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Episode 211 ひとつの踏み台として

 地区大会からわずか1週間しか経たずに訪れた中央大会。直哉と遊菜は、さすが全国覇者だね。といわせるような圧巻の泳ぎを見せ、無難に近畿大会へとコマを進めた。

 あと、同じように中央大会に出たギータだけど、予選でしっかりとパーソナルベストを出したものの、もともとギリギリでこの大会に進んでいたこともあり、1バタで110人出ていたこの大会で75位と、あまりいたくない言葉だけど、撃沈。

 対して、沙良ちゃんは、なんとか滑り込むようにして、100メートルバタフライ、200メートルバタフライともに、予選も決勝も全体の6位でなんとか近畿大会にコマを進めた。


 その中央大会から3週間後。近畿大会が兵庫のポートアイランドで開かれる。

 直哉と遊菜は油断さえしなければ、この上の全国大会に進むのは間違いないだろう。というのが私の目論見でもあるし、普段からレースを楽しんでいる2人だから、油断することはないと思っている。

 ただ、ひとつ気になるのは、直哉も遊菜もシーズンベストがイマイチ伸びてこないこと。

 だいたいで言えば、半フリが去年のこの時期に比べたら速いものの、パーソナルベストから1秒弱も遅れている。

 たったそれだけの落ち度ならなんてことないじゃん。っていう声があるかもしれないけど、100分の1を争う半フリで1秒弱も遅れているというのは、かなり致命傷だと思わない?


「あ~っ、クソっ!なんやねん。あの違和感がとれへんのが気持ち悪いわ」


 直哉は、ダッシュメニューが終わると、かなりイライラするようになった。

 中央大会が終わってからずっとこんな感じ。なんとか、遊菜は影響を受けていないみたいだけど、なんとかして直哉の機嫌を直したいのはずっと考えている。

 とりあえず、いろいろ探したいから、メニューを進めるか。

 私もなんとか違和感の正体を見つけて上げられたらいいんだけど、なんにせよ、違和感の正体がわかるまで、私もあまり口出しができない。

 正直、変に口出しをして、今のフォームを崩して別物になるのも怖いし、それでタイムが一気に落ちる可能性だってある。

 それに、近畿大会まであと数日って言うところまで来ている。

 さすがに、調整時期に入っているって言うのに、そんな怖い真似ができるわけがない。

 そんなことを思いながら、解決策も見いだせることもなく、近畿大会を迎えてしまった。

 やるしかないか。早朝の電車の中でポツリと呟いた直哉。何かを無理やり割り切ろうとしているようにも感じた。


「とりあえず、全力は尽くすか~」


 練習のときみたいなイライラが今はないように見えるけど、どうだろう。レース直前で何も起こらなかったらいいんだけど……。


「あえて聞くけど、調子はどうよ」

「まぁまぁちゃうか?違和感の正体がわからへんだけで。何とかしたいって言うのが本音やけどな」

「ルースンとかFCのときにはなんにもないのにな」

「ほんまやで。2年目のジンクスかななんかな、これが」

「そう言われても不思議やないんよな。たいして遊菜はそうでもなさそうやし。なんなんやろうな」

「あかん。やめとこ。考えただけでモヤモヤする。今はやめとこ。終わってからいろいろ考えるか」

「そのほうがええんちゃう?」


 直哉にはいろいろ考えずに突っ込んでいってほしい。

 そのほうが直哉らしいしな。

 とりあえず、遊菜と沙良ちゃん、あとマネージャー研修として奈々美ちゃんを呼んでいるから、一緒に合流しないと。それからじゃないと話が始まらない。


『アクアアリーナに着きました。遊菜先輩も沙良も一緒です。正面玄関の真正面にいます』


 送ってきたのは、まさに合流しようとしている奈々美ちゃん。

 タイミングが良かった。というのも、私も直哉ももう同じ敷地内に足を踏み入れていたから。

 このタイミングで3人の居場所がわかっているなら、探し回らずに済むからありがたい。


「3人とももう正面玄関におるってさ」

「早すぎるやろ。まだ開場まで30分くらいあるやろ」

「それくらいあるけど、去年の遊菜もそんな感じやったで。愛那を振り回して好き勝手やってたやんか」

「あぁ、そういえばそうやったな。まぁ、あいつがあいつらしくてええやん。そのほうがこっちの調子も狂わされんで済むやろうし」

「やと思うけどな。っと、そんなこと言うてたら、ほら、あれ。絶対遊菜やろ」


 私の目に入ったのは、正面玄関の前で落ち着きなくソワソワしている遊菜。その両サイドには奈々美ちゃんと沙良ちゃんがいるのがわかる。

 なんでわかるかと言ったら、やっぱり輻輳よね。

 居禰円の見つけやすさという点を踏襲して、上が黒のクラブTシャツ、下は真紅のジャージなんだから。もちろん、その逆も今年は用意した。

 ただ、3人とも一緒の恰好をしているからすぐに分かったこと。誰かひとりが真紅のTシャツに黒のジャージというかっこうなら、たぶん、見つけ切れていないだろう。


「あっ、咲ちゃん!おっはー!」


 朝からとても元気な遊菜。レースが楽しみってところなんだろうけど、それにしても元気すぎる。その遊菜を少し引き気味に見ている沙良ちゃんも奈々美ちゃんもいつも通りって感じかな。


「うん、おはよう。相変わらず、元気やな。調子もよさそうやし、言う事はなさそうやな」

「やと思うで。とりあえず2連覇すんで!」

「はいはい。落ち着いてな。で、沙良ちゃんはどう?」

「そうですね。昨日もちゃんと寝られたんで大丈夫だと思いますよ」

「奈々美ちゃんは?」

「わたしも大丈夫ですよ。……ってか、私、泳がないんですけど」


 ついでにっていう形だけど、奈々美ちゃんにあえて振ってみたけど、ちゃんと反応が返って来て安心した。


「うん、知ってる。ついでに聞いてみただけ。朝から遊菜の子守りを任せるような形になってごめんな。めっちゃうるさかったやろ?」

「いえいえ、朝から元気な遊菜先輩を見て、いつも通りだなって思えたんで、変な緊張なんかないですね」

「私も奈々美と一緒ですね。変に気負わなくていいんだって思えるんで」

「俺もそれは同感やな。こうやっていつも通りの大神を見てると、なんか安心するんよな。こいつがどこおっても一緒やし、レースになると、前を泳ぐのに、俺を敵対視するんやから。やけど、陸におるときのおてんば具合は、あっ、こいつはいつも通りや。ってなるから、俺も落ち着けるんよな」


 と、それぞれ遊菜がいることによる効果を感じているみたい。

 もう、扇商のマスコットキャラクターだな。こりゃ。

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