電話してくるとか」

『悪いんやけどさ、今のダッシュ、なんぼやった?浮き上がりもフィニッシュタッチもタイミング最悪やってさ。たぶん、5秒近いんとちゃうかなって思ってるんやけど』


 ほんと、体内時計は完璧だよね。これだけ全力で泳いでいて、それがわかるんだから。


「手元のストップウォッチで4秒9やった。浮き上がりのタイミングが合えへんってことは、深いんとちゃうん?」

『それだけやないねん。今年、俺、タイムがよくないやろ?それがわからんねん。正直、中央のときは、エンジンがかかってないだけやろって思ったんやけど、それからもまったくタイムが伸びて来ぇへんやろ?やから、練習積んで、今のアップのタイミングでなんかわかるかと思ってんけど、まったくや。上から見とってなんかなかった?』

「それがわかってたら練習の時に言うてるやろ?」

『やっぱそうよな~。ほんまなんなんやろ。美咲、もっかい飛んで測ってもええか?』

「別にかまへんけど、そう変わらんのとちゃう?」

『そんなことわかってるわ。やけど、やってみるだけやらせてくれや』


 直哉は今のアップで、何かを感じ取ったのかわからないけど、自分が不調だって言うことがわかるのもすごいと思う。

 私としても、もうちょっと気を利かせてあげたらよかったな。なんて思っている。


「わかった。ほんなら、また飛ぶときなったら手は上げてな」

『オーライ、頼むな』


 直哉がそれだけ言うと、電話の主が奈々美ちゃんに変わった。


『すいません。原田先輩に言われちゃいまして』

「ううん。かまへんよ。たぶん、直哉も藁にすがる思いやったんやろうし。とりあえず、次に直哉が飛ぶとき、動画回して送ってくれへん?それで遠くから見たのと、近くから見たのとで、差を見ておきたい。あと、それで何かわかれば最高やし」

『わかりました。それじゃあ、一旦失礼しますね』


 そういうと、電話は切れて、私はまたプールの方を見る。少し前かがみになって。

 と言っても、直哉の順番が回ってくるまでは、ほかのスイマーのアップの様子を見ていたりね。それで、フォームだったり、リズムだったり、何かのヒントになれば、それで上出来。私がアップを見つめている理由はこういうところにあったりする。

 うーん。でも、やっぱりここで泳ぐ選手の技量だと、うちの選手たちには難しいか。やってみてほしいところはあるけど、少し考えないといけないな。

 そんなことを思いながら、プールを見ていると、直哉がこちらを見て手を上げている。

 もう戻ってきたのか。早いな。とりあえず、こっちは準備はできているから、やらせてみるか。

 そう思い、こっちも手を上げて返す。そして、その姿を見たのか、直哉は、奈々美ちゃんの合図とともに飛び出していく。

 ……うん?蹴りだしが弱い?それから、浮き上がりが普段に比べて早いようにも見える。それでタッチが合わないのか。

 学校で練習しているときに気づかないのは当たり前の話かもしれない。

 うん。タイムもさっきとほとんど同じ。これを改善するだけで変わるかもしれない。そんなことを思っていると、奈々美ちゃんから今泳いだ動画が送られてきた。

 えっと~、どれどれ~。

 ……。うん。思った通りかも。ただ、思っていた以上のことがあるな。とりあえず、奈々美ちゃんに電話してみるか。


『もしもし』

「あっ、奈々美ちゃん?うちやけど、直哉に変わってもらってもええ?」

『あっ、はい。 原田先輩、咲先輩から変わってほしいってことです』

『おおっ、サンキュー。 美咲、なんかわかったか?』

「いろいろな。一気に言うていくけど、最初、スタートの時、軸足の蹴りだしが無くなってる。いつから添えるだけになってんねん。あと、浮き上がり、ドルフィンをもう一回打てるはず。ダッシュで泳ぎ始めることより、15メートルライン意識して、掻き出しのフォームを正すこと。それだけで買わwるは図。あと、リズム。浮き上がりが早いせいか、ストロークピッチがほんのわずかに早いかも。それで、もしかしたらマシになるかも」

『お、おう。わかった。蹴りだしとドルフィンとピッチやな。もっかい確認してみるわ』

「うん。頼んだで。ほんなら、奈々美ちゃんに変わってくれへん?」

『おう、サンキュー』


 直哉はそれだけ言うと、スマホを奈々美ちゃんに返したようで、電話口から「変わりました」と声が聞こえてきた。


「奈々美ちゃん?今の動画を見て、直哉には、スタートの時の右足の蹴りだしと、ドルフィンキックを一回プラス、あと、ストロークピッチの確認を言うたから、もっかい飛ぶようならまた撮ってくれへん?たぶん、それで少し変わるはずやねん」

『さすがですね。この動画ひとつでそこまでわかって指示を出すなんて。わかりました。私も注意して見てみます』

「よろしくな~」


 それだけ返して、今度は私から電話を切る。さぁ、あとは、また直哉がもう一度タイムトライアルするかどうか。まぁ、もう一回するだろうな。とか思いつつ、椅子に深く腰を掛けて、場内の様子を見つめる。

 そこから十数分。直哉はむやみにスタート練習をするわけではなく、近くのコースで自分のフォームを見つめなおして、しっかりと調整したみたいで、またダッシュレーンに並んだところまでは確認できた。

 そして、そこからほんの数分。直哉の準備が整ったようで、またこちらに向けて手を上げて、準備できていることをアピールしてくる。

 それを見た私も、ストップウォッチが“0”担っていることを確認してから手を上げ、直哉に「いつでも飛び出していいよ」という合図を送る。

 とは言いつつも、たぶん、奈々美ちゃんが手で合図してくるだろうからわかりやすいんだけど。

 そんなことを思いながら、奈々美ちゃんが動き出すところを見ながら、直哉の足元をゆっくりと確認していると、奈々美ちゃんが手を振り下げると同時に、直哉の元で声を出しているのか、直哉も一緒に飛び出していった。


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