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Episode 213 アップの様子を見守る

「そうだったんですね。でも、これで全部納得がいきました。咲先輩が地区大会で見せたあの泳ぎがあるのに、選手やなくてマネージャーとして活動してる理由が」


 奈々美ちゃんもずっと不思議だったらしいね。私がなんでマネージャーをしているのかって。


「とりえず、今は選手たちを鼓舞できるように陰ながら支えることやね」

「ですね。遊菜先輩と原田先輩は、たぶん、いつも通り咲先輩に任せてもいいと思うんです。ですので、沙良は任せてくれません?」


 一番理にかなっているかと思う提案をしてくる奈々美ちゃん。だけど、私はそういうわけにはいかないと思っている。


「そういうのはなしやね。うちはみんな平等に支えるつもりやし、ベストが出るようにマネジメントするのがうちらの仕事やねんから」

「そう言われるとは……。さすがスーパーマネージャーですね……」

「よく言うで、ほんまに。スーパーマネージャーでも手綱が録られへん選手がおるって言うのにさ」

「それは、特異ですよ。でも、咲先輩のメニューで伸びたって言うところはあるんじゃないですか?そこは自信をもっていいと思いますよ」


 たぶん、今回のこの大会に出る3人のことを言っているんだろうけど。

 そんなことを思いつつ、「やったらええねんけどね」とだけ返して、プールの方を見る。

 さすがに、最上段からだと遠いか。直哉と遊菜の姿を見つけるのは難しすぎる。……どこにいる。


「そんなに険しい顔してどうしたんですか?」


 それほどすごい顔になっていたのか?なんて思いながら、奈々美ちゃんの質問に答える。


「直哉と遊菜の姿をね。2人の泳ぐ様子と1本飛ばしたタイムを採りたいんよ。そうせな、アッププールでのメニューが立てられへんしね。それに、うちが1人の時、荷物持ってアッププールまで行けれへんし。別にそんなこと気にせんでええやん。って言われるかもしれんけど、直哉たちのアップは、うちの作るメニューをちゃんとこなしてレースに挑んでるからって言うのがあるんよね。とはいいつつも、うちが見抜けんくて、調子が悪いって本人らが感じてたら、勝手に追加して泳ぐしな。やから、うちは行かんとある程度のメニューを渡して、本人らに任せてるんやけどね。やけど、メインプールでのアップは、うちがメニューを伝えてやってもらってるんやけどね」

「なるほど。そういうことやったんですね。やっぱり、ほかのマネージャーとは見るところがちゃいますね。なんなら、マネージャーというよりはコーチですね」

「やってることはほんまにコーチやで。ってか、なんでうちがこんなことしてるんかが不思議やねんな。そのせいでっていうのはおかしいかもしれんけど、日本代表の選手に目を付けられるし、メディアからも直哉と遊菜のついでに取材依頼が来るしさ。うちの高校人生は、ちゃんと勉強して、バイトして、楽しい高校生活を目論んどったのになぁ」

「沙良が効いたら大発狂しそうですね。信用してきてますし。そんな先輩が本当は心折れてたってきいたら」

「沙良ちゃんよりも前に、直哉とか遊菜とかみんなが発狂するやろうな。とりあえず……。おっ、おったおった。ご丁寧にいつもの恰好やんか。ありがたいわ」


 そんな言葉がぽろっと零れると、奈々美ちゃんはビックリした表情を浮かべて、顔をグイッと向けてきた。


「えっ、この距離からわかるんですか?」

「せやで。メインプールのところ、よう見てみ。3レーンのスタート側。ピンクのスイムキャップと水色のスイムウェアの2人。直哉と遊菜やから、試しに、こっちから手を上げて観?うちらやと認識したら直哉が手を上げ返してくれるはずやし」


 そういうと、奈々美ちゃんは恐る恐るプールの方を向いて手を上げた。

 すると、さっき言っていた恰好をした直哉が手を上げた。


「うそやん!そんなことあんの?」

「なっ?言うたやろ?あれ、直哉やからね。とは言いつつも、普段は逆やねんけどね。直哉から私にてを上げてきて、私がそれに応えて、どこにおるか把握するって言うね。とりあえず、アップで200くりあ泳がして、そのあと、キックとプルで200ずつ行ってから、スタート練習してもらって、その1本目でタイム取りして、数本だけスタート練習させて、流させようか。入り口で話している感じ、いつも通りやったし」

「そ、そんなところまで見抜いてるんですか?」

「最初にここで集合した時、軽く話したやろ?そのときにだいたいの調子はわかるんよ。遊菜は学校で見せるときよりハイテンションやったら絶好調やし、直哉は、遊菜と合流した後、ハイテンションな遊菜を見て毒づいてると調子はよさげ。それがなかったらちょっと不安になるけどね。沙良ちゃんに関して柄は、まだ様子見ってところかな。私に対して、まだ本音を見せてない気がするし、さっきのこともあるし」

「なるほど……。やっぱりスーパーマネージャーだ」


 奈々美ちゃんからキラキラした目をしている横で、私は直哉たちにサインでメニューを伝える。


「で、今のは?」

「あっ、これ?メニューのサイン。ここからだとさすがに声が届かないから、簡単にメニューを伝えられるなら簡単でしょ?去年からずっと使っているから、直哉もちゃんとわかってるし」

「でも、遊菜先輩は?目が悪くて見えてないんじゃ?」

「直哉が横で伝えてる。まぁ、アップのとき、遊菜が度入りのゴーグルをしているなら、それを通して見てるみたいやけど。……うん?なんや?何を待ってほしいんや?」


 直哉が手を振っているのを見て、何かを待ってほしいことはわかった。だけど、その何を待ってほしいのか。

 メニューを伝えてほしいって言うなら、頭・腕・水面の順で触ったあと、手を上げてくるはずやねんけど。


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