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Episode 216 沙良ちゃんの同級生が来訪

「ごめん、サブプールに行く前にメインプール寄ってくれへん?ほんで、間に合うようやったら1レーン側に行って、直哉たちのスターターをやってくれへん?タイム取っておきたいからさ」

「あっ、はい。わかりました。とりあえず行ってきます」


 そういうと、奈々美ちゃんは階段を降りて、プールの方へと向かって行った。


「えっと……。すいません。扇原商業のマネージャーさんでしょうか?」


 ふと横から声が聞こえてきて、そっちを振り向くと、上新学院のジャージを着た女の子が私の横にいた。


「はい、そうですけど……」

「突然すいません。上新学院1年の中森美菜子って言います。そちらに稲葉沙良がいると思うんですけど……」


 さっき奈々美ちゃんが行っていた子かな?下の名前は一緒みたいだし。


「うん。いるよ。今はアップ行ってるよ。今日はレースに出ぇへんねんけど」

「知ってます。奈々美から聞いてました。ただ、沙良がいつ頃に戻ってくるとかは……」


 何か深刻そうな貌をしているな。2人の間に何かあったことは聞いたけど、なんだろう。このちょっとしんどそうな表情は。


「さすがにそれは……。たぶん、うちの選手たちがレースに出るころには戻ってくるやろうけど、詳しいことまでは、ちょっとわからんな」

「そうですか。わかりました。また来ます。私が沙良に謝りに来たって伝えてもらえませんか?中学の時のこと、まだ謝れていないんで」

「うん。わかった。また沙良ちゃんには言うとくわ。ほんなら、レース、頑張ってな」

「あっ、はい。ありがとうございます。それでは失礼します」


 そういうと、その子は私の元から去り、チームの子たちと混ざった。

 それにしても、礼儀正しい子だったな。沙良ちゃんと喧嘩別れしたようには見えないんだけど、やっぱり、さっき奈々美ちゃんが言っていた話なのかな。

 だけど、謝りたいって言っていたけど、ここで沙良ちゃんとさっきの子が話し合って、さらに喧嘩別れして、レースに影響が出ると、さらにかわいそうだな。

 やっぱり、レース後にしてもらう?でも、それでタイミングが合わなくなったら……。でも、天秤にかけると、レースが終わってから話し合ってもらうほうが沙良ちゃんも混乱しないで済むかもしれない。

 ……うん。個人的な感情で申し訳ないけど、やっぱり、3日目のレースが終わってからにしてもらおう。

 そう思うと、荷物は撮られないように、簡単に上からみんなのジャージをかぶせて、少しだけ階段を降りて、上新学院がイルぶっろっくに向かう。


「すいません。上新学院の方ですよね。中森美菜子さんって子います?」

「中森美菜子?あっ、なっちゃんか。ちょっとだけ待ってください。なっちゃ~ん。誰か来とるよ~」


 後ろを振り向いて大きな声で呼ぶこの人。少し小柄だけど、肝が据わっているように見える。

 そんな人の声が届いたのか、さっき着た美菜子ちゃんがスルスルっと寄ってきた。


「部長、呼びました?」

「あっ、なっちゃん、お客さんやで」

「あっ、ありがとうございます」

「ほな、ごゆっくり」


 そういうと、部長と呼ばれた人は、私たちの元から去り、その部長もチームの輪の中に。


「ごめんな。さっき別れた直後やのに」

「いえいえ。どうかされましたか?」

「ほんまに個人的な感情で申し訳ないんやけど、沙良ちゃんをレースに集中させたいんよね。大阪の地区予選を両方とも全体の6位で来てるし、もう少しで全国のタイムに届き層やねん。やから、話すんやったら、2バタがをあった最終日にしてあげてくれへんかな?ほんまに一個人の感情で申し訳ないんやけど」


 それだけ言うと、美菜子ちゃんは「やっぱりか」っていうような表情をしていた。


「そりゃそうですよね。私もちょっと感情的になって動き過ぎました。さっき、うえをみたしゅんかんに、沙良がいると思ってみないようにしていたんですよね。……沙良は何か言ってましたか?私のこと」

「いや、けげんな顔で睨んでいたけど、それ以外は何も」

「そうですか。わかりました。それじゃあ、最終日、話してみます」

「あっ、せや。ほんなら、うちら、扇原商業は25メートルラインの一番上の近くにちょっとだけ陣取るつもりやから、それだけ覚えといてな。それだけ覚えとったら、当日、着やすいやろ?」

「わかりました。……でも、なんで初対面の私にそんなことを?」


 不思議そうに顔を見てくる中森さん。私のことがそんなに不思議なのかな。

 私としては、ただ楽しく競泳ができればそれでいい。私も、もちろん、周りのみんなも。だから、やっぱり、何かほっとけないのかな。なんて思ったりね。


「なんでって。自分でもスッキリしたいんやろ?それに、なんか悩んでるんちゃうん?顔が楽しくなさそうやのに」

「えっ……なんで。誰にも言うたことないのに……」

「う~ん。なんやろうな。なんとなくかな。あと、さっき階段を降りるとき、右足を引きずってるように見えてんけど」


 そう。さっき、登ってきたときには気づかなかったんだけど、チームの応援席に戻る時、少し歩きづらそうにしていた。


「さすが、沙良が言う通りの凄いマネージャーさんですね……。たしかに、私、チームには隠してますけど、右ひざに痛みを抱えています。たぶん、スタート練習のし過ぎでこうなったんだと思いますけど、幸い、炎症だけなんで、泳げないってことはないんですけど、やっぱり、ごくまれに膝が抜けた感覚になるときはありますよね。そのせいか、スタートの時、飛ぶのが怖くなって、タイムも伸び悩んでて、私も兵庫県大会で専門を変えて挑んだ半フリが6位でギリギリ通過してきました。半バタに関しては、全国のタイムにも全く届かなかったし、順位もボロボロでした。この現状を見て、中学の時、沙良に言ってしまったこと、身をもってわかりました。だから、謝りたかった。っていうのが本音なんですけどね」


 そういうとこか。なるほどね。謝りたかったって言う理由がよく分かった。

 だけど、やっぱり、まだ沙良ちゃんを混乱させるわけにはいかないよね。


「そうやったんやね。やけど、無理したらあかんで。せやないと、絶対に今後の活動に影響するから。それだけは言うとくな」

「あっ、はい。ありがとうございます。それじゃあ、失礼します」


 そういうと、中村さんは、またチームの輪の中に混ざっていった。


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