Episode 20 お昼休憩
「美咲ちゃん、お疲れ様~。助かったよ。あとはタイムを書いて提出するだけ。微妙な鮎ちゃんも一応書いたけどええよな?」
教室に入るとすぐに沙雪先輩が労いと感謝の声をかけてくれる。
そして、控室では、私がレースの展開を送っていたのを確認していたのと同時に、次の大会に出られる選手の出場申請書を書いていた。
「あっ、鮎川さんですけど、公式タイムは切ってました。でも、なんとかです。あと、公式タイムは、扇商が出たレースを全部撮ってきていますんで、参考にしてもらったら」
「おっ、美咲ちゃん、やるやん。あたしが欲しいもん全部わかってるんちゃうん?」
「そんなことはないですよ。私はマネージャーとして必要なものを集めるだけですから。こういったタイムとか知識とかを」
いつもそう。自分が欲しいと思って持ってくると、いつも誰かとかぶる。だから、空気を読むこと思われているけど、実際はそんなことない。
私が欲しいからもってけ売るだけ。なんでそれをいいように解釈するんだろうといつも思う。顔には出さないけどね。
「よし。あとはお昼からやね。お昼からもよろしくな。ほんで、お昼一発目は……」
「混継からですね。そのあとにロングの鬼レースがあったとに半フリですね」
「そうか。混継か。飛鳥、あんた準備しときよ。昼一発目やで」
棚橋先輩は、「あいよ~」と言うと、壁際に身体を寄せて、昼寝を始める。
その姿を見た沙雪先輩は「そういうこととちゃうねんけどなぁ」と、言いながらため息をついた。
「まぁええわ。あとでなんとかしよ。美咲ちゃんも休憩しぃな」
そういうと、沙雪先輩はお弁当の中身を頬張る。
さて。私もそろそろおなかすいてきたし、何か食べてまたプールに戻ろうっと。
そう思うと学校を出て、すぐ近くにあるコンビニに向かう。そこで簡単にサンドイッチとリンゴジュースを購入し、教室に戻り、サクッと食べる。
「お疲れ~」
サンドイッチを食べきったころに、思い切り伸びをしながら教室に入ってくる遊菜。その顔は少し眠そうにも見える。
「遊菜~、起きとる~?」
そう言いながら、遊菜の目の前で手を振る。
「起きとるよ~。そんなことよりさ、うちの頭のタイムわかる?あそこのやつ、トータルタイムしか出させへんしさ、それに、咲ちゃんのタイムが1番信用できるし」
なんか、そういわれると少しうれしいし、照れるなぁ。とか思いながら、スプリットブックを手に取り、遊菜のタイムを探す。
……あった。
「えっとな、遊菜は、ファーストハーフが7秒22やね。今季最速の入りやわ」
「マジか。でも、まだ早くなれるな。ほんなら次は半フリやし、ドルフィン1回少なくしてみようか。目標は6秒に割り込めたらええな」
こんなに環境が悪い中でそれほどのタイムを目指しに行く遊菜は少しどうかしているのだろうか?私なら、あのコース台に昇った瞬間に諦めると思うのに。
この環境であれだけのタイムを出せるんだったら、もっといい環境になればもっとタイムが伸びて、日本記録を出したりするんだろうか。
……。まぁ、そんな簡単に行っては私も大混乱になるだろうけど。
そんなことを思いながら、残っているジュースを流し込むと、立ち上がってプールに行こうとする。
「遊菜、ご飯は食べたん?」
「もう食べたで。やけど、直ちゃんみたいに、食べた後すぐ動けるわけとちゃうし。ちょっとだけゆっくりしてから向こう行くわ」
「了解。まぁ、ゆっくりして消化させるのが普通やねんけどな。まぁ、また泳ぎや。混継もあるんやから」
「言われんでもします~」
そういうと、遊菜は少し口を尖らせた。そんな遊菜も可愛らしい。
「ほんなら、うちは先に行くからな。愛那、また荷物番よろしく」
「了解でありんす~」
愛那は笑わせるように言うと、遊菜が吹きだす。
本当に、この部には笑わせる人しかいないんだろうか。部長もそうやし、ひょろり先輩をはじめ3年男子の先輩も、成海先輩も、遊菜も愛那も沙雪先輩も。本当に恵まれているよね。この部活。
入学した時に、野球部とかサッカー部のマネージャーに勧誘されたけど「興味ない」という一言と冷たい視線で無視をしたこともある。
ただ、水泳部に関しては、そんなことをしなかった。だって、沙雪先輩も優しいし、愛那も遊菜も面白い。本当に水泳部に入ってよかったな。と。
絶対ほかの部活より水泳部が1番でしょ。
そんなことを思いながらプールに。
そして、センターレーンで泳いでいる直哉をすぐに見つける。
相変わらず派手なスイムキャップだな。とか思いながら泳ぐ姿を見つめる。
キックっもほぼせず、軽い力でスーッと進んでいく。
力が入っていないのに、ゆったりとしたドルフィンキックでも、1回でグンと進み、1掻きするだけでスーッと前に進んでいく。
私もこんな風に泳ぎたかったなぁ。なんて思いながら直哉を見る。




